ダブルマックスで笑い尽くせ!
笑いへの飽くなき探求心!
兎に角笑い!笑い!!笑いの嵐!!!
一本見れば元気になれる!それがこの、ダブルマックスだと思うのです!
タイトル盛りすぎの件
最初に断っておく。これは大変面白いアクションコメディだった。けれどそれを考察する前にどうしても言わねばならないことがある気がする。見た人誰もが思っている事だ。
邦題のタイトルが盛りすぎ。
日本版のパッケージの写真とタイトルの相乗効果でマムとトニーがダブル主演みたいになっている。
だが実際は全くそんなことはないわけで。この映画はマムの主演で、トニーは友情出演しているだけ。なのに、ここまで露骨に盛られると、本当にもう、そこまで含めてネタなのかなと逆に受け入れ体制になるから不思議だ。
まぁそれはさておき。共通認識を確認したところで、この映画についての私の考察に入っていこうと思う
ネタにつぐネタの猛ラッシュ
物語は凄腕エージェントが任務に失敗して解雇され更に悪人に命を狙われる、というとてもシンプルなものだ。正直、最初っから誰が黒幕かはモロバレなのであまりどんでん返しは期待できない。というか、そんなものどうでもいいのだ、最初から。
なぜならこれはコメディだから。アクションを全力で盛り込んだコメディなのだ。それを証拠に映画の開始直後から、ネタにつぐネタの猛ラッシュ。軽いジャブなんてない、フルパワーのネタがこれでもかこれでもかと次々に披露される。
雇い主の社長にテーブルクロスを牽かせて、その上で正座して銃を撃つマムを見て笑わないやつなんかいない。真顔なのが余計アホらしい。
私は正直、タイの俳優さんや芸人さんに詳しくないので脇を固めている人々が何者なのかあまり解っていないが、おそらく半数は芸人さんであろう。表情や見せ方が笑いが本職の感じがする。その高濃度の笑いのエネルギーは胸焼けしそうな位に私の心に響く。最初から笑いのパンチでボコボコにされる試合の開幕である。
有名アクション映画のパロディ満載
この映画の笑いどころは個人のネタに留まらない。全体を通して、既に笑いの罠が張り巡らされているのだ。
精神病院のシーンをみて、思い出す人は多かったと思う。そう、ジャッキーチェンの「スパルタンX」を。この映画には随所に有名アクション映画のコメディがぶち込まれているのだ。そっとオマージュする、とか、真似してみる、みたいな事ではない。勿論、パクっているとも言えない。ぶち込むのだ、自信満々に。その爽快なこと。
マムの笑いの才能とアクション映画への愛がここにはっきりと表れている。普通の人ではこうはいかない。大胆に、繊細に。これは一部のコメディは低俗なものだというイメージを持っている人々の感覚からは想像出来ない事だろう。
臭いものだって丸出しお構いなし
その大胆で繊細な笑いのセンスは、日本ではもはや放送が難しい可能性のある笑いの取り方にもいかされている。
例えば、大きな夫婦喧嘩の声が聞こえて、体がとても大きな女性が家から転がり出てくる。家の中から罵声を浴びせる男性は、一般の人よりもかなり体が小さい役者さんだ。2人の大きさの違いが笑いのポイントとなるが、これは見方によってはかなり差別的な表現にもなってしまう。神経質な人なら怒りを覚えるかもしれない。
こういった他者との違い、違いから一般に持たれているイメージを逆手にとった笑いはこの映画に沢山使われている。
現代日本においては差別的ともとれる笑いの取り方。しかし、役者と制作側の同意のもと、本気でとられたそのネタは視聴者に嫌な感情を与えない。少なくとも私は感じなかった。むしろ、差別を笑い飛ばしながら強く生きる人々の生命の躍動感が感じられる気がするのだ。
現代は特に、差別に敏感な時代だ。良くないものには触れないように、正しいものばかり教えようとする。けれど、そのある意味では「臭いものに蓋をする」ようなやり方より、この映画のように
「臭いってなんだ!出したっていいんだ!!頑張ってるんだ!!!」
