タイトルに騙されてはいけない コメディ映画
いわゆる「ごちそう映画」と思っていると痛い目を見るコメディ映画
『シェフ! 〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜(以下、シェフ!)』は、2012年にフランスで制作されたコメディー映画だ(ちなみに、似た名前のアメリカのドラマ作品もあるので注意していただきたい)。
世界中の多くの飲食店で「美味しいお店」の指標となるミシュランガイド。その最高位の三ツ星の座に20年間輝き続けているレストラン「カルゴ・ラガルド」のシェフ・アレクサンドルが、三ツ星の座を守るべく奔走するコメディー作品だ。
古臭い時代遅れの料理と批評されることが多くなったアレクサンドルだが、老人入居施設で自称天才シェフのジャッキーと運命の出会いを果たす。ジャッキーの腕を見込んで、助手として起用し、三ツ星の死守のため二人は努力する…というストーリーになっている。
アレクサンドル役は、名作『レオン』や、某車会社のCMのドラえもん役でも日本人に馴染みが深いジャン・レノである。
アレクサンドルは威厳ある三ツ星レストランの有名看板シェフであるが、カルゴ・ラガルドの社長にクビをささやかれたり、才能はあるが空気を読めない助手のジャッキーに振り回されたり、娘ともうまくいっていなかったりと、散々な立場だ。
かと思えばヌーヴェルのレストランの女オーナー・キャロルに恋してあっさりシェフの座をジャッキーに譲ってしまうなど抜け目ない一面も持ち合わせており、実に個性豊かで味のあるキャラクターである。
怒るときにはちゃんと怒るが、基本的にノリも良い。どことなく、『ルパン三世』シリーズの銭形警部を思い起こさせるキャラクターだ。
アレクサンドルのキャラクター設定だけでなく、『シェフ!』は全編を通してコメディータッチの作品となっている。マイペースなジャッキーをなだめるアレクサンドルの大人の対応や、二人が日本人の夫妻の恰好をしてレストランに潜入するシーンは噴き出すこと間違いなしである。
『シェフ!』は終始軽快なタッチで、難しい陰謀や展開もなく、あっさりと観られる作品だ。
結末はやや上手くいきすぎな気もするが、コメディはこれぐらいキレイに纏まっているほうがいいだろう。なんとなく映画を観たくなった休日に、寝そべりながら鑑賞するのがちょうどいい作品である。一人で鑑賞するのもいいが、人と一緒に見ればもっと面白くなること間違いなしだ。
面白い作品だが、主人公にガチでイラつく
『シェフ!』はコメディー映画としては大変に面白く観れる作品ではあるが、あえて欠点を挙げるなら、マイペースすぎる主人公・ジャッキーにイライラするという点だろうか。
ジャッキーは分をわきまえず上司やオーナーにも平気で自分の料理へのこだわりを押し付ける人間だ。いわゆる典型的なKYタイプである。このKYっぷりがコメディーらしい面白さを演出しているのかもしれないが、観ていて少々イライラしたというのが正直なところだ。
もちろん、このジャッキーの性格は人間関係に支障をきたし、時に非難を浴び、トラブルを招く。おまけに嘘もつくので、恋人であるベアトリスともあわや破局というところまでいきそうになる。
ジャッキーのKYが物語の流れのために必要なキャラクター付けと言われてしまえばそれまでなのだが、たまに見ていて看過できなくなることも多いのも事実だ。
では、なぜここまでジャッキーの行動が目につくのか。
もしかしたら、目の前の人に偉そうに意見するところが、序列社会である日本人にとっては鼻につくのかもしれない。あんなことを日本でやったら、間違いなく就職出来ないだろう。板前やシェフなど職人的な調理人たちは、特に厳しい徒弟制のなかで修行を積むことが有名である。
自由奔放、自分勝手で空気を読めないジャッキーが「カルゴ・ラガルド」の他のシェフたちを差し置いて厨房のリーダーになるのが納得いかない、もっといえば面白くないのだ。
これはあくまで狭量な日本人の一意見だが、視聴した人々はジャッキーの性格をどう思っただろうか。
邦画タイトルは本当にセンスがない
原題は『Comme un chef』となっており、訳すると「シェフのように」だろうか(フランス語は全くわからないので、少し雑な訳になっております。すみません…)。
だが、邦題は見てのとおりである。「シェフ!」まではいいとしても(この「!」もセンスがなくて嫌になるが)、「三ツ星レストランの舞台裏へようこそ」の、「三ツ星レストランの舞台裏」とは何のことか曖昧すぎるし、「ようこそ」なんて作品タイトルとしてはかなり退屈なフレーズだ。
「三ツ星レストランの舞台裏」とは「星を維持する苦労」とでも変換すればよいのだろうか。それにしてもあってもなくてもいい副題ではないだろうか。コメディー映画らしいタイトルでもなく、作品の魅力が微塵も感じられない。もともと原題がシンプルだから何か付け加えようと思ったのかもしれないが、それならばそれでもう少し工夫をしてほしかった。
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