櫻井吉本の破壊力
私はアラフォーだから家族ゲームと聞けばやはり思い出すのは長渕剛である。当時小学生だった私は、長渕演じる破天荒なあの家庭教師を目にして衝撃を受けた。親の前だろうが生徒を殴る蹴る、引きずり回す、もはや勉強の範疇を超えてあのアパートの狭い勉強部屋は人間力をためす鍛錬の場と化していた。しかし不思議とこの暴力教師に嫌悪感は感じなかった。おそらく、そこに愛情があったからであろう。長渕版家族ゲームは、最後は非常にやるせない終わりを迎え、良くも悪くも私の中で忘れられない一作品となった。そんな作品を、平成の今、トップアイドル嵐の櫻井翔が演じる、と聞いたときは申し訳ないが鼻で笑ってしまった。あの作品を櫻井くんが…?恐らく無理だろう。そう思った人は多かったのではないだろうか。
しかし予想は裏切られた。櫻井翔、素晴らしかったのである。異常なる家庭教師、吉本荒野を完全に演じきっていた。そしてこの作品は登場人物1人ひとりが光っていた。自分の出世しか頭にない父親、自分を守ることで精一杯で子供に無関心な母親、優等生のふりをしながら心に狂気を秘める兄、いじめによる不登校に苦しむ弟。彼らの住む豪邸は美しいのだが寒々しく、彼らの関係を象徴するかのようだ。その中に吉本荒野が入って、すべてを壊していく。その壊し方は凄まじく、テレビを見ながら何度も途方にくれた。人間は死を感じた時に初めて生を感じる。彼の言葉だ。吉本は、バーチャルのような今を生きるこの家族を時に死を感じさせながら、生に目覚めさせて行く。
最後はこの家族たちは豪邸を自ら破壊していく。この行為を経なければ、彼らの家族の再生はなかった。家族の死、そして誕生。長渕吉本は家族の再生までは残念ながらできず、その空しさが私の人生の中で何度も反芻されるのであるが、櫻井吉本はそれを成し遂げだ。とても、清々しい最後であった。良い意味でこの作品を切なく思い出すことはないだろう。
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