ワンピースとして見るかどうかで、評価が分かれる - ワンピース映画 オマツリ男爵と秘密の島-ONE PIECE THE MOVIE の感想

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ワンピースとして見るかどうかで、評価が分かれる

4.04.0
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
3.5
音楽
3.5
演出
5.0

目次

異色作と言っていいのか

ワンピース映画の中でもずば抜けて何かが変な「オマツリ男爵」。絵がグニャグニャだわ演出がホラー臭いわと、とにもかくにもワンピースらしくない感じがするのだが、それもそのはず、本作は細田守さんが監督である。細田監督はもちろん、素晴らしいアニメ監督であるのだが、こういうハイセンスな監督というのは、ぶっちゃけて言ってしまえば原作があるもの、シリーズものの一つの監督というのは向いていない。センスとはオリジナリティのことであり、自らオリジナリティを作ることができる人は、自分のそれを表現する以外の作品の作り方ができない、ほかのやり方を知らない……という人が多いように思うのだが、本作はその法則がモロに出たと考えられる。まずもって、「オマツリ男爵」では、麦わら海賊団があまり活躍しない。それどころか、捕まったり仲違いしたりといいところが無い。麦わら海賊団をないがしろにする判断が下せるのは逆にすごいと思う。例えば凡人である筆者ならば、どうすれば一味が格好良く映えるかを必死に考えるはずである。それを細田さんたら、「いいや、仲違いしたまま飲み込まれてしまえ」である。代わりに自分のオリキャラチョビヒゲとお父さんが格好いいところを持っていく始末。いやホント、信じられない。貶すんじゃなくて、本当にすごいと思う。自分が一番面白く作ることができる方法を迷わず使えるというあたりが、細田さんがアニメ監督として大成できた一つの理由なのだろう。しかし、この方法では当然のことながら原作ファンから不評を買うことになる。ワンピースのキモ、悪魔の実さえ出てこないし……オマツリ男爵の武器は弓だし……ってそれはいいのか。ともかく、地味と言われれば地味である。弓道をやっていたことがある自分が言うのもなんだが、地味だったろう。絵のおかしさはまぁ……仕方がないでしょう。うん。

個人的な経験から作られた映画

「オマツリ男爵」のストーリーを大まかに言えば、仲間を失ったルフィが新たな仲間と共に敵を打ち倒すということになるのだが、これがもうシリーズものの特別編たる映画のテーマとしては決定的に向かない。アラバスタやらエニエス・ロビーやら、仲間との絆の深さを示すエピソードの多いワンピースではなおさらだ。今どきワンピースほど結束の強い仲間を描く作品も珍しいレベルである。それなのに、このテーマ。そらあ怒られる。ではなぜこんなテーマを選んだのかといえば、ハウルの監督をやるはずが手痛い失敗をしでかして、アニメ監督の道が閉ざされかけてしまった監督自身の経験が基になっているのが起因している。新たな仲間というのも、つまりは「それでも新しく見つかった仲間がいた」ということなのだが、そんなもんシリーズものでやるなよ……と、突っこまれても仕方あるまい。ハッキリ言って、映画製作手法としては愚策と言っていいと思う。ワンピースは麦わら海賊団の漫画であり、作品である。ワンピースがワンピースである理由、その作品であえて映画化する意味を考えれば、この「オマツリ男爵」は明らかに度が過ぎてしまっていると言っていい。オリジナルキャラがいること、それが活躍すること、なんら問題がない。麦わら一味より目立ってしまうことも、まぁ許容範囲内ではある。ただしチョビひげ、てめえはダメだ。お茶の間海賊団のお父さんは、確かにリリーを打ち抜くというクッソ目立つ部分をかっさらったものの、そこは許される部分だと思う。むしろそれまでのヘタレが緩衝材となって、名シーンとして記憶されてもいいくらいだ。しかし、やはりチョビひげ。こいつはまずい。「仲間だ!」発言は主人公たるルフィ側からのみ許される言葉であって、脇役が言っていいセリフではない。身の程をわきまえたまえ、チョビひげくん。さらに先程も述べたが、敵の力の背景に悪魔の実が無いのはいかがなものか。リリーカーネーションも、結局どういう存在だったのか一切見当がつかない。だいいちなんだよ、あの不気味さ。ワンピースというものは、例えゾンビだろうが悲しいエピソードだろうがグロだろうが、奴隷が出ようが何しようが、常に絵が可愛いのも特徴である。それでこそワンピースである。ルフィが矢でハリネズミになるシーンも、花から生える麦わら一味も、世界観としては「アキラ」寄りである。これ少年漫画原作なのに……ワンピース作品としては、やはり駄作と言ってもいいだろう。

