レベル上げこそ人生
スライムであることの意味
スライムとは本来ドロドロの触感の物質のことであるがテレビゲームやファンタジー小説が広く知られているおかげで、スライム=ゲル状のモンスターというすりこみが読者にありこのタイトルからそちらを想像する読者が大半だろう。そのためゲーム好きにとっては入り込みやすく、また吸血鬼やドラゴンと違って、特殊能力はあっても余り強いイメージは無いので縛りプレイが好きなゲーマーの私にはニヤニヤしながら読めた。回を進めるごとに人間化したり指揮官的な活躍をしたりスライムである意味がないのではと感じたが、強敵との対決で「溶かして相手を喰らう」というスライムらしい戦い方を忘れなかったのは印象的で、たくさんの個性あふれるキャラクターの中でも埋もれない。
主人公の転生先がスライムであることの意味は、意外性を狙ったと同時に読者がスライムの知識を持っていて姿を想像しやすいことからだろう。といってもスライムという架空の生物の姿が想像しやすいというのは奇妙な話ではある。TRPGなどをプレイするごく少数の人しか知らなかったスライムが家庭用ゲーム機の普及などにより広く知られることによって生まれた作品であり、たとえこの作品を100年前の人に見せても理解できる人は少数だろう。
考え方次第では、創作物が新たな創作物を産み出した一例であるとも言えるだろう。
強くなることは気持ちいい
この作品のテーマを上げるとすれば成長だろう。主人公本人が肉体的に強くなることもそうだが仲間、自国の領土、鍛冶技術、ダンジョンの運営など成長していく要素に溢れている。スライムはテレビゲームキャラのイメージが強いが本編の内容もそれに違わずテレビゲーム的であるといえるだろう。主人公と仲間は何度も敵と戦うことになるが、それぞれ多種多様な成長をするため自然と戦術に差がでてワンパターンになりにくく見ていて飽きない作りだ。自国の領土を広げていく展開はさながらストラテジーゲームのようであり、組織対組織の広範囲に仲間が散開し戦う場面は全員で1人の強敵と戦うのとはまた違った緊張感がある。主人公の性格ゆえこちらから侵略戦争を仕掛けることはしなかったが、結果的にどんどん領土と同盟国が増えていく様は壮観である。鍛冶技術はハクスラ的で非戦闘員のキャラクターと一緒に戦っている気分にさせてくれる。ダンジョンの運営はメタな視点でゲームを表現しており作る側の難しさと改善していく楽しさを感じさせる。
基本的のこの作品は成長、戦い、成長のループでありながら毎回新しい要素が入って来て飽きない。そして最後にその成長してきたすべてを用いた最終決戦は王道的で綺麗な終わり方だ。このことから作者がかなりのゲーム好きであり、その魅力をあらゆる方面から理解している人物であると推測できる。
マズローの欲求5段階の自己実現といえば大げさだが1巻を読んだ読者が2、3巻でも脱線せず同じ欲求を突いてくる作者であるといえるだろう。
しこりを残さない
誰かが一方的にいじめられたり死んだりするのは物語上必要だったとしても気分がいいものではないだろう、この作品はその辺りが徹底している。死んでも生き返る、戦死者を出した種族全体を取り込んで仲間にするも時間をかけてその後のケアをして恨みを残さない、敵を殺すときは時は相手が憎らしくなるような展開を事前に入れて帳尻を合わせる。もちろん主人公も死にかけて逃げ出したり、仲間に執拗に追いかけられたりして適度にひどい目に遭わせることを忘れない。最終回で転生前の主人公自身も生き返らせたのは執念を感じた。このこだわりは前述した強くなることの気持ちよさを阻害しないための処置であると私は考える、まさに究極の娯楽作品であるといえる。
弱肉強食の世界で名前のあるキャラクターがほとんど死なないのはご都合主義が過ぎるが、それでも押し通した。物語で主人公が味方を切り捨てる真似を絶対にしなかったことからも、そのしこりを残すまいとする意志は感じられる。人生だれしも苦しい取捨選択を迫られたり、胸糞悪い終わり方の事件に遭遇したりしただろう。
しかし、この作品はそれら全てを例え多少の無理を通しても無くした、文字通りの夢物語である。
成長することの意味
成長を推し進めていけばどこかで限界に達する、ではそこからどうするか。それを象徴するエピソードが主人公が敵に殺されたふりをして身を隠し、裏切り者をあぶり出すシーンである。主人公の戦死を伝えられ絶望的な状況になっても、勝利の為各自の判断で行動する仲間達。これまでの物語でずっとリーダーである主人公の指揮で行動してきたところでこの展開は胸を熱くさせた。
自分の成長に拘らず、後輩達の育成こそが大事だと作者は考えていると推測する。実際後日談でも学校を開設したり、相方の尻拭いをしたりと自分は裏方から仲間の成長を見守っており、次の代へ物語の世界が受け継がれていくような書かれ方をしている。
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