女子の描く男子校って感じがする - メンズ校の感想

実際にはもう少しゲスかったりするのでは

陸の孤島状態にある男子校で繰り広げられる男たちの学校生活。いろいろな男が登場するが、どいつもこいつも…いい奴すぎる。カッコ良すぎる。男子校に通ったら本当にこれほどまでいい思いできたんだろうか…でもたぶん、もう少しキモいところもあったんじゃないのかなーと思う。女子の考える、男の理想を持った男たちが描かれ、彼らでも相当な苦労をして人間関係をつくっているってことを知る、という内容のように思う。これほど優しく、筋肉が美しく、整った顔立ちで、考えることもまともな人がいるんだろうかと疑う。女子と隔絶された世界の中で、女の子に夢を抱く彼らが本当に男か疑問になる…。恋に傷ついた童貞たちだからなのだろうか。

メインキャストである牧、神木、花井、野上の４人は、どう見ても勝ち組の顔とスタイル。しかし、メンズの学校の頂点に君臨するイケメンだからってなんでもできるんだろうと思わないことが大切だ。そんな彼らだって、普通に悩むし、ピュアなハートで日常の出来事に挑んでいるのである。つるむ連中がイケメンになるのは、類が友を読んじゃっているからだ。これはどんな社会においても仕方がない。

牧の抱える亡くなった元カノへの気持ちも、神木の血のつながりのない姉に対する気持ちも、野上の先生への気持ちも、花井の確立された乙女への道も。どれも興味深く、誰にでもありそうな恋のお話。メンズの乙女みたいな気持ちの集まった物語は、男女問わず受け入れやすい内容にだいぶ綺麗に加工されている。でもいいんだ。イケメンの姿はいつでもおいしいものなのだ。

作者さんの傑作イケメン集

「そんなんじゃねえよ」も好きだったが、この「メンズ校」もさすがのイケメンぶり。どいつもこいつもカッコいいし優しいし一本しっかりした筋が通ってるんだが、やべーよこの高校。進学校っぽいので、頭も良くて見た目もいいんだろ？あーうますぎる。彼らだって悩んでる。それはそれでギャップに心はくすぐられてしまう。

そりゃー一番は牧で、完璧に好きだ。人懐っこいキャラクターの奥に秘めた悲しい気持ち、誰にも正直に打ち明けられないむなしさ、本気になったときのシリアスな表情…「そんなんじゃねえよ」の静を思い起こさせるものがあるが、抱えてるものが全然違うので、牧のカッコよさは反則級だ。その出来上がったモテる肉体と、友だちのために悪役にもヒーローにもなってやるよっていう心意気がすごい。肉体の魅せ方も、白シャツをファサっとね、ファサ―っとソフトに。ほとんど見えてるけど隠す部分隠しててずるい。…すごいずるい。まず３回は戻ってくるレベルで見るよ。普段のかわいい笑顔じゃなくて、ちょっと男っぽいの。ときめきが止まらない。完全に花井の気持ちが分かる。

その美しさは、常に持続されるわけではない。気合いの入ってない牧もたまにいるのである。ここぞ！というシーン以外、かっこよくないのが残念といえば残念。ただ、気合の入ってないときがあるからこそ、輝いた時の美しさが忘れられないくらい思い出深くなっている気もする。敢えてそうしているのだとしたらテクニシャンだ。もし普通に気合いの問題だったら萎える。

表と裏なら裏から知りたくなるんだ

牧の事に関しては、常に裏を感じさせつつ、２巻まで公開を引っ張った。見事につられて何巻も買ってしまうよ。蓋を開けてみたら大好きすぎた彼女の死を抱えていた、というけっこうな重さ。なのに、エリカの亡くなった背景に関しては非常に薄い。牧は思い出したくもないかもしれないが、もうちょっと、描くべきエピソードがあったんではなかろうかと思うのは私だけだろうか。

牧の抱える悲しみ、絶望、楽しかった思い出の分だけ進めないと思ってしまう若さ。全部わかるが、主人公なのに蒸し返し具合が足りない。神木に関しても同じことが言えるだろう。家の中でずっと好きな人と暮らして、気持ちは通じないけど一緒にいれて、もっと近づきたいのに近づけなくて、相手も俺を好きだと感じるのに…ってせつなさ！もっと本当はせつないはず！そして中年の愛の日々についてもっと知りたいところだった。

そういうせつなさ比較的薄いと感じるのは、やはり少女漫画ばかり読んで気持ちを共感させてきたせいだろうか。男にとってみれば、もっとマイルドに軽い受け止めかたをするもので、前があってこれからをつくろうと前向きに考えようとしているってことなのかもしれない。メンズってそういうものかもしれない。

表と裏があったら、表ももちろん大事なんだが、本当の気持ちや考えていること、どんな思考を持っているからその表が創られるのか。それを知りたいと思ってしまうのが人間だよね。

メンズ校のお楽しみが全然ないんだが

男子校と言えばBL。それがまっっったくない。女子への憧れ、恋への憧れ、普通のメンズばかりがその学校にはいた。チキンばかりである。相談し、検討・試行錯誤のうえ、一生懸命取り組む。頭がいい学校だからかな。野上なんてがっつきそうだったけど青いしなー。

花井は惜しかった。何かを起こしてくれる気がしていた。だけど無理だったね…つーか序盤の彼女へのカミングアウト以外、花井へのあつかいが存外なんですけど。彼が花開いた道ってやつをもっと見せてやらないと、花井って女っぽいけど結局ノーマルなのかバイなのかもわからないじゃないか。男子校の中の乙女思考の人物ってだけじゃん。４人のメンズが主な登場人物なんだろうと思っていた序盤。ところが実際には牧と神木だった。花井の人気があんまりなかったのかな…敢えてそっちを濃くすると、編集者的にアウトだっただろうか。フォローもいいけど、花井のメンズ校でのパラダイスを事細かに見たかった。巻末の４コマでもいいから、彼の学校生活を楽しませてもらいたかったなーと心から思う。花井の部屋だって全然公開されないじゃないか。どうせなら牧をもっと追いかけていればよかったのに。

メンズ校の恋はしょっぱすぎる

少女漫画だったら、絶対に受け入れられないラスト。結局仲良し４人組はみんな華麗に散っている。鷹野は留学を彼氏の牧に相談しないで神木に相談してるし、神木も冬華がいるんだからなんかないのかと思ってしまう。

100歩譲っていい解釈をするとすれば、牧が「エリカ」から卒業する、ということだろうと思う。元カノと似ているから好きになったとしか言えない部分があるからね。死のうが生きてようが別れる時は別れる。だから引きずってないではばたけ！そしてここはメンズ校。女のことでもめて友だちを失うより、友だちを失わないほうが大切にされてちょうどいい。そんな場所なんじゃないだろうか。牧がこれから見つける恋に幸せがあることを願う。

神木が結局冬華を大事にしているのかどうかや、野上が保健室のフクとばっちりまとまったのか、花井の恋はどうまとめたか…知りたかったことはたんまりあるのに、彼らは普通に学校生活を送るらしい。…なんだったんだ。牧、鷹野と連絡とれたかな。悲しくたって進む。俺ら男って正直で、優しくて、傷つきやすい。だけど笑って進むんだ。何でもないふりして、余裕かまして一生懸命生きてみる。メンズの心意気ってやつを見せているのかもしれない。ずいぶん辛い事ばかり経験しているようだが、友には恵まれていると思う。仲良く、歩いていってくれたら嬉しい。できればみんな恋を成就させてね…。そして肉体美をキープしてくれ。