THE ORIGIN、微妙な船出 - 機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅰ 青い瞳のキャスバルの感想

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機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅰ 青い瞳のキャスバル

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映像
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ストーリー
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キャラクター
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声優
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音楽
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THE ORIGIN、微妙な船出

2.52.5
映像
4.0
ストーリー
1.5
キャラクター
3.0
声優
3.0
音楽
1.0

目次

安彦良和版ガンダム、ついにアニメ化始動!

本作は機動戦士ガンダムいわゆるファーストガンダムのキャラクターデザインを行った安彦良和が2001年から10年に渡ってガンダムエースに連載した漫画のアニメ版だ。

既に語りつくされた感もあるファーストだが、これまで語られていなかった一年戦争以前の出来事に、新しい解釈、安彦氏独自のエピソードを加えたことで意訳版ガンダムと呼んでもいいような独自の世界観が作り上げられた。

マンガ版ORIGINのテキサスでのシャアのゲルググとアムロのガンダムの攻防は、過去に見なかったシャアが最も強く描かれたシーンであり、私の一番のお気に入りの場面だ。アバオアクーでの最終決戦でセイラが自分自身がアルテイシアであることを明かし、ジオン兵を扇動するくだりもオリジナル感があっていい。

しかし当分は1年戦争前のシャアとアルテイシアが中心に話が進むようで、1stガンダムと被るようなそのあたりがアニメ化されるのかは定かではない。

まあとにかく、新しいガンダムがスタートした。

その序章、青い瞳のキャスバル、楽しみにしていただけに、ちょっと微妙…なところが多いように感じた。

以下具体的に評価していこう。

CGの戦闘シーンが安っぽい

キャスバルとアルテイシアを幼少時代から丁寧に描いていくようだが、冒頭にルウム戦役時代の、ガンダムに出会う前のシャアや黒い三連星が登場する宇宙戦闘シーンが描かれる。

近年の作品らしく、オールCGでモビルスーツの動きは滑らか、デッサンの狂いもなく、各機の動きは目にもとまらぬほど早く、書き込み(?)=情報量も凄い。

こう書くと凄いのだが、なんだか、少なからず違和感がある。

かなりの手間と費用が掛かっているのだろうことは容易に分かる。それなのに、正直なところ仕上がりは安っぽくて、軽い。

一画面に戦艦やモビルスーツが入りすぎていて、鬱陶しい。

むしろがっかりと言ってもいい冒頭である。 

ジオン・ダイクンって狂人?…後の世に影響を与える人格者という描写が欲しかった

崇高な理想に向かって、演説の原稿を作るシーンが描かれているが、原稿が行き詰っているからと言って自身をゴルゴダの丘を行くキリストになぞらえるところなど狂人ぽいシーンが目立つ。

ジオン・ズム・ダイクンはこの後12年に渡ってキャスバル=シャアの復讐のよりどころとなり、人類の革新を唱えたが故に後の世に多大な影響を残す人物なのだから、もっと希望に燃える理想主義者、今の世の腐敗を厳しく問う革命家としての一面を描くべきではないだろうか。

ほぼ一時間しか尺が無い、などというのは言い訳にならない。

次項であげるが、本作は無駄が山ほどある。それを削って、彼の理想を語るシーンを印象深く挿入するべきだった。

ダイクンの正妻であるローゼルシアが、また何とも中世的で偏見に満ちた小人物に描かれているのも大きなマイナスだ。

ダイクン自身が人を見る目が無いように見えて、上記理由からの彼をもっと偉人化すべし、という定石に反する。

ニュータイプや人類の革新を語るシーンはもっと明確に語らせるべきだと思う。

夫の関心を奪ってしまったアストライアへの嫉妬は仕方ないとしても、キャスバルとアルテイシアには、ダイクンの意思を継ぎ、ニュータイプへと覚醒していく将来を夢見る、などの柔和な面を見せても良かったのではないか?

狂人のような老婆から塔に閉じ込められるなどというディズニー的な演出が、ガンダムの世界に必要とは、私にはとても思えない。

必要なのか? このマンガっぽい演出

安彦良和の好みなのだろうが、良い方向に受け取れば、宮崎駿が目指したマンガ映画(名探偵ホームズなど)っぽい演出が随所にみられるが、悪く言うと取って付けたようなギャグシーンの連発で、非常に安っぽい。

たった1時間しかないのに、このシーンが必要なのか? というギャグが連発される。

まずドズルが大けがを負って包帯だらけで登場し、興奮して手を叩いて傷口が痛むシーン、アルテイシアの愛猫ルシファーをランバ・ラルが捕獲するときの本当に漫画チックな5頭身シーン、再びドズルのネタだが興奮して顔面の傷から血がほとばしるシーンなど、あげればキリがないのだがどんな演出意図があるのだろうか?

