ガチ泣き覚悟『星守る犬』
オープニングのインパクトにやられた
この本を買った理由を覚えていません。購入したのは映画化されるずっと、ずっと前。おそらく初版平置き直後だと思います。一面に広がるひまわりを描いた表紙がきれいだなと思ったのか、その中で首をちょっと傾げた犬(ハッピー)がかわいいなと思ったのか。何となく、気分的な問題ですがマンガで泣くの、嫌なんですよね。だからこんなに泣かされる本だと知っていたら、多分買わなかったでしょう。なのに、なぜか買ってしまった。手に取って背表紙も見ただろうし、帯のコメントも読んだだろうに。不思議な出会いをした作品です。
開いてすぐのインパクトが強いですね。ボロボロになった廃車、その中にあった男性の遺体とその遺体に寄り添うような犬の死骸を、たくさんのトンボが飛び交う草むらで警察官たちが発見するシーンからスタートしますが、表紙とのギャップが大きくて、ガツンときました。しかも、この見開きページの最後「鑑定の結果は/男性が死後一年から一年半/犬は死後三カ月…」と書かれた黒塗りのコマで、胸が熱くなって涙腺が緩くなったのがわかりました。だって、その犬はご主人である飼い主が死んだ後もずっと、そのそばを離れずにいたことでしょ。その当時うちでは15歳くらいになる老犬(モモ)を飼っていて、家族の中でも父に一番なついていたので、彼らの仲良しな姿とかぶってしまったんですよね。この作品の二人(一人と一匹ですが、敢えて)も、うちの二人と同じようにきっと仲が良かったんだろうな、と。やばい、絶対泣かされる、と思いながらも読み続けたのは、もしかしたらこの気持ちのせいかもしれないです。
ハッピー目線がいい
ストーリーが基本的にハッピーの目線で展開していくのがいいですね。主人公がハッピーであることが明確に表現されています。お父さんも物語のごくごく中心にいますが、あくまでハッピーがど真ん中。ハッピーの視点で描かれているおかげで、彼を取り巻く小さな社会の中のぎくしゃくした人間関係を客観的に見ることができるし、逆により一層ハッピーとお父さんの強い信頼関係を感覚的に感じることができたと思います。病気が悪化して眼が見えなくなり、やがてお父さんは死んでしまいますが、ハッピーが動かないお父さんに散歩や遊びを催促し、食べ物を運び、野良犬と間違えられて殴られ傷ついても、お父さんの元に戻ってきて話しかける姿がもの悲しさを醸します。だからこそ、最後にお父さんがハッピーを迎えに来たとき、死んでしまった二人がかわいそうで、でも永遠の散歩に向かった二人の姿が幸せそうで、涙が止まりませんでした。今でも思い出すと泣けてきそうです。
犬に信頼されるには「散歩」?
ハッピーとうちのモモって、ちょっと似ています。見た目ではなく、環境が。ハッピーはみくちゃんが拾ってきた犬ですが、エサをあげるのはお母さん、散歩はお父さん、みくちゃんは遊び担当。モモは私の妹が拾ってきた犬で、エサをあげるのは母、散歩は父、私と妹は遊び担当。みくちゃんに拾われてその家で飼われていく中で、ハッピーが一番信頼する人がお父さんになっていきますね。犬ってエサをくれる人の言うことはよく聞くけど、「この人が一番」って決めるのはやっぱり散歩なのかな、と思いました。うちのモモも、エサをくれる母の言うことはよく聞いていたけれど、彼の中で一番は散歩担当の父でした。モモは20年目の初夏に永眠し、幸いうちの両親は離婚していないので、モモがどちらかに引き取られることはありませんでしたが、もし離婚していたらきっと父についていったでしょうし、もし父が先に他界していたらきっと、ずっと父の姿を探していたことでしょう。私もモモが元気な時に、もっとたくさん一緒に散歩に行けばよかったな。
続編はいらなかった
『星守る犬』は読み終えてすぐに売ってしまいました。冒頭でも書いた通り、基本的にマンガで泣くのは嫌で、持ち続けていても読まないだろうなと思ったからです。モモを拾ってきた妹に読ませてあげたら喜ぶかな、とも思いましたが、ちょっと距離の遠いところに住んでいて送るほどでもないだろう、と。
手放してからしばらくして『続・星守る犬』を本屋で見つけたときは、ものすごくショックでした。『星守る犬』とカップリングされていた『日輪草』も必要なかったと思っていたくらいなので。さんざん迷って、結局買って読みましたが、案の定がっかりしました。やっぱり必要なかった。『星守る犬』はハッピーとお父さんの話で完結してほしかった。お父さんの身元を調査した人が昔飼っていた犬の話とか、ハッピーの弟犬が死にたがり老人に拾われた話とか、おとうさんの財布を盗んだ男の子と売れ残り殺処分寸前のパグ犬の話とか、いらなかった。しかも、最後に関係者がみんな出会うとか、読者を泣かせようとする姿勢があざとすぎます。せっかく素敵な作品だったのに、なんでこんなひどいことするんだろう。本当に残念でなりません。
『星守る犬』(単独)は悲しいけど素敵な話で、ストーリーも構成も最高に素晴らしい作品でした。
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