少年群像劇の美
少年だけが持てる純粋と狂気
古屋兎丸といえば少年少女が巻き起こすブラックな群像劇を繊細なタッチで描くことが特徴であるが、その中でも本誌は顕著にその傾向が出ているのではないのだろうか。本誌は同作者の「ライチ☆光クラブ」のサイドストーリーであるが、本編を邪魔しない、むしろ伏線を張ってあったり、個々キャラクターの個性に焦点を当てた奥深いものとなっている。古屋氏が得意とする、子供ならではの純粋がゆえの愚かしさ、残酷さ、その中に入り混じった軽妙な可愛らしさが全面的に描かれており、ブラックな世界観の中にクスリと笑えるような場面も魅力的な内容である。特に、給食費を盗んでクラスメート全員に疑われたり、仲間はずれをしたり、陰口を叩いてみたり子供特有の残酷さ、子供らしさそのものが妙にリアルでグロテスクを感じてしまうほどのものがここにはある。貧乏な子、オカマの子、秀才の子、暗い子。それぞれの個性をここまで引き出し、物語の進行へ繋げていく古屋氏の才能には脱帽である。
初期メンバー
本編の「ライチ☆光クラブ」は光クラブの変貌と崩壊の様を描いた作品だが、ゼラを中心に描かれている。本作「ぼくらの☆ひかりクラブ」は光クラブの初期メンバーであるタミヤ、カネダ、ダフを中心に描き、特に元リーダーであり、クラブ創設者のタミヤを主に描いている。学校でのタミヤは給食費を盗んだと詰め寄られるニコをかばったり、パチンコの名手だったり、女子から黄色い声援を浴びたり(常川君の日常)、所謂「ヒーロー」だったことがうかがえる。カネダ、ダフもパチンコや水泳を素直に習ったり、ジャイボから罵倒された際に真っ先にタミヤに言いつける場面からも二人からの信頼は厚かったと思われる。ライチに人間の目玉を入れるため、ニコが右目を抉り出すシーンで、タミヤは
「ニコ 俺がお前を光クラブに入れたんだ
お前の意思が変わらないのなら… 俺の手でお前の目玉を取ってやる!」
と汗まみれの顔で言う。この言葉から、タミヤは友達の目玉を抉る、という行為はあまりに残虐的でできないと抵抗を感じつつもゼラの命令とニコの頑なな意思には抗えないということがわかる。そして、変わっていくニコを見ながら彼をクラブに入れた責任も感じている。結果的にはニコが自ら抉り取ったが、血まみれの彼に怯えるメンバーたちの中で率先して治療を行う姿から、彼は責任感、そして男気が強い人物だと言える。
作って壊す
「ぼくらの☆ひかりクラブ」で欠かせないシーンはタミヤ、カネダ、ダフの三人、そしてタミヤの妹タマコと蛍光湾に遊びにいくところだ。三人はクラブの条例で禁止されている言葉を使って思いのままに自分たちの心情を湾に向かって叫ぶ。「自分たちは成長することを否定なんかしない」。ここでタミヤはこのような趣旨のことも叫ぶが、カネダとダフも安心したように同意する。ここからもゼラと三人が心中では反目し合っていることがわかる。そして、流した手紙に三人とも「ずっと三人で友達でいたい」という内容であったことが判明し、見開き2ページで三人が笑いあっているシーンで回想は突然に終わる。そして、急に、タミヤがダフにパチンコを向けているシーンに切り替わる。この漫画の注目点は「壊すために完璧に作り上げる」という点だ。タミヤは小学生の時に、ダフにふざけてパチンコを向けて「俺がお前にそんなことをするわけがないだろう」という趣旨のことを言う。ここは「ライチ☆光クラブ」読者なら涙涙のシーンだろう。古屋氏はあるシーンの残虐さ、喪失感、その中に潜む快感をより鮮明に映すためしっかりと友情を作り上げる。そしてその二人をぶつけてぶっ壊す。胸が締め付けられるような苦しみ、悲しみと、しかしどこか快感に近いような美しさがそこにはある。最期の救いようのない結末も、少年たちの儚さ、刹那的な美しさが潜んでいる。しかしこれも細かく作り上げた設定、描写が大きく影響しているだろう。古屋氏のありのままに少年を描く力には感嘆である。
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