タイトルの意味をどう捉えたらいいのか - その夜の侍の感想

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その夜の侍

4.004.00
映像
4.50
脚本
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キャスト
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音楽
4.50
演出
4.00
感想数
2
観た人
3

タイトルの意味をどう捉えたらいいのか

3.03.0
映像
4.0
脚本
2.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
3.0

目次

「その夜の侍」を視聴した感想です。


非常に観念的で、わたしには面白さが分かりにくい作品だったと思いました。
エンターテイメント性は全く無く、純文学の世界観のように見えました。
見ていて、芥川賞受賞者の中村文則さんの作品を思い出しました。
中村さんの作品に、亡くなった恋人の指を小瓶に入れて持ち歩く男の話がありますが、亡くなった妻のブラジャーをポケットに入れている男というのも、少し似ているのかな、と思いました。

ストーリー性はあまりなく、妻を交通事故で亡くした男と、その加害者の人間性を淡々と描いているかのように見えました。
妻が交通事故で轢き逃げされ、亡くなるという悲劇的な物語でありながら、本当に淡々とした目線で人々の姿が描かれています。
そして、その淡々とした日常の中にかいま見える、中村健一と木島の狂気。これも煽るような表現はなく、まるで人間の狂気の本質は、日常的なものの中にあるのだ、と言わんばかりの淡々とした描写でした。

登場人物も皆狂気と隣り合わせの孤独を抱えているように見え、それさえもただ淡々と描かれていました。

そうした一連の描写、世界観が、一層純文学の一編のように感じられました。

こうした作品が映画的に面白いのかは、わたしには分かりかねました。
個人的には、二時間近い映画作品でありながら、特に起伏もない、見所もないシーンを淡々と見せられている感じはすごくしました。
監督のやりたいことや、撮りたい映像は伝わってきます。
しかし、それを受け取る観客側に、需要があるのかは不明です。
こうした作品が好きな人には、いいのかなと思います。

ただ、映像の持つインパクトはすごいなと思いました。
ラストシーンで健一が、亡くなった妻に再三注意されながらもやめられなかったプリンを、食べずに頭から被るシーンがありますが、その両手で潰したプリンの飛び散る様など、なんとも忘れがたい映像になっていると思いました。

また、台風の中で泥だらけになって揉み合う健一と木島の立ち回りのシーンも、それが何を表現しているのかまでは分かりませんでしたが、衝撃だけが残りました。

こうしたインパクトを残すだけでも、映画としての存在価値はあると思うので、面白いかどうかは別として、作品として成立はしているのかな、と思いました。

木島の恐怖感がもっと伝わってほしかった



個人的に思ったのは、木島がもっと怯えている感じが出ている方が、作品として分かりやすかったのかな?ということです。

木島はあまり感情がないキャラクターだと思うんです。
目先の快、不快だけで生きている人物というか。
面倒なので轢き逃げする、ムカつくので他人を殺そうとする、というような具合に、衝動のままに行動しています。

そこが狂っているというか、まるで世の中の倫理観で推し量れない気持ち悪さがあるのですが、小心者でもあるんですよね。

人を簡単に殺せるような素振りでいて、肝心なところでは手を下さない。飽きたと言って放り出すか、他人にやらせるかのどちらかです。
また、脅迫状の決行日には、居住を変えたり「警備員」に窓の外を伺わせたりします。

明らかに健一を怖がっているんですよね。
しかし、そこがよく見ないと分からないというか、伝わってこないような気がしました。
途中まで木島は、殺すのも殺されるのもなんとも思わない、サイコパスのように見え、過去に追われている恐怖感が伝わってこなかったです。
多分木島の恐怖というのも作品として大事な要素だと思うんです。
もっと怖がっている描写があった方が、より木島の小物感が出て、下らない人物であることが強調されたのかな、と思いました。

「この物語には、最初から君は関係なかった」

また、健一の「この物語には、最初から君は関係なかった」というセリフも、理解するのが難しいなと思いました。
健一は木島が出所してから行動を毎日監視し、手帳に記録していました。
その手帳を手に、健一は木島に上記のセリフを言うのですが、それが何を意味しているのか?は難しいところです。

一つ考えられるのは、その手帳を生み出したのは健一の狂気であり、木島は憎しみの対象ではありますが、本質的には関係のないものだ、という事なんでしょうか。

轢き逃げ事件は木島の中でも特別な記憶であり、それに怯え、逃走したいと思っています。(轢き逃げの現場で警備員に絡んだのも、記憶を上塗りするためかもしれません。)
そんな大きな出来事に、「最初から君は関係なかった」と言われるのは、斬って捨てられるような感じかもしれません。
そういった意味での復讐なのかもしれません。

また、木島は他者に対して常に苛立ちと、被害者意識を持っています。他人を殴っていても、「そうさせている相手が悪い」と自分が被害者だと思っているのです。
そういった木島の人間性に対し、自分の狂気を自覚できた健一、というところを対照的に描くと共に、木島を敗北させる一言だったのかな?と思いました。

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他のレビュアーの感想・評価

プ、プリン…

映画ってエンディングが良ければ良い映画っていわれるじゃないですか。この作品は正にそれ。妻をひき逃げで亡くして、その犯人を殺して復讐しようとするする夫の話と思ってから違った!結局、主人公の中村は犯人の木島を追いつめて対峙するも殺しはしなかった。しかも、その生死のやり取りの中で大事な事に気がつく。その台詞が中村の言った「おまえは本当にただ何となく生きている」「おまえは何の関係もない」に表れています。「おまえは本当にただ何となく生きている」は、やっと気付いたかという感覚と、気付いてしまったかという感じが入り交じる。これって奥さんが亡くなる前の自分もそうだからなんですよ。何も考えてなくて何となく生きてたから奥さんを困らせながらプリンを好きなだけ食べていた。これが「普通」であり「なんとなく生きている」人の実態。自分だって自分がよければよかったし何となく生きていたわけです。しかも中村は奥さんが亡く...この感想を読む

5.05.0
  • 米田もち米田もち
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  • 830文字

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