自動車運転免許、を軸にした「オジサン」の爽やかな青春記 - 免許がない!の感想

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免許がない!

4.504.50
映像
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脚本
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キャスト
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音楽
4.00
演出
5.00
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自動車運転免許、を軸にした「オジサン」の爽やかな青春記

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次

「取得コース」に乗っかっていないと案外取れない、運転免許


ある調査では取得可能年齢(16歳以上)の約四分の三が取っている「運転免許」。実際、大人になったことを示すライセンスというか、履歴書代わりに扱われていることも少なくありません。

求人情報誌を見れば当たり前に「要普免」、「普免所持者優遇」といった単語が並んでいますし、何かの契約や書類を出して貰うときにもまず第一に身元を保証するライセンスとして運転免許証が挙げられていることは少なくありません。現実に、免許を持っていないと、移動手段が限られてくるだけではなく、輸送や実務などの「いざ」という時にネックになり、それが評価の低下にもつながりかねません。

しかし、皆が取っているからといって簡単ではないのが「免許」の難しいところで、特に大勢が乗れるワゴン車や一部のトラックをも扱える「自動車運転免許」となるとその難易度はなかなかのものです。ですから、若い頃に何らかの事情から免許を取っていないという方が、後になって取ろうとするとかなりの苦労が待っていることも少なくありません。

本作に登場する俳優の南条 弘はキザな人気者ですが、映像の中では車を乗り回している割に実際には免許を持っておらず、そのことがコンプレックスになっている「取りそびれ組」の一人です。どちらかというと個人的なメンツの問題で合宿免許を取りに行った彼もまた、歳が離れた若者との合宿生活や慣れない車の免許に四苦八苦することになります。

案の定、と言うべきか、やはり、と言うべきか、反射神経が衰え始める「オジサン」が新たに精密さや速度を要求される操作を覚えるのがいかに大変かが、全編、これでもかというぐらいに映像で流されています。今時の映画のようにCGを使っていないので、鉄の塊である自動車が(しかも今よりもかなり不親切な)いかに力強く扱いにくいものかが浮き彫りになっていきます。坂道ではなすすべなく下がり落ち、少しアクセルを踏むとアクション映画さながらのジャンプを披露することになります。当たり前のように街の景色を眺めていたり、乗っているだけでは気付かない、車の「もう一つの顔」が見えてきます。

教官も生徒もクセ者揃い、しかし南城にとっては必要な合宿

南条は当初、身分を隠して合宿に参加します。時を同じくして参加しているのはとにかく生意気な教習生たちであり、検定するのは暴言を吐いたりする教官といったとにかくクセ者揃いの合宿ですから、むしろ正体を明かした方がいいんじゃないの、と、私は鑑賞した時には思ったものですが、落ち着いて考えると、「大スター」南条にとっては良かったような気がしています。

多くの作品で役を張り、お茶の間や銀幕などでの人気も収入もある南条ですが、こと免許取得という前提に立った瞬間、自分が単なる冴えない中年男だということを認識させられます。そしてその本質は俳優としても変わりません。監督や脚本、撮影やあらゆるスタッフの力添えがなければテレビや映画などの舞台ではどうしても輝きようもないからです。

丹念に自力を鍛えること、さらに他人のサポートが大事なんだと気付いた南条は自分のために動いてくれたスタッフに心底からの礼を述べ仮免試験に臨むことができました。もっとも、だからと言って簡単に試験に受かるとは限らないのがテストの、そしてこの映画の難しいところなのですが、結局最後まで様々存在した紆余曲折は、感謝の心、自分のキザな部分を取り去って裸にならなければ解決はできなかったはずです。そう考えると南条はこの合宿所に入って良かった、ということになるかも知れません。

青春って、新しいことにチャレンジするのって、いいものですね

正体がバレてかえってチヤホヤされる南条でしたが、歓待してくれた教習生たち皆に先を越され、残っているのは自分と同じ落ちこぼれだけという状況に追いやられます。しかし、謙虚な心を取り戻した彼は、互いに問題を出し合うなどして努力を重ね、周りからの全力のサポートもあり試験に合格、物語は大団円を迎えるわけですが、視聴した後味が素晴らしかったというのが率直な感想です。

南条は四苦八苦しましたが、特に大きなことを成し遂げたわけではありません。せいぜい、誰でも取れる車の一種免許を取得したに過ぎません。しかし、自分の至らない部分に悩み、周りと衝突しながらも努力を重ね、何度も繰り返してようやく一つのことを達成した彼には紛れもなく青春の美しさがありました。もちろん他の教習生にとっても、あの大スター南条と一緒に頑張って免許を取ったことは、一生の思い出になるでしょう。

この合宿で過ごした日々は、学校を出てからずっと仕事一筋、役者一本でやってきたはずの南条にとって、時期遅れの修学旅行か部活の強化合宿のようなものだったのではないでしょうか。あの手のイベントは確かに規則でがんじがらめだし、理不尽なことも少なくないし、本当に苦労に見合ったものがあるのかも謎だったりしますが、不思議と大人になってから行った旅行よりも鮮明に覚えていたりするものです。

そしてもちろん本作は、種々の事情で「免許が取れなかった組」に対するエールでもあるでしょう。たとえ中年になっていても、免許を取ったりして新しいことに挑むのはいいものだよ、と、終始トボけた味を出しながらも励ましてくれる先輩のような、そんなコメディ系映画でした。

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