GANSLINGER GIRLのテーマの変容―ジョゼ・ヘンリエッタ組が途中退場した理由 - GUNSLINGER GIRLの感想

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GUNSLINGER GIRL

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画力
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GANSLINGER GIRLのテーマの変容―ジョゼ・ヘンリエッタ組が途中退場した理由

4.54.5
画力
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ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
5.0
演出
5.0

目次


初期GANSLINGER GIRLの魅力


GANSLINGER GIRLは非常にダーティな内容の漫画である。身体的に障害を負う子どもの体を半サイボーグ化し、担当官に絶対服従する「条件付け」という洗脳を施して政府の裏の仕事を請け負わせる。この設定だけみてもかなり非倫理的である。

しかしこの漫画の危うさはそれだけではない。子供といっても登場するのはほとんどが女の子であり、彼女らが絶対服従する「担当官」とよばれる上司は青年から中年の男性である。「条件付け」は一般的な洗脳というより親愛や愛情を利用しているもので、少女たちは「条件付け」によって担当官を「愛している」と感じている。そして担当官に褒められるためにはどんな危険な任務にも躊躇せずに身を投じる。

体が半分機械でできている彼女たちは怪我をしても、すぐに「修復」され、痛みも普通の人間より感じにくい。それがため、血まみれになりながら担当官のために戦闘する美少女たちの姿が何度も描かれる。これは男性読者のちょっと危ない趣味、ロリコンやサディズムに訴えるといった意味でかなり効果的な作りになっていた。さらにイタリアに渦巻く民族問題をうまく絡め、ヴァイオリンや文学といった教養的な要素、クラシカルなイタリアの雰囲気をちりばめることで、下劣になりすぎず、ゴシック好きの女性読者をもひきつけることにも成功している。

希望のない物語と初期の主人公、ヘンリエッタ・ジョゼについて


初期GANSLINGER GIRLの主人公組であるヘンリエッタ・ジョゼ組はまさにこの漫画のそういった危うさ+ゴシック趣味を体現したフラッテロ(兄妹)だった。

ヘンリエッタは盲目的にジョゼを愛した。感情の抑制が苦手なヘンリエッタはたびたびジョゼに対する過剰な愛情に振り回され、命令を無視して暴れたり、自殺未遂のような挙動さえとる。それに対しジョゼは曖昧な優しさを示すことでしか応えられず、二人の間には静かでありながら病的な感情が入り乱れている。

舞台は現代に設定されているものの、ヘンリエッタはヴァイオリンを弾き、ジョゼは彼女にアンティークの万華鏡をプレゼントする…というまるで古風な世界に生きている二人の間では時が止まっているようである。

このふたりの不健全でアンバランスな愛情関係が初期GANSLINGER GIRLの魅力でもあった。ヘンリエッタを取り巻く他の少女たち、リコ、アンジェリカ、トリエラもそれぞれ暗い過去と担当官に対する盲信を持ち、任務のたびに血を流しながら寿命を縮めていく。テロリストとの憎しみの連鎖、使い捨ての兵士として戦いを強要される少女、報われない愛情と止まった時間…いわいる希望がほとんどないストーリーであった。


物語の転換とフラッテロの人間関係の変容


しかし、6巻でペトラという少女が登場したあたりから、少しGANSLINGER GIRLの作風が変わっていく。ペトラはヘンリエッタ達と同様に暗い過去を持ちながら、条件付け以上の愛情を担当官アレッサンドロに示した。結局ペトラとアレッサンドロはフラッテロを超えた本当の愛情関係を築き上げる。ペトラは他の少女たちに比べれば年齢が高い。化粧やファッションの要素が漫画に取り入れられ始め、まるで古風に止まった時間が動き出したかのようだ。

それに呼応しているかのように他のフラッテロ間でも強制された愛情関係が揺らぎ始める。

フラッテロの関係変化を最も顕著に示したのが、リコ・ジャン組だろう。リコを道具と言い切り、冷淡な扱いをしていたジャンと、その扱いに何の疑問も感じず、ジャンに従ってきたリコ。しかし、道具としてでも長い間使用していれば愛情がわいてくる、とはピノッキオの師であるジョンが語っていたとおりである。腕を上げ、活躍を続けるリコに対しジャンがかける言葉は次第に温かいものになっていった。

そして、最後の戦いで死を望んだジャンの言葉にリコは従わない。「私のために生きて」と涙を流す。ジャンはこの言葉を受け入れる。歪んだ関係から出発したリコ、ジャンの二人だが、最後にはまっとうな愛情関係を手に入れたように見える。最終話でジャンが亡くなったリコの写真を机に飾っているのがその証拠だ。

トリエラは担当官ヒルシャーに対する気持ちを最初こそは「条件付け」によるものとごまかしていた部分があるが、ロベルタの登場、マリオの娘との会話などから次第に男女愛であることを自覚していく。ヒルシャ―側ではトリエラはあくまで「妹」「娘」というポジションでしかなかったかもしれない。しかしラストシーンでともに殉職するトリエラとヒルシャーの姿は初期のGANSLINGER GIALにみられた病的な愛情関係をこえている。トリエラの卵子からつくられた「希望」の名を持つ少女が主役になるこの作品のラストは絶望的だったGANSLINGER GIRLの世界観が希望に切り替わったことを象徴的に表している。


変化に置いて行かれたヘンリエッタとジョゼの関係

各フラッテロの関係はこのように成長、変容を遂げているが、そこに置いて行かれたのがヘンリエッタ、ジョゼ組ではないだろうか。

ジョゼはヘンリエッタに死んだ妹の面影を重ねながら、完全に妹としての愛情を示すことができず最後まで他人行儀なままだった。

過去のフラッシュバックを繰り返し、錯乱するヘンリエッタへの強力な条件付けに同意したジョゼ。彼は結局最後まで、ヘンリエッタを妹の代わり、自分に利用された哀れな犯罪被害者としてしか扱えなかった。ヘンリエッタとジョゼの関係は初期のGANSLINGER GIRLの歪んだ世界観から脱することはなかった(二人の死にざまは物語初期のエピソード、エルザの無理心中事件をなぞっている)。

ジョゼは復讐の発端となったクローチェ事件以前にも妹を過度に依存させていたり、戦闘最前線での戦いを望んでいたりとかなり不安定な人物であることが徐々に明らかになっており、兄のジャンほど作中で成長を感じられない。過去が明らかになることで作品の傾向とは裏腹に逆に病的な方向へ進んでいってしまったキャラクターなのだ。

登場人物のほとんどが死んでしまうとしても、希望を残そうとしている物語に二人の歪んだ関係はふさわしくない。最終決戦半ばにして初期の主役であった二人が退場したのには、そういう背景があったように思われる。

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