メイドものに見せかけたSF漫画
「花右京メイド隊」の世界観
当時もてはやされていた「メイド」をテーマに、主人公を中心とした女性メイドたちが作り上げるハーレム系の漫画です。前半はなんのストレスも無く読み進められるため、なんだかわいい女の子がメイドの格好をして主人公をもてはやすいつものヲタク向け漫画か、と読み始めますが、作者である「もりしげ」の過去作品を知っていたら、これで終わるはずがないという違和感で満載です。
主人公の花右京太郎に対して、花右京家のメイド隊は太郎の私生活に完全に関与しようとします。コメディタッチでチョイエロ要素を含んで描かれています。成人向け漫画でデビューしているだけあって、表現は十分です。
ヒロインとなるマリエルは、病的にまで太郎の「お世話」をします。太郎の学校生活のモニタリングなどは当たり前のように行われますが、ストーリー展開の都合上、はちゃめちゃ感を出すために楽しげに描かれています。敵役として慈悲王リュウカの存在がありますが、物語を盛り上げるための要人です。
花右京北斎の最終目的
本作がシリアスなSF的要素を持っているのは、主人公太郎の祖父の花右京北斎の最終目的にあります。簡素に表現すると、理想の女性と人生を青年期からやり直すこと、です。そのためには膨大な施設、大勢の女性、自分の分身となる人間、理想の女性が必要になります。これらの非人道的要素をコメディタッチでコミックの随所に散りばめておいてごまかしています。
理想の女性とはマリエルのことです。但しこれには条件があり「太郎のことを無条件で受け入れるマリエル」です。作中でマリエルは、花右京家当主の専用メイドとして開発された、と説明されます。遺伝子操作され、人工子宮から生まれたマリエルの思考には自分というものが存在しません。太郎やリュウカからマリエル自身の考えを問われると、太郎が良いなら良い、という機械的な回答が帰ってきます。作中で太郎が強くマリエル自身の考えを問いただすと、マリエルは意識を失ってしまいます。
マリエルの出自について、コミックスの前半と後半でギャップが生じるようになっています。北斎は過去、雇っていたメイドとの間に子供を作ってしまいます。その少女の名前はマリエです。北斎はマリエを溺愛しますが、ある日、一人の絵描きが訪れマリエと駆け落ちしようとしますが、紫皇院に阻まれ、マリエは瀕死の重傷を負います。北斎は紫皇院とマリエの救済の契約を結ぶシーンがあり、マリエが延命処置をされた様子が描かれています。
膨大な科学的計算が必要なため、作中にはMEMOL(メモル)というスーパーコンピューターが登場しますが、これを作成したのが、シンシアのもう一人の人格である天才少女グレースです。計画にはグレースの存在が必要になります。
北斎が求める、自分の分身となる人間が太郎であることが、物語後半で語られます。クローン技術やマインド・コントロールといった技術が太郎のための技術であったことが判明します。北斎は自らの記憶をバックアップし、太郎へインストールすることで、マリエとの関係の復活を願ったのです。これらが語られるコミック後半は、極めて非人道的な行為が行われていたことを怒涛のようにぶちまけられます。荒唐無稽な計画を荒唐無稽な世界観で騙しています。
結果、マリエルは自分自身がマリエであったことを受け入れ、「花右京太郎様専用のメイドマリエルです」という発言を北斎へ投げかけます。太郎への北斎のインストールも失敗に終わり、戦場と化した施設で北斎は致命傷を負い、最後には紫皇院の自決とともに殺害されます。
花右京太郎と女装
シリアスな展開とは裏腹に、主人公である太郎は定期的に女装させられます。自発的と捉えられるシーンもありますが。作者であるもりしげの後の作品で「フダンシズム」という腐女子をテーマにしたものがありますが、これも主人公が女装をするシーンがあります。今でこそ「男の娘」という単語がありますが、当時は単なる女装としてコメディタッチに描かれ、はちゃめちゃ感を出すためによく用いられています。
本作の視点が男性である太郎の視点で描かれるため、女性目線の視点が必要なシーンや登場する女性キャラクターの重要な発言や行動を描くためには、シーンもしくは話数に応じて主人公を女性に変える必要があります。ですが、女装という突拍子もない方法を使えば、男性の主人公を描いたまま女性目線のキャラクター像を描くことができます。花右京メイド隊は女性のみで構成されているため、この作業が必要不可欠だったのではないかと思います。
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