確かな人気もアニメ化には至らず『Mr.FULLSWING』
ギャグとスポ根融合の成功作
『Mr.FULLSWING』は週刊少年ジャンプ上にて連載していたギャグ×スポーツ漫画だ。ジャンルの垣根なく引っ張ってきたパロディから生み出されるマニアックなギャグと、能力モノのスポーツ勝負、友情・努力・勝利を根幹に据えたスポ根展開がバランスよく織り交ざり、『ミスフル』の愛称をもって人気を博した。
特に個性的なキャラクターは女性読者の支持を集め、二次創作界隈においても活況を呈したのである。
週刊少年ジャンプの漫画は二次創作界隈の人気が一定以上集まることで知られているが、『Mr.FULLSWING』はアニメ化もしていないのに、コミックスの人気だけで同人市場が賑わった。これは極めて異例の事態である。
キャラクターは女子に、お下劣なギャグは男子にウケ、『Mr.FULLSWING』はジャンプの準看板作品として5年もの間、連載を続けていった。その魅力をもっと詳しく考察していこう。
特殊な語尾、キャラ特有の能力 特濃のキャラクターこそ『Mr.FULLSWING』の華
個性的なキャラクター、と一口で言っても、『Mr.FULLSWING』のキャラは他の漫画のそれとは一線を画す。
まず、主要キャラのほとんどはそれぞれオリジナルの語尾、口調で会話して使っており、誰もが被らない。
主人公の天国こそマトモだが(しかし行動がとんでもなくぶっ飛んでいるためあまりマトモという気もしない)、突っ込み役の根津は「~っす」、天国のライバルでエースピッチャーの犬飼はぼそぼそと根暗っぽい喋り方、犬飼とバッテリーを組む辰羅川は「~ですよ」と敬語、俊足が持ち味の兎丸は子供っぽい喋り方と、一年生のレギュラーでさえこの分かれ方である。おまけに名遊撃手である司馬葵は、本編中、結局一度も喋ることはなかった。
しかし断っておくが、こんなのは序の口である。十二支高校野球部の先輩となると、更に凄まじいことになる。
代表的なのが虎鉄大河の「~だZE」「~YO」と言ったヒップホップ調の喋り方。博多弁の猪里と、何故か仏教を野球に取り入れた蛇神の「我」「~也」、まんまるほっぺが特徴的な鹿目の「~なのだ」も個性的だ。
以上に取り上げたのは十二支高校野球部だけだが、本編に登場するライバル校もほぼ全てこの有様だ。口調だけではなく、見た目、プロフィール、性格、野球の能力、全てにおいては登場キャラクターのキャラ付けはバラバラなのだ。
このように、『Mr.FULLSWING』はキャラの個性づけ、書き分けについて、漫画界で随一ともいえる魅力を持った作品なのである。
『Mr.FULLSWING』の鈴木信也に次ぐ書き分けの上手さを持つ漫画家といえば、メジャーなところで『BLEACH』の久保帯人や『フルーツバスケット』の高屋奈月であるが、キャラクターの多さと能力も交えた書き分けを考慮すれば、両者とも『Mr.FULLSWING』には後塵を拝するだろう。
コミックスの余白ページに時折掲載されるキャラクターたちの座談会において、語尾・口調を見るだけで誰が喋ったかすぐわかるというのも、その才能を裏付けている。
何故打ち切りになったか
しかし、結果として『Mr.FULLSWING』は打ち切りというジャンプの洗礼に合い、アニメ化をすることなく連載を終えている(ドラマCDは三巻まで出ている)。それは何故か。
先にも述べたように、『Mr.FULLSWING』はギャグ・キャラ・野球のバランスが非常に良いことから人気を博した作品だ。
しかし、連載が長期化するにつれ、ギャグの要素は薄れ、野球を中心にしたシリアスな展開が続いていった。
これがファン離れを引き起こす要因となったが、それはあくまでストーリー漫画の体裁を取る『Mr.FULLSWING』にとっては仕方のない事態でもあった。
天国と十二支高校の活躍を描くためには野球の大会に挑まなくてはならないし、試合に挑むからにはギャグばかりをしている訳にもいかない。特に三年生のキャラたちは、今年が甲子園にいけるラストチャンスだ。それぞれに葛藤があるし、涙もある。人気のあるキャラたちの青春を取り扱って茶化すことは出来ず、試合が進むごとにシリアス度は増していった。
また、十二支高校と対決するライバル校が増えるのに比例してキャラは増え、コマにひしめき合う個性的なキャラの外見は、画面上に映えず、むしろ漫画としての見づらさを生み出してしまった。
こうしてキャラ・ギャグという人気を支える支柱二つが、ストーリーの進行と共に崩れていき、結果として『Mr.FULLSWING』の人気も落ちていった。
最後は天国の出生の秘密、というファンにとっては全く望んでいない展開に波及し、消化不良のまま完結するという結末に至ったのである。
人気作・人気キャラを長年取り扱うからこその歪に陥った『Mr.FULLSWING』であるが、それでもファンが支持する声は強い。そもそも当時無名の鈴木信也があれだけの可能性を見せた中で、ファンになんの感謝も示さないまま編集部は打ち切りにさせて終了、というのは、あまりにも惨い仕打ちではないか。
連載終了から10年経った今だからこそ、『Mr.FULLSWING』の復興を願いたい。
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