結果に納得できるスポーツアニメ
スポーツもの2つの方向性
スポーツものの作品には大きく分けて2つの方向性がある。常勝チームを描くかそうでないかである。つまり、「ドカベン」や「キャプテン翼」のように常に優勝を狙うチームを描くものと、「キャプテン」や「がんばれ!キッカーズ」のように弱小チームがだんだんと強くなっていく様子を描くものに分けられる。後者のパターンの場合、弱小チームに一人技術とやる気を持ち合わせた主人公が加入して、チームワークの大切さや強くなることへの願望をチームメイトとぶつかったり友情をはぐくんだりしながら思いを強めていき、だんだんと力をつけていく、というストーリーが特徴である。本作もこちらのパターンではあるが、趣はかなり違っている。
メンタルトレーニングと心理戦
その一つがメンタルトレーニングの活用である。スポーツに必要なホルモンを日頃の生活の中で意識して出すことで、反射的にホルモンを出す体にして効率よく練習し、試合でも集中でき自分の持っている力を十分に発揮できる体作りをしている。また、試合中の緊張を和らげるために、練習開始時に瞑想する、ピンチやチャンスなどで落ち着かせるために3塁ランナーを凝視するなど、これも自分の持っている力を臆することなく発揮できるようにするために行っていることである。もう一つ、心理の読みあいがとても細やかに描かれていることである。いままでの作品にも心理戦が描かれることはあったが、それは試合の主要部分だけであることが多い。しかし本作では最初から最後まで本当に丁寧に描いているのが大きな特徴である。だから主要な試合では1試合を描くのに10話以上を要している。
説得力のある結果
この結果どういうことが起きるかというと、どういう結果が出るにしろ、説得力があるし納得できるのである。これは本作品に惹きつけられる大きな要因であろう。スポーツもの作品の弱点は“フィクション”であることである。本物のスポーツのだいご味はなんといっても“筋書きのないドラマ”であろう。先が見通せない、どうなるか分からないからこそ、どのような結果が出るにせよプレーに感動するわけである。ひいきチームがいい結果が出るように応援するし、ワクワクするのである。しかし、マンガにしろ小説にしろアニメにしろ所詮はフィクションであるからこの部分はどうしようもない。主人公たちが勝つ、という分かりきった結果に向かってその向かわせ方で魅せるのか、結果よりもチームワークやこれまでやってきたことを信じて思い切りプレーする姿を描くことで魅せるのか、というのがスポーツもの作品の魅せ方であった。が、本作は違う。もちろん技術力もあるが、メンタルの面、丁寧な心理戦を描くことでノンフィクションに書きせりなく近い状況を作っているのである。常勝チームでないので、原作を知らなければ展開が読めない。本当に手に汗を握りながらワクワクして見ることができる作品なのである。夏の甲子園予選2回戦、桐青高校戦の5回表、西浦高の攻撃、1死1,3塁、バッター栄口の、スクイズの読みあい合戦などはその最たるものであろう。3塁ランナーがピッチャーであることも大きな要素である。桐青高の監督の思惑が1球ごとに描かれていく。野球を少しでもやっていれば自分も同じことを考える、と思う人が大勢いるはずである。それほど自然な考え方なのである。シンプルではあるが駆け引きがあって、それが丁寧に無理なく描かれているので説得力を持つわけである。4球目の後のモモカン(西浦高の百枝監督)の思惑も自然なのである。この4球で相手がどう考えを変えたかという状況判断が見事である。この5球の心理の読みあい、結果はスクイズ成功となるわけだが、見ていて鳥肌が立つ思いがした。このスクイズ成功の陰に先に述べた心理面の鍛錬の効果があることは言うまでもない。5球目、投球を外されたときにも冷静にバットに当てられたというのは、まさに心理面の強さが出た結果であろう。最終回の逆転打を放つことになる田島や、9回裏、バックホームをする花井にしても、同じことが言えるだろう。
スコアブックをつけながら
主要な試合に関しては、その試合のすべてが描写されている。1イニングはおろか1球たりとも飛ばしていない。だから、やろうと思えばスコアブックをつけながら見ることも可能なのである。スコアブックをつけていると、さらに深いところの心理も読むことができる。例えば三橋がここまでに何球投げているから疲れが来ている、とか、前の打席でヒットを打たれているから抑えてやろうという気持ちが強くなっているとか。それは攻撃陣も同じで、それまですべて凡退の第3打席で今度こそは打ってやろうと意気込んでいるだとか。もちろん、作中でも描かれてはいるが、スコアブックで見てみると、また違った心理の考え方ができるはずである。ぜひお勧めしたい見方である。
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