押井守監督の真骨頂。作品の色を変えてでも描く現実的空想世界。 - 機動警察パトレイバー2 the Movieの感想

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押井守監督の真骨頂。作品の色を変えてでも描く現実的空想世界。

4.54.5
映像
3.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
3.5
演出
4.0

目次

大きく変化した押井守の描き方。

自分が初めてこの作品を見た時、まぁ面白い作品だな。と思いました。

しかし何度か視聴するたびに、新しい発見とシナリオの複雑さと面白さが気に入り、今では何度も視聴する作品になりました。

現実で実際にあった戦闘機の日本領域突入、不時着、亡命の事件をなぞり始まる、戦闘機の暴走と橋の爆破による政治的な事件。自衛隊、警察の対立。

これらはあくまで空想ですが、そこに溢れるのはねんみつに練られた脚本からなる現実感です。

パトレイバーを使って事件解決に向かうまでに、幾層にも重ねられていく伏線と映像的盲点を突いた視覚的伏線。

それらを成長した、馴染みあるキャラクターの描き方を変えることで、ギャグではなく、シリアスで解決に向かわせるエンディングも魅力ですが、自分はその脚本にこそ、この作品の魅力だと思います。

映像という概念の中に隠した「見えないもの」。

特にこの作品で素晴らしいのが、映像の中に明らかに存在する伏線が、巧妙に計算されたアングルや配置により、一切印象に残らないことです。

明らかに映っているけれど、それよりも大きな印象を与えるものを前面に出すことで、視覚的な盲点を作り出し、そこに重要なキービジュアルを隠すことで、「実は最初から写っていました」という事を演出しています。

(後藤隊長が車の中で電話している際に移る、のちのテロの兵器になるジャミング装置と毒ガスを積んだ飛行船など)

さらに、それを映画の脚本の中できちんと説明していることが、この演出を一層際立たせています。

序盤に訪れた男が持ってきたビデオテープには、偶然映りこんだ問題の戦闘機があり、それを加工することで正確性を失わせてしまうという、今現在、多くの人が可能になっている映像加工の弊害を語り、刑事がマスターテープを取りに行った、末端の映像屋との会話では、「あんた見たんでしょ!?」「そりゃあ見ましたよ」と語られた後、男が、「もしかしたら、映ってたのかもしれないな……」と呟くシーンがあり、それを単純な物語の演出に終わらせることなく、鑑賞している視聴者にすら、その実体験を与えることに成功しています。

押井節満載の長回しセリフの究極系。

押井守監督が作る映画には、多くの作品でキャラクターの「語り」が含まれています。

「語り」と表現したのは、複数のキャラクターの掛け合いではなく、一人が一方的に語る、もしくは独り言、モノローグ的な感覚で長いセリフを語る。という意味です。

この作品は脚本上、非常に多くの専門用語と長いセリフにならざるを得ないシーンが多々あります。

後に敵であると判明する荒川と後藤隊長、南雲隊長のやり取りなどがそれに当たります。

状況が非常に複雑で、かつその中で徐々に判明する伏線を張っていく作業は、一見すると単調になりがちですが、そこをむしろ引き込むほどの魅力に変える脚本は非常に素晴らしいと思います。

更にこの映画の中には、複数のテーマがあり、それをキャラクターに語らせることで、押井守監督が描きたいこと、訴えたいこと。そしてそれらを代弁させることで、見ている人に深く残る漠然とした日本のもろさを問題定義しているのです。

「戦争」をテーマに置いたシーンでは、テレビの中の戦争を軽く見過ごしていて、日本には戦争はないという腐敗した象徴平和を

「戦争? そんなものはとっくに始まってるさ。問題はいかにけりをつけるかだ」や、

「戦争をするには、この街は狭すぎる」

といった具合に内容に盛り込んでいます。

現実的な戦争、テロの戦法と一般的な防衛方法の大きすぎるギャップ。

アクションシーンでも押井守監督のこだわりが見えてきます。

警察と自衛隊が対立し、日本の防衛能力が二分する状況を作るために使ったのは、たった一つの戦闘機とミサイルだけ。それからは勝手に警察と防衛省の対応の悪さと、外交の弱さで取り返しのつかない状況を作るというシーンを作ります。

その後、よくあるライフラインの停止ではなく、移動手段、電波ジャックを使って、人を殺すことなく一つの都市を孤立化させることに首謀者は成功します。

その原因となっていた飛行船をヘリで攻撃すれば、中から溢れてきた色付きのガスにおたおたし、必死にガスマスクを装着する戦闘部隊の傍らで、平然と犬が吠えている。というシーン。

ガスに有毒性はなく、かつ「いつでも殺せる」というメッセージを送り付け、八方ふさがりの状況に陥らせています。

これらは全て、非現実的な武器や兵器を一切使っていません。

ジャミング装置もあります。毒ガスも手に入れることも可能でしょう。そしてそれを誇張して演出することなく、真剣に使用方法とそのタイミングを脚本として考えることで、それらすべては現実的にあり得るという枠の中から出ていないのが、この作品の戦争一般論とゲリラ戦争の深く掘り下げた事実のギャップであり、最も描きたかった箇所の一つだと思います。

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