誰が欠けても成り立たない作品 - 苺ましまろの感想

伸恵がいなかったら

本作品は５人の女の子を中心にして話が進んでいく。この５人が絶妙に絡んでおもしろさとかわいさを醸し出している。だからこの作品には５人は欠かすことができない人物と言える。ここではそんな欠かせないはずの５人をあえて１人ずつ外したことを想定して、その場合どうなるのかを考えてみたい。まずは伸恵がいなかった場合を想定してみる。他の４人と年齢が離れている伸恵がいない想定は２パターン考えられる。自宅から遠い大学に通うなどの理由で家にいないというパターンと、完全に設定として存在せず、千佳が一人っ子というパターンである。前者の場合は、本作とほとんど変わらない進行になることが考えられる。アナ好き、茉莉好きの伸恵のことであるから、間違いなく何か理由をつけては自宅に居座り、アナや茉莉とスキンシップを図ろうとするだろうからである。では、後者の場合はどうだろうか。お姉ちゃんがいない千佳が美羽にかかわる時間が絶対的に増えるわけで、美羽ともっと百合百合な関係になる、ということが予想できる。また、美羽の方は伸恵に向かっていたいたずらがアナや茉莉の方に向かっていくことが考えられる。アナ＆茉莉の二人にとっては望まない展開になりそうである。

アナ、あるいは茉莉がいなかったら

この二人は片方がいなかったらおそらくもう片方には同じ状況が生まれると思われるのでセットで考えることにする。まず、学校生活において、この二人は互いに必要とし合っているため、片方がいなくなるともう片方は非常に苦労することが目に見えている。アナの方は学校では日本語ができない設定にしているので、普段通訳を兼ねている茉莉がいなくなるとクラスメイトとのコミュニケーションがとれない。茉莉は茉莉でいろいろとドジな面をアナに助けてもらっているために、アナがいなくなってしまうとこちらも学校生活がうまくいかなくなる。次に伊藤家に目を向けると、アナと茉莉のことを溺愛している伸恵がアナ、茉莉のいずれがいなくなったとしても、残り一人の方へその偏愛が集中することが容易に予想できる。これによって残された方のストレスが溜まってしまう懸念が生じる。美羽のからかいの対象も、どちらがいなくなったとしても同じように残り一人に集中するため、やっぱり残された方は大変である。それを抑える千佳の役目が大切になってくるかもしれない。千佳による上手なフォローがないと、残された方は伊藤家に寄り付かなくことになるかもしれない。

千佳がいなかったら

では千佳がいなくなったらどうなるだろうか。千佳がいない場合、伊藤家に小学生がいなくなるわけだから、アナ＆茉莉が伊藤家にやってくること自体がないかもしれない。ただ、美羽を通じて知り合って仲良しの伸恵お姉ちゃんの家へ、という流れは考えられる。そうすると、かわいい女の子好きの伸恵は黙ってはいないことになる。ことあるごとにアナ＆茉莉を家に呼び入れることであろう。また、ツッコミ役がいないことから美羽もアナ＆茉莉にちょっかいを出すことが増えてくるものと思われる。どちらにしてもアナ＆茉莉にはあまりいいことはなさそうだ。

美羽がいなかったら

トラブルメーカー美羽がいなければ、本作の世界は随分と静かになることだろう。美羽にアルバイトを邪魔されることもない伸恵はタバコ代欲しさにバイトに走るだろうし、伊藤家はますます静かになることが予想される。アナ＆茉莉の二人も少し安心できそうではある。ただし、それで何も起きないかというと、そうではないだろう。もう一人、伸恵がいる限り、二人に何か仕掛けてくるであろう。また、美羽がいないことで何か物足りなさを感じる千佳が二人にちょっかいを出してくる、ということも十分に考えられるところだ。美羽が抜けただけではこの世界は平和になったとは言えないのだ。

信恵＆美羽がいなければ

以上のことから考えると、伸恵と美羽の二人がいなければ平穏で何事も起きないことになる。この場合、アナ＆茉莉の学校生活＋３人の家のどこかで遊ぶ様子が描かれることになり、完全な日常系の様相を呈するだろう。トラブルめいたことはほぼ起きない。ただ淡々と３人が日常を過ごしていく様子が描かれていく。この作品のキャッチコピーが「かわいいは正義」だから、これでも何の問題もない。何のとりとめもない、今日あった出来事の話だとか、彼氏の話だとか、この作品がこだわっているファッションの話だとかをず～っとしていることになるかもしれない。そういう話も見てみたい気はする。しかし、やはりこれだけでは物足りないだろう。ここにトラブルメーカーの美羽がいて静寂を破っていったり、伸恵の溺愛にアナや茉莉が振り回されたりしてこその本作品であろう。こう考えると、５人は絶妙なバランスでこの作品の味を醸し出していると言えるだろう。５人の誰一人が欠けても本作品は語ることはできないのである。