皆が私を愛しても、夫は私を愛さない - ある公爵夫人の生涯の感想

圧倒的に美しいビジュアル

色鮮やかな緑、風にふくらみ広がるドレス…

本作は冒頭から、観る人の心をビジュアルの力で惹き付けます。冒頭の映像で観客の視覚を魅了する映画はいい映画だ、と私は思っているので、本作を初めて観たときも期待に胸を躍らせました。そして観終わったあとも、その期待は間違っていなかった…！と思いを確かにするほど、本作は私にとってはとても良い映画でした。

景色や建物のみならず、美術・舞台装置なども美しいことこのうえない本作。なんといっても美しいのが、各シーンでヒロイン・ジョージアナが身にまとっているドレスです。どれをとっても非常に美しくて、美麗な衣装の数々を見ているだけでウットリしてしまうほど！それもそのはず、本作の衣装デザインは、第81回アカデミー賞・英国アカデミー賞・サテライト賞において衣装デザイン賞を受賞したうえ、全米衣装デザイナー組合賞の「時代映画部門」でも衣装デザイン賞を獲得しています。私が最も好きなのは、政治活動をしているときの、深い青の美しいドレスです。これには、同意する方も多いはず。

「彼女を愛さないのは夫だけ」 - 結婚という地獄

ビジュアル面で大変目と心を満足させてくれる本作ですが、ストーリーは決して幸せなものではありませんよね。

地位も身分も名誉も、財産さえも申し分のない相手との、まさに「幸せが約束されたような」ヒロイン・ジョージアナの結婚。もちろん幸せはそんな部分にのみ宿るわけではないけれど、「何不自由ない」という点ではこの時代、この結婚は幸せな結婚と言っていいものだったのだろうと思います。けれどその結婚が、中身まで幸せに溢れているとは限らない。名門・デヴォンシャー公爵家の５代目である無口な夫・ウィリアムはジョージアナに特別愛情を示すこともなく、ひたすら男子の後継者を産むことのみを求め続ける。母親さえも味方ではなく、苦しみを理解してくれる人はいない。夫が愛人に産ませ、「母親の練習になる」と押しつけてきた義理の娘を含め、子は女の子ばかりで、夫はその子供らにも何の興味も示さない。夫の関心は「妻が男児を産むこと」と飼い犬にのみ注がれており、「ジョージアナ自身」は求められてさえいない…。

なんて辛い結婚生活！と嘆きたくなりますが、どれほど辛い結婚だとしても、この時代、簡単に離婚することができないのですよね。現代のお話であったなら、「ええいジョージアナ！そんな夫とは離婚しなさい！離婚！」と憤慨しているところですが…。

夫にも愛を求められないジョージアナは、自らの政治活動の中で真実愛する相手を見つけます。しかし夫は、自分は自邸に愛人を住まわせてさえいるくせに、ジョージアナが愛人を作ると自分の世間体ばかりを気にかけ、「彼と別れなければ子供とは二度と会わせない」と脅しさえする。ジョージアナが詰っても、夫は「自分は夫としての義務を果たしたが、君は妻としての義務を果たしていない（世継ぎを産んでいない）」とつっぱねます。

社交界でどれほど周囲からもてはやされても、夫との仲に安らぎも満足も見いだせないジョージアナ。かわいい娘たちがいたとしても、彼女にとって結婚生活は地獄のようなものだったに違いないと私は思います。もちろん跡継ぎが必要だったのはわかっていますが、本当に、ジョージアナの夫・ウィリアムに何度憤慨しても、しきれません…。

男の子のようなくしゃっとした笑顔 - キーラ・ナイトレイの魅力

≪誰もが彼女に釘付け≫≪社交界の華≫とまで謳われたジョージアナ・スペンサーを演じたのは、「プライドと偏見」「アンナ・カレーニナ」など文芸映画でも魅力溢れるヒロインを演じたキーラ・ナイトレイ。彼女はもちろんその演技力の高さにも定評がありますが、真の魅力は笑顔にあると私は思います。

勝気な眉と、強い力を持つ瞳。一筋縄ではいかないような、ただただ従順なばかりの女性ではないことを感じさせる顔つきをした彼女。その彼女の、目と鼻の間をくしゃりとさせる、いたずらっこな男の子のようなあの笑顔！まさに周囲を「釘付け」にする笑顔と言っていいのではないではないでしょうか。キーラ・ナイトレイが≪周囲を魅了する女性≫を演じるたび、その説得力に深くうなずいてしまう私です。

ストーリーの辛さゆえ、あまり連続して何度も見られる作品ではありませんが、衣装の美しさやキーラ・ナイトレイの魅力にひたるため、近々もう一度観てみようかな、と思っています。