「真の未来のカシラ」にふさわしいヒック - 深海の秘宝の感想

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深海の秘宝

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「真の未来のカシラ」にふさわしいヒック

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目次

カシラの資質を持つヒック

自他共に見た目も強さもヒックよりカシラの後継ぎにふさわしいスノットですが、人食い族の慣わしで「カシラの後継ぎを食べる」と言われるととたんに黙ってしまいます。それとは対称的にヒックは自分が後継ぎだと名乗ります。スノットは戦いの演習でヒックを殺そうと企てていましたが、実際に殺さなくて助かったのはスノットだったといえるでしょう。こう見てみるといくら力が自慢のバイキングでも、ただつよいだけではカシラとしてふさわしいとは言えないのかもしれません。誰でも自分の身に危険を感じれば、自然と自分の身を守ることを優先してしてまうでしょう。その点でいえば自らカシラの後継ぎだと名乗り出たヒックのほうが、やはり後継ぎとしてふさわしかったと言えるのかもしれません。それは自分のほうが後継ぎにふさわしいといっていたにも関わらず、せっかく後継ぎとして名をあげられるかもしれないチャンスを棒にふってしまったスノットと比べても歴然です。

責任者になったり長になったり、組織のなかでの最高責任者になりたいという願望は誰もが持っているのではないでしょうか。なぜなら最高責任者に選ばれるということは、自分の能力が認められたと承認されたことになるからです。しかしそれはあくまで最高責任者になって自分の力をみんなに知らしめたいということが目的であり、なった先のことを考えての願望ではないと思われます。なぜ最高権力を手に入れたいのか、目的が「何かを成し遂げるためにどうしてもその権力による力が必要」であったり、「その地位でしかやることのできない仕事」であれば、その地位に就くことはあくまでも何かを成し遂げるための通過点にすぎません。しかし最終目標がその地位に就くことだった場合は、その地位に就いてからどうしたいのかが定まっていないため、権力に溺れて暴走したり、逆にプレッシャーに負けて責任から逃げ出してしまったりするのでしょう。スノットの場合、まさにこのタイプだったといえるでしょう。

真の未来のカシラとなる者へ

海底に隠されたゴーストリーの宝には、ゴーストリーが宝を手にしたために失ったものへの思いが綴られた手紙がありました。強欲で残忍だったゴーストリーですが、いざ宝を手にし自分の人生を振り返ったとき、宝以外には何も残っていなかったことに気づいたのでしょう。ヒックは生涯この宝のことを秘密にしていましたが、もちろん独り占めするためではありません。この宝のために仲間たちが争ったり、堕落したりすることがないようにと思ってのことだったでしょう。ほんとうに自分の行いを悔やみ、子孫に同じ道をたどってほしくないと心から思ったゴーストリーの言葉だったからこそ、強欲さに負けることの恐ろしさがヒックに伝わったのかもしれません。

目も眩むような宝の山よりも、無事に帰り着くことを優先にしたり仲間のことを思ったりと、何か決断を迫られるような状況の時にヒックはつねに冷静に判断を下しているように感じます。真のカシラとは、このように今おかれている状況から、どのようにしたらよいかを個人的なことを抜きにして判断し指示ができる人なのかもしれません。

左利きだと知らなかったヒック

ヒックは、右手をけがしてはじめて自分が左利きだと知ります。周りが右利きばかりだったので特に疑問を抱かなかったのかもしれません。それにしてもまだ物心つかないときは、左で自然と物を持っていたでしょうから、少なくともストイックは気づいていてもおかしくないと思われます。それに気づいていなかったとしたら、ヒックの「お父さんは自分の話を聞いてくれない」という思いは気のせいではなかったのでしょう。話を聞いていないどころか、ちゃんと見ていなかったことになるのですから。

ここでは右利きだと信じて疑わなかったヒックですが、そもそもバイキングの世界に「利き手」という概念がなければ、自分はどちらが使いやすいだろうとは考えないかもしれません。「字を書くのも剣を握るのも右手」といった具合に、使いやすい手を使うというのではなく用途によって使用する手が決まっているのであればよけいです。このように自分で考えて選ぶのではなく、環境によってそうなるのが当たり前になっているものが気づかないだけで実はたくさんあるのではないでしょうか。当たり前なので疑うという考えが起こるわけがありません。しかし大半はそれで問題がなく過ごせたとしても、すべてうまくいくわけではありません。ヒックも左手に剣を持ったとたん、思うように振るうことができなかったため自分でも下手だと思っていた剣の扱いが、思い通りに剣を動かすことができるだけでなく剣さばきもうまくできるようになっています。このように、自分では下手だと思っていたりうまくできなかったりすることのなかには、やり方や考え方が自分に合っていないだけのものがあるかもしれませんね。

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