ザブングルでもやらないような、寒い笑いネタばかりでなんとも見ている方が恥ずかしくなる。

全体がSDガンダムのようにコミカル調であるならそれもいいのかもしれないが、暗殺、策謀、復讐、人類の革新などのテーマにそぐわない。

更に、極めつけは今回最大の見せ場のガンタンクの戦闘シーン、絵はきれいなのは間違いないが、そもそもこの戦闘が必要なのか、全く説得力がない。

ハモンが逃走の準備は万全と、などと大見得を切ってからのあのドタバタ、何なのだろう?

隠密感と緊張感がゼロではないか。

あんな大騒ぎして、無事港にたどり着いて貨物で逃げ延びるなんてありえない。

連邦の指示で二人を連れ出しに来た、というのであれば銃で威嚇するくらいで十分なはずだ。

それなのにわざわざ騒ぎ立て、町を破壊しながら進む。モビルスーツが暴れているのだから、その鎮圧にもモビルスーツが乗り出して来るのは当然の結果だ。

それなのに何でもアリと言わんばかりのドタバタ劇。

ルパン三世か、これ?と突っ込みたくなった。(思えば本作のハモンはちょっと峰不二子っぽいかもしれない)

ガンタンクの戦闘シーンが書きたいのは理解するが、それはそれで方法があっただろう。

例えば奪ったガンタンクを暴れさせておいてその騒ぎに乗じて普通に車で港に潜入する手はずだったが、検問に逢って逃げているうちに囮のガンタンク隊と合流、キャスバルがそれに飛び乗って持ち前のセンスで敵を撃退して危機を脱する、くらいで良いだろう。

ドッキングベイでの荷物積み込みシーンの猫の鳴き声も、なんだか昭和感満載の古臭いお約束だ。

対象年齢5歳くらいのアニメなのか、と思わせる演出、正直がっかりの連続だった。

ほかにも疑問はてんこ盛り

疑問1

ランバ・ラルの手配でザビ家の保護下から脱するアストレイアとキャスバル、アルテイシア。しかし暴徒と化した群衆に阻まれて動けなくなったところに、キシリアの騎馬隊が助けに入る。

名前まで明確にしながらの民衆弾圧、しかも印象操作で民衆が敵視しているラル家を救出するザビ家という構図を作ってしまっている。

サスロはキシリアのその行動を責めるが、そんなレベルではない。

キシリアがサスロに恨みを持つ、というシーンが必要だったのだろうから、それならキャスバルとの謁見を先に入れて、それをサスロが咎める、で良かったはずだ。

疑問2

上記のキャスバルとキシリアの対決シーン、どう見てもお互いの印象が深すぎて、1stガンダムでのキシリア配下に移籍したシャアとの会話「いざとなると怖いものです、手の震えが止まりません」と「私は4歳ころのキャスバル坊やと遊んであげたことがあるんだよ、お忘れか?」というシーンに繋がらない。

まあ再解釈なのでそれもなかったことにするのかもしれないが…

疑問3

三度、キャスバルとキシリアの関係性。

手錠をかけて脅す場面があり、それに動じないどころか、むしろ決然とキシリアに手錠を外すよう命令するキャスバル、それにたじろぐキシリア、シーンはここで切れるが、結局キシリア自らあの手錠を外してやったのだろうか?

まさかそのまま気おされっぱなしで。仕方ないわねとか言いながら外したのか?

その後のシーンとの幕間の状態が全く想像できない。 

なんだかんだで新シリーズの幕開け

ここまで書いてきて褒めるシーンがどうにも見いだせなかった。

無理をして褒めるとすれば、とにかく絵はきれいだよね、という点くらいか。

新シリーズの幕開けとしてはあまりにも期待外れではあったが、これはこれで新解釈、というよりこれがガンダムをベースにした別の物語なのだ、と思う以外ない。

とにかく漫画版ORIGINに沿って行くのであれば、ここから良いシーンはたくさんあるはず。つまらないギャグは早めに捨てて、人間ドラマに重点を置くガンダム本来の世界に立ち返ることを心から願う。

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