映画で観る世界遺産
この映画がもっと評価されていいと思う点は、世界遺産、衣装などのビジュアルの美しさはさることながら、そのミクロな視点にある。ベッドタイムストーリーだけで話を進めても構わないのにも関わらず、わざわざ「落下」というキーワードになぞらえるという縛りを作っている。お話しの中に巧妙に「落下」を織り交ぜながら、その事象、行為を美しいと感じさせるとは。生活の中で物が落下するさまを美しいと感じたことなどあっただろうか? この映画を観た後、もしあるのであればハイスピードカメラで撮った物の落下シーンだけを集めた映像作品を観たいと思ったほどだ。ターセム監督が、生活の中にある美を見出すミクロな眼を持っているからこそ、この作品が出来上がったに違いない。むしろ、「落下」と世界遺産を撮りたいが、それでは映画にならないからと、無理やりお話を作ったのではないだろうか…。そういぶかしがってしまうほどに「落下」に興味を持ってしまうのがこの映画である。
世界観を表現している物の一つに、トラディショナルであり独創的でもある衣装がこの映画に花を添えている。これは惜しくも2012年1月に逝去された日本人デザイナーの石岡瑛子さんによるものであるが、ターセム監督とは3度目にあたる「白雪姫と鏡の女王」でも衣装を担当している。この「白雪姫と鏡の女王」と決定的に違ったのは、衣装の鮮やかさである。「the fall 落下の王国」の鮮やかな衣装はベッドタイムストーリーとして想像の中で語られるお話の中であるからこそ鮮やかな色で表現されたのだろう。映画の中でもお話の中と現実では、衣装の色味をはっきりと分けている。この緩急がまた心地よいのだ。
私にとっては、スクリーンにでも投影することによって飾っておきたいような美しい映画である。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)