萌えの皮を被った正統派パニックホラー - がっこうぐらし!の感想

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がっこうぐらし!

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キャラクター
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設定
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演出
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感想数
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萌えの皮を被った正統派パニックホラー

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
3.5

目次

美少女×○○○もの

2015年夏。美少女高校生たちが学園生活部で過ごす様を描いたアニメ『がっこうぐらし!』が始まった。

可愛らしいキャラクターデザインと、緩く学校生活を営むいわゆる”日常系部活”に惹かれて、アニメを視聴した人は多いだろう。

そして第一話を見てーーラスト5分に戦慄した視聴者によって、『がっこうぐらし!』の名は瞬く間に広まっていった。

ゾンビアポカリプスとなった世界。世界がどうなったのかもわからず、家族の安否も知れぬまま、学校で力を合わせて生きていくたった四人の少女たち。

『がっこうぐらし!』は”噛まれたら死ぬ”というスリリングさが醍醐味のゾンビホラー、そしてたくましく楽しく生きていく少女たちの日常を描いた漫画作品として、その名を広く知られるようになった。読者or視聴者を騙した第一話の構成の巧みさは、流石は『魔法少女まどか☆マギカ』を生み出したニトロプラスといえるだろう。

見どころは主題だけに依存しない 正統派のホラー作品

美少女ものとホラーを混ぜたことで一躍有名になった『がっこうぐらし!』だが、見どころはむしろそこだけに留まらない。

『がっこうぐらし!』のストーリー展開は実に巧みで、ホラー好きのツボを押さえている。

確保された安全、食料不足への懸念、増える仲間・みーくんと、みーくんが発見した新情報によって明らかになる世界の謎、謎を探求すべく、一人地下へと向かったくるみの感染、死んだ恩師との悲しい再会…と例を挙げれば尽きない。

『がっこうぐらし!』はホラーの命脈である”飽きさせない展開”が間断なく続き、読者の緊張感を持続させている。

また、キャラクターたちが高校生の範疇で動いているのも好感が持てる。

ホラー映画というと、一人ぐらい工学に詳しいキャラや、ゾンビを紙屑のように倒すむちゃくちゃ強いキャラクターが出てくるが、『がっこうぐらし!』においては現段階(コミックス7巻時点)でそういったキャラは存在しない。

現状を打破するキーとなるものが常に存在しないことによって、等身大のキャラたちがどうやってこの場を乗り越えていくのかが非常に楽しみになってくるという寸法だ。

たとえば、くるみはシャベルでゾンビを倒すことの出来る唯一のキャラだが、無理に戦って道を開いていくことはない。一体一ならともかく、大勢に囲まれることを恐れ、避けている。ゾンビものにありがちで、かつ読者がシラける「無双状態」がないのが好ましいところといえるだろう。

くるみ以外にも、りーさんやみーくんはサイリウムやウォークマンなど、身近なものでなんとかゾンビから逃げている。ホラー作品は、「もし自分がこの状況になったら…」と読者or視聴者が想像するのも醍醐味の一つだ。こういった、極めて現実味のある世界観にすることで、『がっこうぐらし!』は二重の意味で読み応えのある作品となっている。

作中、ホラーの大家スティーブン・キング作品や、大人気の海外ドラマ『ウォーキング・デッド』のポスターが作中にちりばめられているのも面白い。ホラー好きなら「おっ」と思う仕掛けがあるのも心憎い演出だ。

ホラーでありながら感動するエピソードの数々

もう一つ『がっこうぐらし!』の見どころといえるのが、主人公・ゆきの成長だ。

ゾンビパニックによって心に多大なる傷を負い、幻覚を見ていたゆきは、当初は仲間のお荷物となる。それが元で、みーくんとりーさんが対立することもあった。

だが、くるみの感染と、ヘリコプターが落ちて学校が大破したことでりーさんがパニックに陥る様を目の当たりにして、ゆきは大きく変わっていく。

それまでお荷物だったゆきが、ピンチになった仲間のために自ら危険を顧みず動き、成長していく。その姿は、読者に深い感動を与えただろう。

また、恩師であるめぐねえの死と向かい合うシーンや、四人が学校を”卒業”したエピソードは、現実の少女たちの通過儀礼を倣いながら、過酷な社会(ゾンビがうろつきまわる現実)に向き合う悲愴さが絡み合って、形容しがたい感慨を覚える。

気になる今後の展開と明らかになっていない謎

一見萌え作品の皮を被りながら、その実は正統派のホラー作品である『がっこうぐらし!』。高校を卒業した四人は、避難指定場所である聖イシドロス大学を目指す。

大学にたどり着き、新たな生存者と出会ったゆき達であるが、もちろんこれで一件落着とはならないだろう。

明らかになった世界規模で蔓延するゾンビアポカリプスという事実、”遠足”先のランダルコーポレーションには打開策はあるのか…と、ますます今後の展開が気になるところだ。

また、随所にちりばめられた伏線も無視できない。ゾンビに狙われなくなったくるみ、以前のゆきのように精神の歯車が狂い始めたりーさん、みーくんのみが知る二つの秘密、そしてただ一人制服の色が違うゆき…。

これら伏線についてファンが考察し討論するのも、ひとえに作品が良作である証拠だ。

懸念があるとすれば、こういったゾンビアポカリプスものは風呂敷を広げすぎて畳めない作品が多いことだ。『がっこうぐらし!』はまだ既刊7巻。今度の展開に注目していきたい。

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