と、その姿を見せる方が健全ではないのだろうか。そんな気がしてしまう。そして、その明るい気持ちでまた笑ってしまうのだ。
トニーの浮き気味の存在感がネタ
さてさて、トニーファンとして当然彼の出演シーンについての考察は外せない。
今作のトニーはある意味で、全力で笑いをとりにきていたと思う。周りの本気のコメディに呼応したような、そんな感じ。
どの辺が笑えるのかと言うと。マッハ!では主人公だったため、なんとなく納得していたそのキャラクターが、普通の状態で見るとちょっと異常で滑稽だと気付かされてしまうという所だ。そしてその異常さを、この映画はそのままネタとして丸ごと叩き付けてきた。
例えるならバラエティーで芸人がやっているトレンディードラマのパロディみたいなものを、本人達がやっている、セルフで。
笑うしかない。こんなの皆、笑ってしまう。だって本人なのだ、何やってるのあなた達としか言えない。
スーパーで銃撃戦をしているのに、気付かずに棚の商品を選んでいるトニー。「イヤホンをしているから」みたいな演出だが、後から見せる動態視力や獣みたいな視野から考えてると、別人レベルのマヌケさだ。逆に銃を恐れていなさすぎて気付かなかったと言う説もあるが、こっちは益々変な人と言うことになってしまう。
どっちにしても不自然極まりない登場に、待っていた私も「なんでやねん!」と突っ込まざるをえない。
その後は事情を訊くこともせず、敵をバッタバッタと薙ぎ倒す。いや、むしろ追い掛けてボコボコにしていると言ってもいい。無言で関係ない人が暴れる地獄絵図。
結果的に悪を倒してはくれているが、正義の味方なら人質に声をかけるなり、主人公に「加勢するぞ!」と言うなりして欲しい。無言。完全な無言。聞こえるのは気合いの掛け声のみ。怖すぎる。
敵が壊滅した後で主人公が「助かった。」と声をかけると「構わないさ、ハム・レイ。」と答えて去っていく。吹き替え版の場合は声が緑川さんなので、セリフも声も無駄に爽やかで違和感しかない。「ハム・レイちげぇ!!」と心の中で私が突っ込むのと同時に、映像では主人公が
「マッハ!じゃねぇぞ。」
と彼の背中に投げかけている。これがやりたいだけだ。このシーン、このセリフを言いたかっただけだ、絶対。悔しい。心の中で突っ込んだのが悔しい。でも嬉しい。
本人達がネタにしてくれると言うのは、ファンにとってはとても嬉しいことだ。無意識に胸が躍る。マッハ!はタイ国内でも記録的な大ヒットをしたのだから、私と同じ様にタイのお客さんも嬉しい気持ちになったはずだ。とてもサービス精神に溢れたいいシーンである。そしてそのサービスの為にトニーが呼び出されたのかと思うとホントにおかしくて笑ってしまう。無駄遣い感しかないのが最高だ。
最後は感動かと思いきや
ここまでただひたすらに笑いをとってきて、見ているこっちはKO寸前のピヨピヨ状態。なにがなにやらとなってはいるが、いよいよ悪は倒され最後はヒロインと御曹司が結ばれるほっこり感動エンディングか・・・と、ほっとしたのも束の間。そんな綺麗な絵では終わらないのがこの映画なのだった。
勿論、オチとしては丸く納まって良かったね、という空気ではある。だが画面にうつっているものと言えばひたすら喋り続けるアナウンサー役の男。しかもあまり喋るのは上手くない。なのにずっと喋っている。なにを見せられているんだろうとか思っていると映画は終わり、エンディングとNGシーンがやってくる。なにこれ。一応、映画だからオチもつけますが基本は最後まで笑ってください。って事だろうか。多分そうだ。
おかげさまで完全KO。少しも残さず体の中が笑いでいっぱいになる。笑いのためだけにガッチリつくられたダブルマックス。その思惑通り純度100%の 笑いに身をゆだねれば 、 しっかりたっぷり楽しめる作品なのだった。
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