どこを褒めよう、と思いつつレビューを書いていると本作の良さを偶然見つけた!
目次
アニクリエーションの発想のみで今日まで語られて来た作品
正直なところ、全12話を見るのに、若干の努力が必要だった。面白さはあるけど、「惜しい」というレベルにもう一歩到達できない、というところか。
何故だろう。
アニクリエーションと呼ばれる着ぐるみではないストップモーション(いわゆるコマドリ)は奇抜だ。ただその奇抜さのみが先行し、他に語る所があるか、というと首を傾げざるを得ない。
しかしそれではレビューにならないので良い所と悪い所を細かく見ていこう。
デザインの奇抜さ
1話のデノモンは甲冑を取ると中身はガイコツという姿で、これは当然着ぐるみでは不可能なデザインなので第1話にはうってつけの怪獣だろう。この一話のみならまあ次回は期待できる、ような気がする。
以降も基本的には着ぐるみでは不可能な体形の敵がほとんどだった。唯一人型をしていたのは第7話の巨大要塞ロードスくらいだろう。
巨大要塞という前振りなのに人型ってどうよ、と思うがこれがある意味本作らしさである。設定の不徹底、ちぐはぐ、不親切この3点は後程語ろう。
上記の通り、12体の怪獣(なぜか宇宙から来た魔人が差し向けているのに「妖怪」と呼ばれているものもいた…)中11体は着ぐるみでは不可能な体形だったのでこれについてはチャレンジを貫いたと言える。
展開の速さ、殺陣のかっこよさはなかなか良い
甲子園球児か、あるいは某S社のサービスドライバーか、と思えるほど主役3人は常に走っており、ドラマの展開は早い。
殺陣もなかなかカッコよく、サソリ忍者軍団も3兄弟とともに常に飛び跳ねている。
不必要にジャンプシーンが多い気はするが、ただでさえ地味な番組なので、まあじっとしているよりいいかもしれない。
予算の都合か制作費の都合かはわからないが、殺陣の使いまわしが一度ならずあったことは残念。
音楽もまずまずかっこよかった。
随所に良い部分はあったので、その点ではやはり惜しい作品なのかもしれない。
本作の一枚看板、アニクリエーションが不発だとしても巻き返す手はあったはず
特撮ではないが、「銀河旋風ブライガー」という番組がある。作画のレベルが群を抜いて低いことで有名なロボットアニメだ。しかしこの作品はキャラ人気が高く、シリーズ化されている。つまり特撮がイマイチでもキャラやドラマで盛り返すことはいくらでもできるのだ。
では本作のキャラはどうか?
話の主軸を作るのはミツルギ3兄弟、セミレギュラーとして服部半蔵と長老道半、あとはほぼゲストキャラという構成だが、思えば12話の中でキャラの過去とか性格の成り立ち、こだわりやコンプレックスなどを語る部分がほとんどない。
7話で銀河の幼馴染、一平が敵として出てくるが、幼児期の事は全く語られない(遊んでいるのか訓練なのかよくわからない回想シーンがあるのみ)。
魔人サソリとしては友人を殺せまい、という策略の下で一平を操っているのだが、若干の迷いを見せるもののあっさりミツルギで殺してしまう。
銀河はベラドンの回では普通の子供を敵が変装した姿と疑ってかかり、それが間違いだったと分けっても詫びも入れないし、最終話にサソリ魔人が炎に包まれた時、「苦しめ苦しめ、もっと苦しめ!」と正義の主人公らしからぬセリフを吐く。
意図的に人を信じられない性格付けをされている訳でもないので、かなり性格、人間性に問題がある主人公だ。
思えば兄弟3人なのに冗談を言って笑い合うシーンは殆どないし、危機に際しては大丈夫か?と声を掛ける程度で本気で心配しているようには見えない。
むしろ別行動してピンチに陥っているというのに(3人そろわないとミツルギになれないのに彼らはしばしば別行動をする)彗星は遅いな、月光は遅いな、と責め口調が多い。
二人の能力や人間性に信頼があれば、遅いということはピンチに陥っているのか? と心配するのが主人公というものだろう。
彗星、月光の二人も個性あるセリフは11話のお千代に非は無いのではないか、と兄の予想を怪しむ時くらいで、あとはひたすら走って、戦っているのみだ。
