衝撃のあとに切なさが…
禁断の愛の二乗かも?
禁断の愛などというと、映画やドラマのサブタイトルのようでちょっとカッコイいいメージがあるが、この小説の中に出てくる禁断はちっともカッコよくない。ここに出てくる禁断の愛は、近親相姦にショタ。近親相姦といっても男女間ではないので、背徳感やドロドロとした感じはあまりしないのだが。そしてショタとは云ったが、生き別れた兄が記憶喪失になってしまい、30歳の大人の姿でありながら心は6歳児ということなので、厳密にはショタとは云わないかもしれないが。しかし字面を読んでいるだけだと大人と子供が関係を持っているような感覚を受ける。一番最初にこの本を読んだ時に感じた衝撃は半端なかった。
姿は大人、心は6歳。
妻を亡くして男手一つで子供を育てている弟の元へ、記憶喪失の兄がやってくる。弟は記憶喪失で頭の中が6歳の子供になってしまった兄を無理やり押し付けられたのだ。兄は社長をしていた訳だが記憶喪失によって会社から解雇される。記憶喪失になったことで会社から解雇されて貧乏な弟の元へと追いやられるとか、また記憶が戻った後もすんなりと社長に戻るというあたりは、なんとも現実離れしているし安直な感じがするのだが、この辺りは木原さんの初期の作品ということで目を瞑るところかもしれない。兄を押し付けられた弟は、この兄のことが大嫌い。実は妻が病気で亡くなる前に手術代を借りに行った事があるのだが、その時に侮辱されたことが忘れられずにいたのだ。兄弟が別れ別れになる前は優しかった兄だったのにと思うと、余計に兄を嫌悪する気持ちが強かったのかもしれない。その兄が姿は30歳の大人なのに、心は6歳なのだ。弟の子供と同じ年だ。とにかくこの6歳になった大人の姿の兄がよく泣くんだ。もうすぐ泣く。そして弟に置いてきぼりにされて、粗相をしてしまいズボンを濡らすって…。もう衝撃的。木原さんの小説の主人公たちって、すごく嫌な性格の奴やらが出てくることが多いんだが、この兄は嫌な性格ではないが、ここまで主人公を貶めてるってところが凄い。イラストが多少ついてはいるが、字面だけを追っているともう6歳の子供そのものの行動だったり台詞だったりで、脳内はショタ一直線なのだ。たぶん映像や漫画などであれば姿は大人なので、ショタ感ではなく近親相姦ということの方が全面に出るのかもしれないが、文章だけ読むと6歳の子供とやっているみたいなのだ。木原さんの初期の作品ということであまりメジャーな本ではないが、ある意味、よく出版されたなという感がある。
でも、せつない…。
木原さんの小説には、BLにありがちなキラキラでハンサムで金持ちな男は出てこない。たぶんその辺にどこでもいそうな普通の男が、もっぱら主人公になる。この小説の主人公も町工場で働いて毎日を懸命に生きている男だ。息子と二人で貧しい中でも細々と暮らしているところへ、記憶喪失になった兄を置いて行かれる。二人だけでも苦しい生活にもう一人増える訳で、本当は追い出したい訳だが、6歳の兄を結局追い出すことができない。兄と一緒に暮らしたくないというのは、貧乏だからというだけではなく兄が嫌いということもあるのだ。しかし6歳の兄と暮らしていくうちに、もう一途に慕ってくる兄に徐々に絆されて惹かれていく心の葛藤がなんともいえない。6歳の兄も健気で、同じ年(心はね)の弟の息子に比べると当たり前なのだが、やっぱり心だけが子供だという本当の子供ではないことに切なさを覚える。そして兄の弟に対する気持ちが、たぶん彼が本当の子供だった頃から大人になった時も、ずっと一貫して弟のことを愛していたのではないかと思う。愛していたといってもそれはもともとは恋愛感情のような愛しているではなく、身内として愛おしいの愛だったと思うのだが。それが一緒に暮らすうちに、それこそ弟は兄にとって愛しいの愛ではなく、恋しい愛を注ぐ対象になっていったのだろう。子供の頃に両親を亡くし、そのために兄弟がバラバラに育てられて、兄の方は厳しい祖父に育てられて愛情に恵まれずに育ち、大人になっても無償の愛を注いでくれる相手に恵まれずにいたのではないか。そういう愛情の欠損した兄にとって弟の注いでくれる愛情は、唯一のものだったと思う。自分の置かれてい環境や育ってきた経緯など6歳の子供の兄にとってはもちろんわかるはずもないが、ただ好きという感情だけを素直に弟にぶつけていたのだろう。だからこそ、兄の記憶が戻らなくなったらどうなるのだろうかとか、近親相姦とかそんなものも弟は飛び越えられたのかもしれない。なのにね、兄の記憶が戻ってしまって出て行ってしまってからが切なかったね。子供だとか兄弟とかそんなものをとっくに飛び越えていた弟にとっては、もう兄しか見えないんだ。弟ももうとっくに兄のことが好きだったんだ。兄に出て行かれて悲しくて切なくて苦しくて。だから弟は兄の会社に兄に会いに行くのだが、兄に記憶喪失の時のことを覚えていないと言われて、トイレで隠れて泣く。そして自分の子供の前でも泣く。男が泣くとかかっこ悪いんだが、かっこ悪い分、余計に悲しい。もう兄のことは忘れようと思った頃、大人に戻った兄が一緒に両親の墓参りに行こうとやってくる。もちろん6歳の兄とは全然違う訳だが、兄は子供の自分ではなく今の自分を好きになれと言う。しかし弟は子供の瞳の兄が好きだったから混乱し戸惑う。弟は子供の瞳を持った兄を守ろうと思っていた。しかし大人になった兄は私に甘ていればいいから、と弟に言う。立場が逆転して俺様な兄が現れるのだが、それでもきっと二人の未来は明るい。そんな希望をもたせてくれたことにホッとして読み終える。木原さんの本を読むときは、時間があるとき。一気に読んでしまいたいから。どうしようもなく最後が気になる。この話も再読にも関わらず一気読み。衝撃がきて切なさがきて、ホッとして。普通の小説の割にジェットコースター並みにスリリングで、ちょっと前の本ではあるが色褪せない魅了があると思うのは私だけではないはずだ。
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