豪速球がうなりをあげている - ルーズヴェルト・ゲームの感想

理解が深まるドラマレビューサイト

ドラマレビュー数 1,147件

ルーズヴェルト・ゲーム

4.004.00
映像
4.00
脚本
5.00
キャスト
4.00
音楽
4.00
演出
4.00
感想数
1
観た人
1

豪速球がうなりをあげている

4.04.0
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

野球を初めて感じた

もしこれが、野球のお話なら、私は、よーく野球とやらが分かった。もし、これが企業の再建・復活のお話なら、それはまあ、そうなんだろうな、という程度の作りだった。なので、これはぜひ「野球」を解説するための、ドラマであって欲しい。潰れそうな会社のサクセスストーリーと言わないで!と思う。野球のルールや、野球にまつわる物語ではなくて、人の感情がどこまでも高められ、その高まった感情そのものを「野球」って言うんだよ、と教わった気がするのだ。私はこれまで野球を何も理解していなかった。ベタに、野球漫画「タッチ」とかアニメで見ても面白かったじゃないか、感動したじゃないかと思うのだが、ふと考えると「タッチ」は恋愛の物語だったような気がする。それに今回は、面白いというのではなくて、ああ野球を感じたなーと思う。まず、単純に映像体験ができた。試合がかなりリアルに表現されていて、本気で応援してしまった。

そして、ありがちな野球を通して人物の成長があったり、出来事が起こるのではなくて、外での出来事や負の感情が野球に集約されていくのが面白かった。砦のように、全てがそこへそこへと向かっていく。様々な運命を野球が「待っている」ように感じた。存在としての野球、そういうのを感じたのは初めてだった。そうなるように巧みに描かれていたのだと思う。例えば、企業側の「試合」には選手たちが登場することはないが、選手たちの「試合」には社長やら会長やらが登場する。大事なシーン(社長同士の会談など)には野球がエピソードを作る。おのずと野球に主役級の役員が掌握される。野球が物語を食っていくのだ。

野球とは何か問う

こういうパターンは、ヒーローが家族や恋人を守るために戦う話に似ている。ヒーローが家族を守ることで、見ているほうも家族がとても大事なものに思えてくる。物語を通して、家族は大事だなあと分かるのだ。通常、家族を大切に思う気持ちは周知のことだから、これが物語の「仕組み」とは気づかない。でも、実は物語から家族の大切さを学んでいたりする。共感した、と勘違いしているけど。では、野球はどうだろう。私のように大して興味のない人間もいる。けれど、登場人物たちが野球を大事にしていることで、私は「あー野球って大事なんだー」と洗脳されていく。ここでの洗脳とは理解のことで、腑に落ちなければわからないままなのだが、このドラマではうまく解説しているのだ。別に直接的に説明したりはしないのだが(当たり前だけど)、見ていて分かるようになっている。

このドラマの「野球」は、見る人の「何か」を例えてくれているのだと思う。手放さざるを得ないが、どうにかして最後まで取っておきたいほど大切なもの、わずかな時間でそれの持つ大きな力を感じて味わうようなもの、気持ちを一丸にするもの、それは、あなたにとって何ですか?と問われている気がする。このドラマの野球とは、自分に置き換えると何なのか。それが分かると、より楽しめるのではないだろうか。

クヨクヨもボンヤリもしない

よく「試合の結果より過程が大事だ」と言われるが、今作では、とにかく、弱ければ負けるし強ければ勝つから面白い。風が吹いて、ボールが動いたりはするが、何の根拠もなしに、良いことも悪いことも起こらない。何が起こったのか、原因がいつも明確。そういう設定のせいなのか、野球のやり方は、監督のデータ分析から導いたりする。下手な奇跡が起こらないので、見ていて気分がいい。一方で、はて、物事って、こんなにはっきりしているんだろうか…とも思う。作中のセリフはどれもよどみなく、登場人物は自分の考えを誤解なく言葉で表現できる。もし、現実でもそうであれば、計算式に乗ったように、全部すっきり進んでいくのだろう。だけど現実では、なぜ、うまくいかなかったのか、わからない時がある。悔しくて、哀しくて、しつこく考えても分からない時がある。逆に、なぜ、うまくいったのかもわからない時もある。うまくやろうと思っていなかったのに、うまくいくようなときがあるのはなぜだろう。このドラマには、そういう現実的なブレが無い。みんな、自分の思っていることが自分でよくわかっているように見える。そして、人が思っていることが把握できている。悪い奴は悪いことをするだろう、というのが、このドラマの中では当たり前なのだ。もしかしたら気持ちを変えてくれるかもしれない…と考えたりしない。それに悪が完全に悪ではないのだ。自分と意見が対立している、「敵」だ。お互いに相手に甘いことをしない関係である。こんな風にはっきりしているのが魅力ではあるが、多少、現実離れしているのかもしれない。「どうしたらいいかわからない人」がいないのだから。話の筋も全くよくできているなあと思う。とびきり頭が良くなれば、こんな話が書けるのだろうか。正々堂々とした性格であれば書けるのだろうか。

歌舞伎と元気と

見世物として楽しい作品。最近そういうのが少ないんじゃないだろうか。江戸時代に、歌舞伎の勧善懲悪を楽しんでいた人たちは、こんな気持ちだったのだろうか。言ってしまえば「ただそれだけ」の物語なのだから、自分に深く落ちてきて、人生に反映されたりはしにくい。「よし、正しく元気に生きよう!」と思うくらいだ。そして、それがすごく大切なことなのだと思う。それこそ大衆が求めていることなのかもしれない。一つの作品として、後を引かないのでストレス発散に有効である。ただ、ジェットコースターのコースが分かってしまうと、興奮が少し冷めてしまうように、初見が最高潮な作品なのではないかな。

歌舞伎と言えば、あの敵役の悪い顔は、なかなか「かぶいて」いる。ちょっと、真似してみても、案外うまくできない。悪い顔をするのは、泣く演技より難しいのかもしれない。どちらも演じると、嘘くさくなるから。この役者さんたちは、役柄に憑依されているんじゃないだろうか。同じ役者が同じような役をする理由も何となく、そのあたりにあるのかと…悪役のイメージ云々以前に、悪役が出来るから抜擢されているというか…。(今回の香川さんは悪役・敵役とは言い切れなかったけれど)悪を演じるのは物凄くエネルギーがいりそう。転じて、意地悪をする人はエネルギッシュということか…。疲れないんだろうか、と思うけれど、どうでしょう。知らずと力が入っているときは、意地悪になっているときなのかもしれない。ドラマを見て、そこまで思ったのは初めてだ。

今作は決め台詞に、これというのは見当たらない。「逆転」がキーワードだったと思う。普段、言いがちなのは「気にするな」とかだし、慰めたり諦めたりすることも多い中、「逆転」は、かなり励みになる言葉だ。どうも、現代っ子(平成)とは少し違う。世代が現れている言葉のような気もするが、それがまた素晴らしいメッセージになっている。先輩から後輩へ、チームで、家族で、勝たないといけない時は一人ではないので、勝手に諦められないし、終わらないということでもある。きっと希望をもって挑めばいいのだ。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ルーズヴェルト・ゲームを観た人はこんなドラマも観ています

ルーズヴェルト・ゲームが好きな人におすすめのドラマ

ページの先頭へ