ゲームに想像力をかきたてられた、切ない魔法の世界
荒いゲーム画面だからこそ、かきたてられる想像力
自分はこの話の元のゲーム「LUNAR」を知らない。「星の砂漠・タルシャス・ナイト」で作者の船戸明里氏を知り、気にいって、同作者のものというので、この本を手にとった。元のゲームを知らなくても、十分に読みごたえがあり、むしろ、あとがきで、ゲームが元になっていると知って、こんなに絵がきれいで、物語の深みがあるゲームが、存在するものかと、驚いた、というよりは、信じられなかった。今でこそ、人物にしろ景色にしろ、CGでリアルに描かれるのが当たり前になっているとはいえ、この本がでたころは、3Dは珍しく、まだまだ2Dのドット絵が主流だったように思う。パッケージならともかく、漫画に描かれているような作画と世界観を、ゲームで表現できたとは思えない。
作者はとくに、この作品の主人公の、ガレオンに思いれがあるのは明らかで、それにしても、はっきりと顔も分からないゲーム画面のキャラに、そこまで愛着するものかと、不可解に思えるだろう。ただ、経験はあまりないながらに、昔からゲームに興味があった自分には分かる気がする。2Dのドット絵のゲームで本格的にやったのは「ポケモン」と「時のオカリナ」だが、おまけに、ゲームボーイのソフトで、さらに画面が小さくカラーでさえなかったが、豆粒のようなキャラを愛おしく思い、戦闘になれば手を震わせて、イベントやストーリーに心を震わせた。そして、作者ほどでなくても、小さいゲーム画面のなかの世界の、描かれていない部分、曖昧なところなどを、想像していた。正直、ゲームは、そうやって想像する余地を、あえて残したわけでなく、システムの限界だったり、ストーリーの穴だったり、無理な展開だったり、キャラの一貫性のなさだったりの、欠陥を露呈していたのだと思う。ただ、不思議なもので、絵にしろ構造にしろ、不完全だからこそ、自分の頭で補おうとして、想像力が遺憾なく発揮されるらしい。だから、用意された、ゲームの世界を歩きまわりながらも、頭の中では自分の独特の世界を構築しているのかもしれない。
作者独自の魔族という種の捉えかた
あとがきを読むと、ゲームではガレオンの過去は語られていたなかったというので、子供のころの話は、すべて作者の想像によるもののようだ。ページの半分を使ってまで、過去の物語を描いたともなれば、ガレオンへの思いいれは相当なものだが、そもそも、ゲームならではの、魔族に特別な思いがあり、自分の考え方や見方を示したかったのかもしれない。漫画で描かれている魔族は、空に浮かぶ魔法都市をつくり、そこに住んでいたものを、いつからか、人間も住むようになって、気がつけば、人間のほうが多くなり、逆に少なくなった魔族は、昔から変わらない古い遺跡のような町に、潜むようにいる。人間より、長く行き、魔力という不思議な力を持って、はるかに賢い。にも関わらず、人間が栄えたのに対して、衰退、とまではいかなくても、時を止めたようなまま、古びた町にこもっているのか。
生きる長さのちがう悲しみ
すっかり、数も立場も逆転して、魔法都市では絶滅危惧種のような彼らでも、人間に対する姿勢は、それぞれちがう。モリスは人間に混じって商いをして、ロージは人間に魔法を教えて、タガクとラトーナは人との交流をほとんどしていない。ガレオンは、当主とその娘とは顔をあわせているとはいえ、他の人間は避けているようだった。人間が飛空船の手伝いを申しでたときは、断っている。おそらく、このとき、ガレオンは兄のザインを、人間に捕られたと思っていた。人間に魔法を教えていたザインは死んでも、生徒たちに慕われていて、その様子を見たガレオンは、弟にはそっけなかったくせに、人間には優しかったのかと、気に食わなかったのだと思う。だから、飛空船の手伝いを拒んだ。兄を捕られて、遺した飛空船まで捕られてはなるものかと。
が、どうしても手伝いが必要になり、実際に人間に接してみて、その性質や個性を知った。そういう経験をしてから、飛空船の骨組みに「飛空船は人間の未来のために」とザインが書いた落書きを見て、ガレオンは怒ることなく、笑っていた。ザインの日記を読んで、兄が無関心だったわけではないと、知れたおかげもあるのだろうが、人間を知って、ザインがそう思うのが、納得できたのだろう。それまで人間とふかく関わることのなかった、ガレオンはなにも知らなかったようだ。人間がいちいち呪文を唱えないと魔法が使えなことも知らなかったのだから、自分に近い存在に思っていたのかもしれない。ただ、実際に接してみて、人間は、自分たちのような高い能力がないこと、とくに、生きる時間が限られていることを、実感した。短い命では、なかなか、飛空船を完成させられないように思える。一方で、魔族である自分は一世代で成すのが可能なら、人間が何世代もかけて叶えられるような夢を見せてあげたいと思ったのではないか。飛空船を魔族のために残さなかったのは、ザインが魔族より、人間が好きだったからではない。魔族なら、自分が手助けしてやらずとも、飛空船をすぐに作れると思ったからだ。そのことに気づいたから、ガレオンは笑えたのだろう。
飛空船をともに完成させたことで、人間とのわだかまりが消えたものの、ガレオンは残った魔族と一緒に、魔法都市をでていってしまう。ラトーナが当主を殺そうとしたので、いづらくなったというのもありつつ、兄のように、人間を愛しいと思ったからこそ、一緒にいられなくなったのかもしれない。長く生きている間に、親しい人間の死を何度も見るのは、辛い。魔法都市から魔族が減少していった原因というものは、はっきりと描かれていないとはいえ、案外、人間との摩擦や軋轢のためではなく、そうやって辛さに耐えきれずに、去っていったのではないかと思うのだった。
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