まさに爆撃、聖徳太子
聖徳太子、出ずる。
この小説は従来の聖徳太子を題材とした作品の中でも特に、聖徳太子の人間味を出し、聖徳太子の常人では計り知れない行動や思想を見て行く物語です。
この作品は「歴史、史実を基にした架空戦記」であり、歴史の見方を改めさせられるものでは無い。「こうだったら面白い」や「こんな事普通無いでしょ」を楽しむ小説であり、聖徳太子の歴史について本気で調べている人に向けたものでは無く、教科書で「遣隋使」や「聖徳太子」「小野妹子」の名前だけは聞いた事あるなぁ、程度の人がクスッとしながら楽しめる物語ではないかと思っています。
唯我独尊、聖徳太子
この作品の中の聖徳太子は「我が道を往く」人物です。叫び、暴れ、大胆な行動で周囲に「爆撃」を与えていきます。しかし決して我儘なだけの人では無く、頭が良過ぎる為に常人には理解出来ない行動をとっているのだと物語を読んでいく中で理解していきます。この作品で聖徳太子は厩戸皇子の名で騙られており、「聖徳太子」の中身と真髄、本音を理解する事で我が道を往く聖徳太子に、いつの間にか感情移入しており、場面の想像が容易に出来るようになります。
天才・聖徳太子と常識人・小野妹子
聖徳太子は頭が良く、常人には理解出来ない行動を取り、今の時代でこそ「天才」と呼ばれる存在に成り得る人物として描かれていますが、この作品の中で聖徳太子の次に描写の多い小野妹子が聖徳太子を「他の人とは違う」とばっさり区別する描写があります。聖徳太子は人とのコミュニケーションの仕方が普通では無く、基本的に叫んで会話をする。常人には聴こえないものが聴こえ、見えないビジョンが見えている。今で言う「サヴァン」だったのではないかと思われる。
そんな天才・聖徳太子と、傍に遣える事になった小野妹子との、「遣隋使」になるまでの話、遣に向かうまでの話、髄の皇帝煬帝に向けて書いた手紙を巡る争いを描いたこの作品を読み、作者の視点の深さと発想力の面白さを痛感しました。聖徳太子は馬鹿だ、と言い放った作者と、作中で「聖徳太子は他の人とは違う」と言い放った小野妹子はリンクしており、読者と作者の視点で描かれた常識人・小野妹子の心労、聖徳太子…厩戸皇子との奇妙な友情のような不思議な関係がこの作品の見どころで楽しみ方では無いかと、私は思います。
聖徳太子がうるさい、うるさいと叫ぶ時、読んでいる私も「うるさいのはアンタだ」と読んだ後笑いながら本を閉じました。
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