登場人物が生き生きと柔道を魅せてくれる漫画
ひとりひとりが主役だった
バトル物、スポーツ物の少年漫画の主人公はほぼ大体が最後に勝つ。たとえ最初は弱くても、最後に美味しいところをさらっていくのは主人公だ。脇役は決して彼にかなわない。彼より活躍することもない。
私は『帯をギュッとね!』が好きだが、それは、脇役もみんなそれぞれにちゃんと勝つからだと思う。
主人公と仲間は中学生の頃出会い、同じ高校に進学した柔道に打ち込む男子たちだ。一対一の柔道だから、結局主人公の一人勝ちなのかと思うがそうではない。柔道には体重別の階級があるので、脇役たちも各階級で個々に輝きを見せることができる。そして、漫画の中で何よりも盛り上がるのは団体戦だ。
先鋒、次鋒、中堅、副将。大将として主人公が出てくるまでに、四人の仲間たちは、それぞれの戦いに勝利し、または強敵相手に勝ちに等しい引き分けをもぎ取った。その各試合において、間違いなく四人は主人公だった。脇役である彼らの努力も、主人公のそれと同じように報われたのだ。もちろん最後に一番の強敵を倒すのはもともとの主人公だけれど、私は各キャラクターに対する作者の愛情を感じ、とても満足した。
主人公より人気のある脇役がいる?
『帯をギュッとね!』の脇役たちは、とにかくひとりひとりが魅力的だ。漫画の作者は主人公をより活かすために脇役のキャラクターを設定し、描くのかもしれないが、この脇役たちは、主人公の引き立て役にとどまってはくれなかった。連載当時行われた人気投票で主人公はなかなか一位になれなかったのだから、その手強さたるやである。
『帯ギュ』の登場人物たちは、自由に生き生きと動き回る。五人だけだった柔道部に新入部員が増え、女子が入部したことから男子だけのものだった戦いは女子柔道にも広がっていくし、彼らが強くなるたび、新たな強敵が現れる。私は出てくるキャラクターひとりひとりにちゃんと背景を感じ、愛着を持ってしまう。
主人公の成長や恋を真ん中に、脇役それぞれの成長、ライバル、恋が何本も道を作って展開し、そのすべてを応援したくなる。飽きる暇がないのだ。
『帯ギュ』が教えてくれた柔道というスポーツ
読み始めた当初、私にとって柔道は身近なスポーツではなかった。やっている友達もいなかったし、テレビでもあまり見る機会がなかった。
そんな私に『帯ギュ』は、魅力的なキャラクターたちを通して柔道の面白さを教えてくれた。大体のルール、用語、技の迫力、勝つことの難しさ、残り秒数僅かでも逆転できること、一本の気持ちよさ。この漫画を読まなかったら、オリンピックの柔道をテレビの前であんなにドキドキワクワクしながら観戦し、その戦いに感動することもなかったかもしれない。
完結した際のあとがきに、作者から柔道の指導者だった父親への思いが込められていたことを記憶している。この漫画には、柔道を愛する思いがギュッと詰まっていた。
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