とうていヒーローとは言い難い主人公のヒーロー物語 - 伝説の怪物の感想

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伝説の怪物

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とうていヒーローとは言い難い主人公のヒーロー物語

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目次

キタイノアトツギ・ヒック・ホレンダス・ハドック3

ヒックはヒーローどころかバイキングとも言い難いような、弱虫で平凡な男の子です。島で唯一ヒックのことを認めているのはリンクリーじいさんですが、そのリンクリーじいさんもバイキングたちから認められているともいえない存在です。モジャモジャ族のカシラの息子でなければ誰からも相手にしてもらえなかったでしょう。しかも、親友といえるフィッシュもヒックと同じぐらいバイキングの中では落ちこぼれだったため、まわりの子の足をひっぱってばかりです。

これだけ頼りないバイキングの後継ぎもいないというようなヒックですが、「自分は後継ぎだ」といばることも「誰も自分のことを認めてくれない」とひがんだりもしていません。それどころか、自分ができることできないことをちゃんと把握して行動しているようにも思えます。力がすべてのバイキングですが、ヒックはどうがんばってもその力を手に入れることは不可能そうです。そのことをちゃんとわかっているかのように、力をつけることよりドラゴンの知識を深める努力をします。オキテでドラゴンの言葉を話すことは禁じられていて、ドラゴンを調教するのは「怒鳴ること」だけで十分だと言われていましたが、ヒックはドラゴンへの理解を深めたり会話をしたりすることで力がない部分を補おうと考えたのかもしれません。そういったところでいえば、周りに流されず自分自身をしっかり持っている人物だといえるでしょう。

今までとはちがうリーダー

ヒックのリーダー力が発揮されたのが、シードラゴンとの戦いでした。力でシードラゴンに対抗しようとする大人たちに対し、ヒックはシードラゴンと会話をすることで解決しようとします。相手に対し、一方的に話し合いはできないと考えるのではなく、もし無駄に終わったとしても被害が少ない方法を模索しようとしたのでしょう。

話ができるかどうかは、実際に話をしてみなければわかりません。たとえそれが、言葉が通じない・話し合いができないと思っている存在であったにしてでもです。しかし、そう思って他者とかかわる者は少ないのではないでしょうか?この場合は人間とドラゴンですが、それは人間同士でもよくおこることでしょう。なぜ、話ができないと思ってしまうのかを考えると、それはできないと思っている側が、相手を見下していることが大きな原因のようです。最初から相手が自分の言葉を理解できないと思っているために、相手にわかるように・通じるように話をしようとする努力を怠り、結果話し合いにならなくなるのです。

オキテに頑なまでに従おうとする大人たち

バイキングのテストでは、ドラゴンがちゃんと命令に従うようになっているかが重要のようです。ヒックたちは飼っていたドラゴンたちが、そのテストでけんかを始めてしまったため不合格となってしまいます。そして不合格となると、モジャモジャ族のバイキングとは認められず島流しになってしまうようです。子どもたちの中にはカシラの息子であるヒックと、甥であるスノットがいます。ここはカシラの権限で島流しにならないように図ってもよいのではないかと思いますが、ここではそういうわけにもいかないようです。あまり策を講じることもなく、あっさり島流しを決定してしまいます。

以前に島流しにあった子どもたちがいるのであれば、テストに不合格したら即島流しとなってしまっても仕方がないのかもしれません。そしてそのテストが本当に、バイキングの資質を図ることのできるテストなのであれば、いくらカシラの権限で島流しにならなくても、バイキングとしてはまったく役に立たないということになるのですから、むしろ島流しになったほうが島で自分の居場所がない・誰からも相手にされないというよりはましになるのかもしれません。しかし、この後の子どもたちの活躍を見ると、決してこのテストがバイキングの資質を厳選するようなものではないといえるでしょう。不合格となった要因を考慮することもせず、あくまで結果だけを見て不合格にしてしまっているようにしか思えません。しかし大人があくまでオキテに従おうとするのは、オキテに背いてしまったら、今まで信じて従ってきたことが崩れてしまうからかもしれません。そんな不安感の方が子どもたちをどうにかして守りたいという気持ちより勝った結果だったといえるでしょう。

将来有望な子どもたち

大人たちが自分たちを助けてくれないことを悟った子どもたちは、どうにか自分たちで島流しになることを乗り切ろうとします。そして見事シードラゴンを倒すことで、バイキングとしての資質を大人たちに認めさせます。子どもたちにとっては島流しされたくないという一心で行動したことかもしれませんが、オキテを破ることを恐れて何もしない大人に比べて、子どもたちの方がよっぽど勇敢だったと言えるでしょう。

バイキングとしての資質の有無は別として、目の前の問題に対してどうにか解決しようとする行動力は子どもたちの方が勝っているのかもしれません。一般的には経験・知恵というのは問題を解決するのに非常に役立つものと言われていますが、経験・知恵にしばられてしまっては解決するものも解決できなくなってしまいます。今回はオキテに間違いはないという大人の経験が問題解決の妨げになっていたのは明白でしょう。

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