阪神・淡路大震災の記録
震災の記録と思っていたら…
観終えた後の印象が、観る前に考えていた印象、観始めた時に思っていた印象とは違ったものでした。個性的な作画であり、印象が違うのかもしれませんが、「はだしのゲン」のように秀逸なアニメ作品に仕上がっていると評価できます。
阪神・淡路大震災の記録という意味でも、後世の子供たちにも見せるべきアニメ作品だと思います。制作段階でそのことを意識されていたのか、表現も比較的マイルドで、見るに堪えない表現は抑えられていました。「はだしのゲン」は子供心にトラウマに成り兼ねない恐怖を与えるアニメ作品だと思いますが、「地球が動く日」ではキツい表現や描写は一切ありません。本当の現場はもっと厳しい状況だったのでしょうし、こんな生易しいものではなかったことでしょう。しかし、その光景をそのまま再現されていたら、観ていて引いてしまう気持ちになったことは否めません。これぐらいの表現で、ちょうど良いレベルだったのではないでしょうか。
ただ、要点はしっかり押さえられたアニメ作品なので、震災時は何に困るのか、勉強する意味でも充分なものだと思います。やはり、震災時に困るのは水や電気、ガスなどのライフラインなのでしょう。
そして、食料においても、すぐに応援物資が届くわけではありませんので、事前の備えはしっかりしておくべきでしょう。
そういったことをつくづく考えさせられるアニメ作品だと思います。また、親御さんが亡くなってしまい、お子さん一人だけ生き残ることも考えられます。そういった子供に対しての、精神的なフォローは大変な課題だと思います。
しかし、アニメ本編を観ていくと、メッセージ性は違うところにあることが伺えます。震災の記録だけを目的として、制作されたアニメではないことは一目瞭然です。特に主人公である剛(つよし)の変化をみていくと、とても分かりやすいです。
主人公の成長
主人公の剛は、性格は自己中心型であり、決して周囲から好かれるタイプではないことが印象的です。制作スタッフは、意図的に剛のことを悪い印象で描いていたのでしょう。ただ、主人公の姿は、世間の一般的な人物像を投影したものでもあるように思います。特に震災発生時には、自らの生活に安定はなく、食べるものを確保するのにも必至の状況なのだと考えられます。
きっと、剛のような人物像に溢れていたことが想像できます。自分に余裕がない状態では、他人に優しくなれないものなのではないでしょうか。また、他人を気遣う余裕すら皆無の状態なのだろう、と推測できます。そんな経験や体験を象徴させた姿が、「地球が動いた日」というアニメ作品、主人公の剛だと思うのです。
そして、剛は周りで起きている地獄絵図のような状況を目の当たりにすることで、子供心に大きなショックを受けたことでしょう。そして、気付かされたことも多かったと思うのです。さらに、自分の幼馴染においても、一家揃ってお亡くなりになりました。そして、両親が亡くなって子供ひとり取り残されてしまった幼馴染もいました。
自分のことしか考えていなかった剛にも、少しずつ変化が表れます。しかし、取り返しのつかないこともありました。生前に酷いことをしてしまった幼馴染に、謝ることもできないということは辛い経験だったことでしょう。
命の授業について
震災後に小学校の授業が再開されて、状況が落ち着いてきたように思えてきた矢先、大切な授業がありました。
剛の担任の先生は、震災後にも生徒たちを支える頼もしい存在でした。しかし、先生から衝撃的な告白があります。先生のお子さんは、震災被害でお亡くなりになられていたのです。しかし、そんなことを表に出さず、ずっと震災被害にあった生徒たちを支えていたのです。この場面が、アニメ本編の中で最も悲しいところだったのではないでしょうか。そして、自分の体験や後悔を生徒たちに打ち開かせる先生を素晴らしい人だと思いました。
そして、それは子供たちの心を育むことに大きく作用させたのではないでしょうか。悲しい経験をした本人から伝えられる言葉ほど、心に刺さるものはないと思うのです。心を震わせるものはないように思うのです。
そして、この授業こそが、制作スタッフの皆さんが、「地球が動いた日」で伝えたかったメッセージだったのではないでしょうか。敢えて、命の授業という場面を設けた背景には、そんな意図的なものを感じずにはいられません。
作品タイトルについて
「地球が動いた」という表現は、単に阪神・淡路大震災の地震を指したものではないでしょう。
私は三つの意味が込められているように感じられます。もちろん、一つ目は、地震そのものを指しているのは間違いないでしょう。地面が動く地震を指して、「地球が動いた」と表現されていることは前提なのだと思います。
二つ目は、物語序盤から大きく成長した主人公、剛の存在です。目指していた夢が変わってしまうほどに大きな変化をしました。剛の目線からの周囲の光景、見え方も大きく変わったのではないでしょうか。決して地球が変わったわけではないのでしょうが、剛から見れば、見方が変わっていることは一目瞭然です。これは、剛の視点で見たとき、「地球は動いた」ことに他ならず、主人公の大きな成長を指しているように思います。
三つ目に、現代社会での生きた災害を目の当たりにして、生活する人々の考え方が変わったことを指しているのではないでしょうか。ボランティアで全国から多くの方たちが救援に駆けつけてくれました。また、これからも発生するだろう災害にどのように向き合うのか、考えていかなければならない切っ掛けだったと思うのです。
人々の思考が危機意識、そして、自己中心的な考え方から助け合う気持ちをもてるよう、成長していくことを願って、この作品タイトルが付けられたのだと思います。
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