大地監督自主制作の本格手話アニメ
大地監督自主制作作品
大地丙太郎(だいちあきたろう)監督が手掛けたTVシリーズアニメ「こどものおもちゃ」。2年間102本の制作が終わった後、「まだ物足りない」「同じテーマでまだ何かやりたい」ということで本作の原作にあたる漫画をアニメ情報誌に連載した。しかし、アニメ化の話にはなかなかならなかったことから、自主制作という形でのOVA化を企画した、というのが本作の始まりということである。自主制作作品ということで、制約がない分やりたいことがそのままできるという反面、自分を含めてスタッフを管理する必要があり、いろいろと大変だったらしい。また、別作品のTVシリーズなどと掛け持ちでこなすため、スケジュール的にも大変であったということである。その甲斐あって、ストーリーやテンポの良さなど大地監督色が全面に出ている作品に仕上がっていて、見る者を元気にしてくれる作品だという印象である。スタッフ、声優陣もそれまでに大地作品にかかわった人を多く起用ししていることから、大地監督の作品ではどういうことをすればよいのか、ということが浸透しており、大地監督の作品の良さ、特徴がはっきりと出ていると感じられる。なお、本作は監督が尊敬する赤塚不二夫氏原作で便利屋の話である「まかせて長太」を参考にしており、便利屋の話を自分でも作りたいという思いから本作ができたとのことで、タイトルも半分使わせてもらったとのことである。
本格的な手話をとりいれた初の作品
今まで手話がアニメにほとんど出てこなかったのは、手間のかかる手話をあえて出す必要もなく、障害者のキャラクターを出す必要性もなかったから、というのが、大地監督の分析である。それでも手話を取り入れようと思ったきっかけは「手話の動きがカンフーのようで、あの動きに“シュッ”などの音を入れてみたいと思った」ことらしい。「口パクだと3種類の絵ですむところを細かな手の動きを表現しなければならず、それに加えて手話監修の人が一切の妥協をしなかったので制作スタッフは大変だったと思う」とのことで、妥協をしていないため、アニメを通して正確な手話が読み取れるとのことだ。DVDにアニメ内で出てくる手話を実際にやっている映像があるが、全く同じなのである。見事に再現されている。これから見てみようと考えている人はぜひ“指文字”だけでも覚えてから見てみるといい。作中、“い”、“る”、“か”という指文字が出てくるが、そこだけ見ても再現率の高さがよくわかる。また、序盤のマシンガン手話トークはこの作品の見どころの一つであろう。この手話であるが、監督曰く、「手話を使うのは障害者であり、主役3人娘の一人が耳が聞こえないという設定にしている。しかし、手話を使って一生懸命に過ごしている、というお決まりの同情物語にはしたくなくて、健常者と暮らす中で何気なく手話が出てくるだけの位置づけにしたい」ということである。この言葉を頭において本編を見てみると、確かに監督の意図通り、手話は主役になっていないことが分かる。手話がなくても物語はきちんと成立するところに、“手話”というパーツを埋め込んでいるような感じといえばいいのだろうか。ストーリーの中に手話が自然に溶け込んでいるのである。
絵手紙風のキャラ作画で元気のよい温かい印象に
ここまでは本作を収録したDVDの映像特典である大地監督インタビューを参考に考察したが、ここでは筆者独自視点で考察していく。ここでは“キャラクター作画”に注目したい。主役3人娘の髪の色が端の方が塗られておらず、白になっている。この手法は絵手紙でよくみられる手法である。ものの一部の色をわざと塗らずに白い部分を作ることで、立体感を生んだり、躍動感を生んだり、趣のある絵になる。もちろん、本作のキャラクター画担当者が絵手紙を意図したかは分からない。しかし、この白い部分があることでキャラクターにより優しい雰囲気が出るとともに、躍動感も生み出しているように思われる。パステル調の色合いも、温かさを感じさせるものになっている。
重いテーマをしっかり描きながらも楽しい作品
最後に、大地監督作品について考察してみたい。本作のテーマ(描きたい内容)は「大人が作り上げた世界の中で生きる子供たち」ということである。理不尽があっても自分たちでは変えることができない世界で、その理不尽を逆に利用して生き抜く、そういうパワーを持って過ごしていれば何とかなる、ということを描きたいとのこと。このように大地監督作品はかなり重いテーマを扱うことが多い。しかし、それをしっかり描きながらも全体として重くせず、合間合間でギャグ要素をちりばめて楽しい作品にも仕上げているというのが大地監督作品の大きな特徴である。「フルーツバスケット」しかり、「こどものおもちゃ」しかり、である。無論、例外もある。大地監督作品には「今、そこにいる僕」という作品があるが、これにはギャグ要素はなく、最初から最後まで重い雰囲気が続いていく作品である。が、基本的に、シリアスとギャグのバランスが秀逸なのである。
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