本当に大切なもの
ファンタジー要素
物語冒頭から、怪しさを漂わせる僧侶の登場は、妖怪の存在を感じさせ、ファンタジー色を打ち出したものだと思います。
しかし、そこからは主人公タカネの日常生活が描かれ、ファンタジー要素を感じさせません。ファンタジー要素を必要最低限に抑えているように感じさせます。小学生であるタカネの人物像に焦点が当てられ、良い成績をとることができたら、新しい自転車が買ってもらえるという背景が描かれています。現実社会においても、よく見られる背景なのではないでしょうか。特に、子供が勉強することに仕向ける為に、親がご褒美という名のエサを用意することは多いです。自分自身の幼少のころを振り返ってみても、同じような経験を思い浮かべることができます。多くの方が経験している背景なのではないでしょうか。そして、多くの方が経験している背景だからこそ、アニメ本編に感情移入してしまうように思います。
ファンタジー要素を最小限に抑え、追求しているのはリアリティーなのだと考えられます。そして、リアリティーを追求することで、本編におけるメッセージ性についても強調したいという意図があるのではないでしょうか。そして、視聴者を親世代と想定した際、自分自身の発言や行動、教育を改めて見つめ直してほしいという気持ちが込められていると考えられます。
背景となっている世界観
アニメ本編で描かてれいる場所は田舎町であり、時代設定は現代社会です。
それを一発で表している場面が、家電屋さんに置かれた液晶テレビの存在です。薄型の液晶液晶テレビの存在は、明らかに現代という時代設定を示唆するものです。時代設定を昔に設定するのであれば、描かれていたテレビは薄型の液晶テレビではなく、箱型のブラウン菅テレビだったことでしょう。
そして、液晶テレビの放送に、多くの方が集まって観ている様子は、田舎町という場所を示唆するものだと考えられます。
都会を表すなら、大きな家電量販店だったことでしょう。そして、テレビの放送に人々が集まる光景は、都会では見られないものです。
カラーテレビが発売されたばかりの時代を彷彿とさせる場面であり、液晶テレビの存在が浮いています。カラーテレビが出たばかりの頃を生きてきた人たちの行動が、そのまま描かれています。お年寄りの多い田舎町という場所の設定が分かりやすく理解できます。
そして、そんな田舎町で、伸び伸びと育っていそうな主人公が、勉強ばかりしていることに違和感を覚えます。
背景においては、重要視されているのが現実世界です。
そして、それはリアリティーを感じて欲しいという制作スタッフの意図なのだと考えられます。そして、リアリティーを求めた背景には、前述しているように、作品自体のメッセージ性をリアルに感じて欲しいと気持ちの表れだと考えられます。
新しい自転車
そして、田舎町において、自転車の存在は大きく、移動手段として重要なものであることは明らかでしょう。そして、最新式の自転車というのは、所持しているだけで本人のステータスとなるのではないでしょうか。
友達と自転車のスピード勝負をすることで、負けてしまう場面がありました。
新しい自転車の性能を表すもので、憧れの対象であることを指すものです。主人公のタカネの手に入れたいという気持ちも大きなものになったことでしょう。そして、タカネが勉強に取り組む姿勢を、自然な行動と感じさせるものです。
作品タイトルが指すように、アニメ本編の中で、自転車という存在が持ち上げられています。
そして、視聴者として捉えたとき、自転車は親に買い与えられた経験をしている方が圧倒的多数なのではないでしょうか。すなわち、視聴者の多くが、主人公タカネに対して共感という気持ちをもつことができると考えられます。
だからこそ、自転車の存在が強調されているのだと考えられます。
塾の成績
勉強には本気で取り組んでいたのに、母親と約束していた成績を残すことができませんでした。
本編の中で、持ち上げられ、さんざん煽られていた自転車が手に入らないことを意味します。それでも、タカネは新しい自転車が欲しいという気持ちを諦めることができませんでした。母親に嘘の成績を伝えてしまいます。いずれ、バレるであろう嘘をついてしまうタカネが印象的です。
そして、嘘をついてしまったという良心の呵責に苛まれます。それを現実社会で指摘するのが、妹の存在です。妹の存在は、タカネの良心といえるのかもしれません。
そして、現実の結果を認めたくない、嫌な現実に目を背けたくなる気持ちが、描写されていたように思います。
親からすると、子供の気持ちを分かってあげられていないことは多いと思うのです。
そして、一方的に教育という旗を振り回し、注意喚起してしまっているのではないでしょうか。親として、自分自身の子供との接し方・行動と照らし合わせて考えてみることが必要だと考えられます。
物語冒頭での布石
冒頭部分で描かれていたファンタジー要素が、中盤では息を潜めていました。
観ていて、忘れてしまうほどでした。妹の存在は、タカネの良心であり、認めたくない現実だと言い換えることができます。妹の存在が居なくなれば、物事が上手く進むと勘違いしてしまったのかもしれません。
そして、タカネにとって妹の存在は、良心であり、認めたくない現実なのかもしれません。しかし、それと同じように、タカネにとって、守らなければならない存在です。
タカネ自身の葛藤が、キツネとの戦いというファンタジーな描写で表現されていたのだと思います。
そして、タカネ自身が、本当に大切なものに気付けたのではないでしょうか。
作品におけるメッセージ性
タカネの成績について、点数ではなく、順位という表現がされていました。
ここは本編の中で注目するべきことではないでしょうか。順位という評価基準は、競争原理を働かせる一方、大切なものを見失ってしまう一面もあります。そんな問題提起を、意図的にしているように感じさせます。
また、母親の教育方針においても、疑問を感じさせるものではないでしょうか。
ご褒美という名のエサがあることで、勉強に真剣に取り組むようになるのかもしれません。しかし、大切な見失いがちになるという落とし穴があると思うのです。
勉強も大切なのかもしれませんが、人間性の成長の方が重要なのだと思います。そして、それが制作スタッフの方が込めた、当作品のメッセージ性なのではないでしょうか。
子供向けのアニメ作品だと思いますが、親という立場でみた時、改めて自分の行動や発言を振り返ってしまいます。
「本当に大切なもの」というのを改めて考えるキッカケになる作品でした。
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