自分の価値を取り戻した専業主婦のいのちのパワーと美しさ - だから荒野の感想

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だから荒野

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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
4.50
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自分の価値を取り戻した専業主婦のいのちのパワーと美しさ

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.5
演出
4.5

目次

「家政婦おばさん」からの脱却

桐野夏生原作で、個人的に大好きなNHKドラマ。

NHKドラマの多くは、

その作品を思い出した時にその話の筋よりも先に

独特の質感が蘇ってくる。

WOWWOWの連続ドラマWとはまた違った魅力の、

しっとりと味わい深い人間ドラマが多い。

この「だから荒野」も、不思議な質感のドラマだった。

何の気なしに見始めて、気がつけば

派手さはないけど終始落ち着いたトーンで丁寧に描かれた

登場人物たちの心情や情景描写に

ぐんぐんと引き込まれていた。

ストーリーとして見どころはたくさんあったのだけど、

その中でも一番個人的に反応したことに絞って

レビューしたいと思う。

主人公の朋美は専業主婦。

夫と二人の息子は、自分自身にまるで関心もなく

日々の主婦業に感謝することもない。

ある日朋美は自分の誕生日に家族を外食に誘うが

家族からのあまりの自分への無関心さと

夫からの

「誰もお前のことなんか見てないよ」

の言葉に背中を押され、家族を店に置いたまま車で家出をする。

もう二度と戻らない、と決意をして・・。

初回のこの展開になぜかすごく共感した。

私もかつては専業主婦の頃もあったけれど今は違うし

朋美のような家族関係に悩んだことはないのだけど

私の何が共鳴したのかよく分からないけど

すごく共感したのだ。

その気持ちをよくよく見つめてみると

二つのポイントがあるような気がした。

一つは、「専業主婦」というものに対して

自分が持っている観念が朋美に共鳴したから。

朋美の夫のように、

「専業主婦なんて毎日が日曜日で気楽なものだ」

という男性社会特有の考え方に反発してる自分がいる。

「いわゆる男性的な会社勤めしか仕事とはみなさない」

という発想に、全身で反応している感じだ。

「仕事」とはそもそも何か?

これは私が常々大切にしている人生のテーマでもあるので

余計にそこへの反応が強く出るのかもしれない。

いわゆる「男尊女卑」的な発想や対応にも

正直、反発をおぼえてしまうし

そういう意味でも、

朋美の、夫や息子たちの態度への怒りと絶望には自然に同調し、

朋美の思い切った行動には正直、胸がスカッとした。

もうひとつは、折に触れてふっと、

「どこか誰も知らないところへ 一人遠くへ行ってしまいたい」

という、よく分からない衝動が私の奥深いところにはあって

そこが反応したのだと思う。

これは、「消えてしまいたい」ということとは違う。

なんというか・・・

常に「新たな道」「まだ見ぬ領域」に、

いつでも行ける自分、いつでも対応できる自分を、

自分の中にスペース(余白)として持っていたい

そんな感覚があるのだ。

だからそれは、とても希望的な感覚で、

朋美の衝動的で無茶な行動の顛末が、

この先どうなっていくんだろう?

どうやってあてもない場所で生きていくんだろう?

という、期待と好奇心が掻き立てられて、

「自分だったらどうするだろうか?」

と、まるで朋美を通して追体験をしているような感覚になって

目が離せなかったのだ。

そんなカタチで惹き込まれた作品だったけれど

その後の展開は、大げさなドラマチックなものではなく

とても現実的なサイズ感の人生体験が描かれていて

そこがまた好感が持てた。

奇抜な体験ではないけど、

朋美にとっては大きな心境の変化や、

ひとつひとつの体験はとても大きな意味があったことだと思う。

地味だけど、日常ってある意味、

そういう地味な営みの中に

とてつもない奇跡を見いだせたり

かけがえのない宝を見つけたり

人生がまるごと変わってしまうようなことがあると思うから

そういう現実的な描き方のこのドラマは

今もなお私にとっては印象深いドラマのひとつとなっている。

「自分」に目覚める

朋美は、家族の態度を通して自分を変えたかったのだ。

だから家を出た。

ドラマの中でも言っている。

「お前なんか何もできないくせに」というのが口癖の夫に対して、

「私は今まで何でもあきらめてた。

 しょうがない、仕方ない、まあいいか、

 どうせ私なんか何もできないんだし、って。

 そういうのもういやなの。

 今までみたいに生きていきたくないの。」

と。

他人からの言葉というのは、

日ごろ自分が自分へ向けて発している言葉だ。

朋美は今までずっと、自分で自分に対して

「どうせ私なんか何もできないんだし」

って、言い続けてきたのだ。

だから、夫や息子からそう言われるし、そう扱われる。

人は他人を通して自分を知っていく。

朋美も、家族をとおして自分の価値に目覚めた。

自分で自分を貶めていたことに気付き

自ら変わろうと決めたのだ。

その姿勢はやがて息子に届き始め

ひきこもりだった繊細な次男は

朋美の家出先の長崎まで追いかけてきて

母の姿やそこでの出逢いを通して

彼もまた自分の人生のやり直しを決意した。

長男もまたこれまでのことを省みて

自分の体裁や都合ばかりを優先する父親に換言しつつ

自らも考えを改める。

やはり子供は柔軟で変化が早いなと思う。

そういう意味では、

ガチガチの男性社会に組み込まれて生きざるを得ない男性は

なかなか意識を変える、ということは難しいのかもしれない。

それで成立してたら変える必要もないだろうし。

夫はやはりなかなかそう簡単には変わらないけど

それでも少しずつそれまでの身勝手な自分の在り方を自覚し始め

朋美の大切さに改めて気づき、

朋美の生き方を尊重するようになった。

それぞれがそれぞれの、

今までとは確実に違う、豊かな在り方へシフトした。

そのきっかけは、

「自らの価値」を取り戻そうと決意した

おっとりとして頼りなかった

一人の専業主婦のパワーに他ならない。

その、いのちの本能としての

力強さとすがすがしさに感動した。

女優「鈴木京香」の魅力

主演は鈴木京香さん。

大好きな女優さんのひとりなんだけど、

個人的に、元々の彼女の役柄のイメージは

すごく凛とした女性、とか

気の強いハキハキした女性が多かったと思う。

でも、ここ近年好きなドラマの中で見る彼女の役柄は

この作品の役柄のように、

どこかおっとりとしてて、天然の部分があって

それゆえの鈍感さとかデリカシーの無さが

繊細な人を苛立たせることもあり、

でも人が良くて憎めない・・・

そんな役柄が目につく。

そしてそういう役がまたよく似あう。

ほわっとあったかくなるようなゆるさの中に

驚くような芯の強さが隠れていたりする・・・

そんな空気感がすごくドラマに奥行きを生んでいるように思う。

現実的な人間ドラマの中で、今後も彼女の演技をたくさん見てみたい。

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