ただの心暖まるお話だけじゃない!
陽子さんの考えていた一歩前の世界
陽子さんはなぜ突然姿を消したのか。私はそれが謎で仕方ありませんでした。正宗が学生とはいえ2009年の当時の時代であればできちゃった婚など当たり前のような風潮だったのになぜあんなに正宗のことを考えた上でのシングルマザーを選んだのか。私が浅はかだったと2016年の暮れに考え直させられた。あれから7年。私も大人になり「子供を産む」ことについてそんなに甘くない世界だと知った。ニュースで流れてくる「児童虐待」や「児童放棄」。親として自分の子供にそんなことができる時代になってしまった。陽子さんは誰よりも大人で慎重に考え、ひとりでコハルを育てた。きっとそれで幸せだったんだろうなと今感じます。すぐ横の街に住んでいる正宗くんよりも目の前にあるコハルとの幸せを思えば、愛おしい人との子供だと一方的に思っていればそれだけでよかったんだろうなと。人の幸せを純粋に思うことができる陽子さんはいつも正宗より一歩前へ、子供のような笑顔を見せるけど、いつも現実を真っ先に受け止め理解する、芯はしっかりとあるしゃんとした大人だったと気付きました。
正宗の父親としての誇り
陽子さんへの思いがどうしても消えない正宗。男女の関係は難しいなと思います。陽子さんのことはいくらでも思える。返信のない手紙を何十通も送れるほど。では何故愛した人との子供だとなにかと理由をつけてあたふたするのだろうか。あたふたする前に確認すればいい。と私は思うわけです。しかしこの物語を通して正宗はどんどん成長していきます。全てを受け入れ、今は亡き愛する人の次に愛するべき人ができたから。どうすれば陽子さんが喜んでくれるのかという子供の育てからからどうしたらコハルちゃんのために何かができるだろうかという思いに変わったのではと解釈しています。陽子さんを通してコハルちゃんへの愛がどんどん大きくなって、自分の夢ではなく娘を選ぶシーンなんかは胸の奥がグッとなりました。最終的に離れ離れになるわけですが、コハルの後押しだけではなく、確実に正宗の心のなかで「父親としての誇り」があって、しっかりと娘にその意思を伝えるという言動が行えていたように思います。バスのシーンは全米が泣いたとはこのことかと思わせるような父親の誇らしげさでした。
子供の本能が動きだすコハルの思い
コハルちゃんです。かわいいです。とてもキュートです。石井萌々果ちゃんはまさにコハルにぴったりでした。コハルは子供なのに強い人間です。本当は自分の気持ちを一番に優先にしてほしいはずなのにママをなくした事があり全てを我慢するようになってました。正宗くんと出会って、ママの口から出ていたあの名前を信頼するしかなかった、いわば子供の本能的な部分で正宗くんに寄り添います。ただこの正宗との暮らし始めはうまくいかず、コハルも戸惑います。一緒に暮らし始めるようになって、ママのお話を聞くようになって初めて正宗くんの前で泣きます。ここで一気に我慢していた感情が溢れだしやっと子供らしさがでるととももに、心から正宗を信用し始めたのではないでしょうか。「ママが言ってた正宗くんは頭のなかで思い描いてた通りの人」となり正宗との距離を縮めようとここでも子供の本能的なものが動き出します。子供にはしっかりとした感情がないように思うのでこの物語では、基本的に子供の本能的なものが発動した時に次に進める一歩になるのではないでしょうか。そして正宗が自分のせいで夢を諦めるシーンに至っては、正宗くんのやりたいことをやってほしいというまた子供の本能的な部分が発揮され、ふたりは前に進むわけです。「子供の本能」はすごく柔軟で敏感で無限の可能性を秘めているんだぞ、とコハルに言われているような感じ。コハルを通して自分を見つめ直すいい機会になる作品でした。
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