ほんわか優しい物語…じゃなくて推理戦だった
遊郭に売られていた鈴
没落した華族の出で、遊郭へ売り飛ばされてしまった姉妹。姉妹ともに賢く美人であったが、姉は遊郭で客をとらされるにつれ苦しさに耐えかねて周囲を巻き込み自殺してしまいます。饅頭に毒を仕込んで女郎を殺すとか…ひどいね…救っているんだか地獄へ落としているんだか、死んじゃったらもう何も見えない。だから、姉のしたことは許せるもんじゃないと思う。だけど、鈴はそんな姉を見ながら、外の世界の希望を捨てずに生き続ける道を選びました。姉の策略にかかって妹も…かと思いきや殺されたふりをしてあげたっていうのが驚き…!10歳かそこらでそれほどまでに賢いってどうなってんの?そこを津軽という商家の長男に身請けとして引き取られることになり、物語はそこから始まっていきます。
姉は自分が不自由なく暮らしている側だったことが最後まで捨てきれなくて…って感じだったけど、そりゃー毎日毎日好きでもない奴の夜の相手をするっていうのは地獄よね…妹の鈴はまだ年が満たなかったことを理由に雑用係をしていて難を逃れていただけで、あと少し遅かったら強い瞳は曇っていたかもしれないね…回想シーンで出てくる姉の絶望の涙のイラストが、妙に心をぐらぐらさせて嫌でした。そんな世界もあったんだろうと思うから。今でも風俗がどうのこうのと言われるから、女の苦労はいつの時代もなくならないのかな…はてさて、鈴はそんな世界から救われて、その頭の良さを武器に子どもなりに一生懸命津軽のために働こうと誓います。少しずつ恋心を大きくさせながら…
探し物屋が探すのは誰かの心
物語のはじめのほうは、これは長く続く物語だろうなーという印象でした。「探し物屋」というお金にもならない、誰かの探しているものを見つけてあげる仕事って、いくらでもエピソード作れそうじゃないですか。そして最後のほうは鈴の家族がどうのこうのというあたりを見つけて、ほわほわしたままハッピーエンドを迎えるのだろうと予想しました。絵もかわいい系だし。ところが…まさかいい話かと思いきやドロドロサスペンスに頭脳戦まで繰り広げられる展開が待っていようとは。最初の数話、いったい何だったんだよ!自分が身請けされてこの幸せな時間を手に入れた・いずれはいらなくなるかもしれないという不安がずっと鈴にはあり、津軽以外の世間の人間には決して受け入れてもらえないだろうという恐怖とどう戦っていくのか、そして身請け金を出してくれた津軽の両親とどう和解していけるのか、といったところが終盤にくると思っていたのに、そんな甘っちょろい説を優に飛び越えて、ハチャメチャな展開へとなっていきます。心臓がドキドキして後半はかなり疲れるんですよね…
津軽、親友である河内慎一郎、鈴の3人は、佐之次の裏切りのあと、津軽の両親のお店や鈴を思いっきり巻き込んで、鉄砲あり殺しアリ、犯罪横行、いびつな欲望渦巻く展開へと発展していきます。あれ?いい話系はどこへ…?核心へせまるにつれ、津軽と鈴の関係性も危うくなりまくりだったし、途中もう読むの放棄しようかっていう甘さのなさには驚かされました。
裏切りの裏切りの裏切り
なんかもう…普通裏切りって1回か2回じゃない?3回って一周して戻ってきてます。佐之次、いや佐之助、いや六郎!どれが本当の君なんだい?でもね。鈴が突き飛ばされて板材の下敷きになりそうになった時、身を挺してかばってくれたじゃない。だから絶対いい人なんだということは疑いようがありませんでした。鈴たちに協力するふりをして春時に仕えていた。と思ったら春時をダミーに実は遠峰さんをボスとして活動をしていた六郎さん。子ども時代のエピソードなんてもう…かわいそうだしつらいし、お金がないこと・身分が低いことでの差別ってとんでもないなと思いました。これが昔普通にあったことなのかなって思ったら、とてもつらかったです…でも同時に、そうやって罪なき者が死ぬことができるだけ少なくしようとがんばった人たちもいたんだろうなと思うと、なんか嬉しいよね。
春時もすごくドラマティックでしたね~血が実はつながっていない兄妹であるとか、家で受けた仕打ち、そして鈴への憎しみは愛情の裏返しになっていて…切なげな表情がそそるね。最終的には遠峰を裏切り、鈴のもとへ帰ってきてくれて、よかった…!遠峰も、どう考えても歪みまくっていたので、夫人に刺されるという結末はざまぁと思わずにはいられなかったし、死にきれなかったこともざまぁと思いました。心が震えることを探していたという遠峰さん。窮屈に生き続けることが何よりの罰になるでしょう。
春時か津軽か
正直、津軽でも、春時でも、どっちでもアリだったと思います。いつまで経っても恋愛には発展しそうにない津軽と鈴。そりゃー年の差どうなってるの?というくらいの年の差で、好きとか嫌いとか、待つ待たないっていうのは、つらいと思うから。春時に関しては、もう抜群に鈴を大事にすることは目に見えていたし、わだかまりの解けて再び一緒にいられることを選ぶっていうのも絶対アリだなって…。いや、個人的に春時がすごい好きだからだけどさ…。どっちを選ぶかによってどちらかと離れなければならないということが、鈴にとってはすごくつらいことでした。まさか河内が最後の最後にきて、あんなファインプレーをしてくれるとは…君はこのために今まで役立たずだったんだね…鈴が言いたいことを告げれば、きっと春時とも津軽とも離れずにいられるはず。鈴の願いを叶えないような奴らじゃないから…河内、
さすが俺の親友だ
その通り。もう君の株は急上昇しました。
春時さんは、鈴が想っている相手の計らいによって暮らすことは屈辱だったかもしれないけど、何より鈴と一緒にいることができる唯一の方法なら、仕方ないよね。
16歳になるときまで兄でいることにしよう
なんて意味深な…!絶対に恋のバトルが繰り広げられるに違いない。最高のフラグを残してくれました。やっぱり春時さん、かっこいいっす!鈍感で何も言えない津軽よりもかっこいいっす!
恋は憧れのままに続編へ
最後に何らかの方法で両想いになるのかと思いきや、なんと続編へと流れてしまいました…うん、そりゃー成長してからのほうが絶対安全だ…「明治メランコリア」として、お互いに成長した津軽、鈴、春時、河内などなど…いろいろな人のその後はきっと明るい…かどうかはわかりませんね。明治緋色奇譚のこのままのノリでいくと、また絶対大規模な推理サスペンスが繰り広げられるんでしょう、どうせ。甘いままで終わるとか絶対なさそうだからな~
「身請けされた人間」というレッテルに負けず、自分の能力とそのポジティブさ・強さでいろいろな人を味方につけていった鈴。早く大人になりたいとずっと思ってきた彼女。でも女性は何才だろうが強しだなと思いましたね。明治というこれからまさに変わっていこうとしている時代に生きた女性は、きっとこんなふうに今までの常識を覆されて日々生きていったんだろうなと思います。決まりもあるようでなく、自由なようで自由でない時代。恋する気持ちだけは嘘偽りなく、いつの時代も鮮やかなものです。願わくは次作はもっと甘いものがみられることを…そして序盤に登場した叶がかっさらいにやってきてくれることも切に願いますね。絶対おもしろくなる。叶は絶対イケメンでしょうね。間違いないです。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)