月光は豊臣の残党と話すとき取って付けたような唐突な笑みを手に花を携えて発するが、これがなぜか空々しい。結局彼女はヒロインではなく、3兄弟の一人でたまたま女性だった、という役付けだ。
人間性も魅力を欠くが、主要キャラ3人がほぼ同じ格好というのも退屈さを増している。
特撮ヒーローものである以上戦闘シーンや悪役の恐ろしさを見せつける時間が多くなってしまうので、緊張を解くためにも女性キャラのルックスやファンサービスは大事なのだが、月光は全くそれが無い。
変身特撮時代劇として同ジャンルである「快傑ライオン丸」の沙織は、さほど美人ではないが、パンチラ必須のミニスカだし、常に黒髪を揺らして戦い安さよりファンサービスに努めている。
絵面の地味さに焦ったのか、9話から月光のみが黒いタイツにコスチュームチェンジしているが、変化が地味すぎて気付いていない人も多いのではないかという程度だ。
ここで生足にしていれば若干でも人気を盛り返せたかもしれない。
忍術による変装は時々披露しているので、意識的に町娘に変装するとか、ピンチの時はヘルメットが取れるとか、やれることは無限にあったであろうに、スタッフは何一つやらなかった。
服部半蔵という時代劇上誰もが知るスーパースターを出しているのに、彼は殆ど活躍しない。徳川家康や老中に叱られて困っているばかりで、いつも「頼りはミツルギ兄弟のみ」と呟くシーンしか記憶にない。これまた残念すぎるキャラだ。
キャラがダメならドラマ性で盛り上げる手もあるはずだが、その気配もない。
ある意味、何でもアリか?!誰もが突っ込む魔法少女並みの忍術がぶっ飛びすぎていて、いっそここしか楽しむところが無いようにも思う。
ミツルギに変身するために必要な「智」の剣が折られた時、銀河のトンデモ忍法で折れた二つの部分それぞれに足が生えてくる! ずるずるとそれぞれが這いまわり、接触したかと思えば何の説明もなく元通りにくっつき、何事も無かったかのようにミツルギになる。
あほらしい気もするが本作の面白さは結局このバカバカしさにあるのかもしれない。
実際にこれ以外にないのだ。
そもそも宇宙から来たサソリ魔人が、何故打倒家康を果たして天下を取ることにこだわっているのか。
江戸時代なのにミクロなんて言葉を平気で使うし、手りゅう弾は投げまくるし、月の軌道は意味もなく変えるし、道半は効果がわからない剣を一度敗北した3兄弟に授けるし、最終話に何の前振りも無く黄金の仏像が出てくるし…
そうだ、ここなら本作を楽しめる。これに気付いただけでもこのレビューを書いた意味があった。
端的に言えば本気度が低い作品
アニクリエーションについては語らない。人形アニメのプロである真賀里文子氏がはっきりと時間が足りなかったので出来が悪い、と語っているからだ。彼女の事務所のHPに「ミツルギさん、ごめん!」と明記されている。
彼女にしてみれば何十年も前の不本意な作品、今更詫びる必要もないのだろうが、いまだその記事を載せているということはプロとして忸怩たる思いがあるのだろう。
ともかく明確に敗北を認めている点ではむしろすがすがしい。
しかし、いくら掘っても他の制作者のコメントが出てこない。
1997年、2000年、2013年、3度にわたって映像ソフトが発売されており、当然発売の際に監督やプロデューサーのコメントは求められたはずだが、一つも出てこないということは、ポジティブな話が無いのだ、と判断する。
例えばウルトラマンなどは制作秘話などで何冊の書籍が出来ているか、とても数えきれないほどだ。
有名作品だから、というのはもちろんだが、例えば同時期で比較的マイナーな「光の戦士ダイヤモンド・アイ」などでも制作裏話などがネット検索でそこそこ出てくる。出来の良し悪しによらず、本気度が高い作品はそれだけ苦労や工夫を伴っており、何かしらのエピソードがあるものだ。
だが本作はいくら掘っても出てこない。語ることがないのか、語りたくないのか、それはわからないが、まあ、それだけの作品、ということだ。
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