原作を気にしなければ?

と、色々批判を述べてきたが、実はこの映画、普通に面白いと思ったのは筆者だけではあるまい。ワンピースとしては、というよりもスピンオフとしては確かに失格かもしれない。しかしながら、アニメ映画としては秀作であるあたりが、やはり細田さんの腕なのだろうと思う。話のテンポもいいし、笑えるシーンとミステリアスな雰囲気、ビジュアルインパクト絶大な終盤と、普通に出来栄えが素晴らしい。テーマもまた、ワンピースであることを忘れれば、含蓄のある話と言っていいだろう。仲間がいつまでもいるとは限らないのは、本当だ。愛があればあるほど、失った時の衝撃は重い。その時、新しい一歩を踏み出せるか、新しい仲間を見つけられるかというのはなかなかに重たい話である。それができなかった男爵と、ルフィ・チョビひげの対比の構図もまた見事だ。「仲間を失う痛みを味わえ」と、大塚明夫さんボイスで迫るオマツリ男爵は、間違いなく名悪役の一人だろう。演出がホラーじみていることも、原作を忘れられれば、そういうものとして受け入れられる。リリーカーネーションの正体も気にならない。実は筆者、この映画けっこう好きなのだ。とりわけ注目したいのが、レッドアロー海賊団の正体と、それに関する不気味な描写の巧さである。近年稀に見る秀逸さだったと思う。一頭の葉っぱやムチゴロウとの金魚すくい、ケロ爺のコミカルさに、そもそもの「オマツリ男爵」というタイトルまで、一見ふざけたように見える設定たちがホラーとなっていく様には鳥肌が立った。葉っぱの伏線はなかなか読めないながらも、わかりやすいという理想的な伏線である。そして極めつけは、やはり終盤の、降り注ぐ矢の雨の恐るべき痛々しさだ。表現からアニメーションまで、圧倒的な完成度の名シーンである。男爵の悲しみ、恨み、悪意……ルフィの絶望、挫折など、全てを短い時間で、アニメの力をフル活用して表現してみせたこのシーンが、話題にならないのはおかしいと思うくらいだ。つくづく名作だと思う。

再評価を願いたい

ワンピースらしくない……それはシリーズものとしては重大な欠陥である。なぜならこの映画を見る人というのは、ワンピースが好きな人たちであり、ワンピースを期待して視聴する人たちである。そこへきて仲違いする麦わら一味を尻目に、活躍するオリジナルキャラクターたちを見せられては、怒らない方が無理というものだ。戦闘シーンの緩さも一つの欠点と言えるかもしれない。最終決戦に、少年漫画的な技の応酬というものは無いというのは、やはりワンピースとしては寂しい。しかし、しかしだ。一度この作品がワンピースであることを忘れて、全くのオリジナルと思って鑑賞してみれば、実は隠れた名作であることに気がつくだろう。変な話だが、ワンピース映画屈指の出来と見ることもできるほどに、演出や脚本は素晴らしかったと思う。主な客層とトコトン毛色が合わなかったがゆえに、いまいち評価の集まらない本作。細田監督の名声が高まっている今、再評価されることを祈るばかりである。度々指摘される家族愛偏重も、ほかのやつよりは薄いですし……。

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  • さやんさやん
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