近年稀に見るリアルな武術漫画 - ツマヌダ格闘街の感想

理解が深まる漫画レビューサイト

漫画レビュー数 3,135件

ツマヌダ格闘街

4.304.30
画力
4.50
ストーリー
4.00
キャラクター
4.20
設定
3.90
演出
4.20
感想数
1
読んだ人
1

近年稀に見るリアルな武術漫画

4.34.3
画力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.2
設定
3.9
演出
4.2

目次

メイドの師匠はマーシャルアーツ・マスター

本作は主人公:八重樫ミツルが、武術家の祖父の弟子だった美少女メイド:ドラエの下で成長していく物語だ。そして本作では最初は武道寄りの内容で試合が行われていくバトル物だが、徐々に武術の内容にクローズアップした描写にシフトされていく

武道と武術、両者の違いを簡単に説明しておくと、明治以降にスポーツとして従来の武術を競技化したものが武道。一般的には柔道・空手・剣道・合気道・少林寺拳法がある。一方武術は各剣術流派に代表されるような、具体的な内容をサバイバル術とする物だ。古くからある流派もあれば新興の流派もあるので、一まとめにするのは難しい。一つの剣術の流派でも支流がいくつもあったりするので考え方や価値観がそれぞれによって異なる。もっと言うと「ウチが正統な流派です!」と主張することも多いので、無闇に掘り下げない方がいいかもしれない。簡単に言うとルールがあるのが武道、ルールが無いのが武術とでも言えるだろうか。

主人公のミツルはドラエの指導を受けながら修行を積み、次々に登場するライバルたちと試合を通じて交流して強く成長していく

実在する戦闘描写に使われている武技・技術

紗貫き」や「天地投げ」など作中に登場する技は全て本物である。もちろん中には過剰に演出している箇所もあるが、見た目はともかく訓練すれば誰でもドラエや他のキャラたちのような武技を身に付けられると言っても過言ではないだろう。読んでみて現実にこれらの技を実践して会得した方もいるだろうから、武術と言うのは論より証拠の世界なのだ。

他にも例を一つ挙げると、18巻のFight108でドラエが御名本弘志郎邸で日本刀で試し切りをするシーンがある。この時ドラエは刀を振りかぶらずに巻き藁に刀を密着させてからそのまま切った。実はこの技はある流派に実在する技なのだ。刀を対象に密着させて切ることから、中国拳法に倣って「寸勁斬り」という名称が付いている。ただし、見た目と違って技の難易度は高いので誰でもすぐに真似できるわけではない。ちなみに寸勁斬りはかなり前に技を考案した人物がいて、この流派オリジナルの技というワケではないそうだ。

そしてツマヌダ格闘街に描写されている知識・技術は武術でいうと幹の部分に相当するもの、末節の部分に相当するものまで多種多様である。この漫画を読む人は武道や武術に何らかの関心を持っている人が多いと思うので、読んでいて参考になった箇所も多いのではないだろうか。

今後どのような展開がされるか

ツマヌダ格闘街は今後は武器を使った描写が増えていくのでは?と考えている。具体的に言うと9巻の最後に収録された番外編や12巻全体で剣術に焦点を当てた描写がされたが、ああいった内容が増えていくと勝手に予想している。別の漫画で例えると「刃牙道」のような内容に近くなると思っている。

かつてグラップラー刃牙といえば、内容がどちらかというとギャグ漫画だった。知っている限りでは体重100キロのカマキリが出てきたり、バスと闘ったり、師匠がゴキブリだったり、勇次郎が赤ん坊の頃から凄かったり…。私の友人は「筋肉を使ったギャグ漫画」と言っていたくらいだ。しかし作者の板垣恵介先生自身は現在は武術の内容の濃い漫画を描いているそうで、クローンの宮本武蔵を活躍させているのも武術のリアリティを求めているからだろう。

実は武術のリアリティを追い求めていくと、結局のところ武器を使うという思想に辿り着く。現実に考えて素手で戦うというのは武術的に言えば最終手段に過ぎず、武器が無ければ回りの物を何でもいいから利用して戦うのが現実だ。それこそ石ころでも棒切れでも何でも使うのだ、石ころでも投げつける・握って撃ちつけることも出来るし、棒切れでも打つ・突く・投げつけるなど使い方に幅がある。武術と言うのはサバイバル、生存術なので生き残らなければ意味が無いのだ。そこを卑怯だ何だと言うのは第三者だけである。だから武術漫画としては素手で戦う描写を続けるというのは作中の安全の面では当然なのだが、リアリティを追求すると不合理なのだ。一読者として、今後は一層武術の本質に迫った内容になることを期待している。もっとも、こういうことを言い出すと最終的には銃に辿り着くと個人的に思うのだが、そこまでいくとさすがに多くの読者が読みたがるとは思えない。

表演的描写と実戦的描写の違い

スクリーンや画面の中の戦闘、そして現実の実際の戦闘…。見た目には同じことをしているようでも、両者は間逆であることが多い。具体的には大きく派手で止めるのが表演的戦闘(アクションや殺陣・技斗)、小さく地味で流れるように行うのが実戦的描写の違いである。ツマヌダ格闘街は漫画なので当然前者である。もちろん表演的描写にも実戦寄りのシブい演出だってあるし、実戦武術の流派にも見た目が殺陣に近い技もある。

よくアクション俳優を軽く見る人もいるが、そもそも成功するアクション俳優はこれらの違いをよく知っている。むしろアクションの世界に実戦武術の経験が何の役にも立たないことはザラであるらしい、両者の目指している方向性が違うからだろう。しかしアクション俳優の感覚は素晴らしく研ぎ澄まされていて、武術の技を教えたら片っ端から覚えてしまうことは普通にあることらしい。ツマヌダ格闘街8巻Fight46にも「バレリーノとはケンカをするな」という言葉が出たが、どうやら古くからある世界共通の認識のようだ。武術でもっと強くなりたい人はダンスをやったら実力が跳ね上がるかもしれない。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ツマヌダ格闘街を読んだ人はこんな漫画も読んでいます

ツマヌダ格闘街が好きな人におすすめの漫画

ページの先頭へ