原作の真のテーマをきちんと描いた作品 - 家なき子の感想

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家なき子

4.504.50
映像
5.00
ストーリー
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キャラクター
4.50
声優
5.00
音楽
4.00
感想数
1
観た人
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原作の真のテーマをきちんと描いた作品

4.54.5
映像
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
声優
5.0
音楽
4.0

目次

人生の厳しさを正面から描いた作品

母親の愛情を受け幸せに知らしていた8歳の少年が、父親から突然拾った子だと言われ、旅芸人に売られることになる。目の前で40フランのやり取りが行われ、母に別れも言えないまま長い長い旅に出ることになる。旅の中では芸をさせられるし、自分が社会の中の下層部の人間であることも痛感させられる事件が起こる。旅になれたと思ったころに旅芸人があらぬ嫌疑で逮捕、収監されてしまう。自分一人ではお金を稼ぐことすらできない・・・・・・。ここまででも主人公に降りかかる苦難は計り知れないが、師匠の死、アキャン家の離散、炭鉱事故、さらにはニセの両親に捕まった挙句に盗賊の一味に疑われ警察からも追われることになってしまう。本当に本当に厳しいことばかりである。本作はそれをすべて、手を緩めることなく描ききっている。

現代の作品なら

これが現代の作品だったらどうであろうか?ミリガン夫人が最初に手助けをしてくれたところで、レミはミリガン夫人に引き取られ白鳥号で幸せに暮らしました、で終わってしまうのではないだろうか。ミリガン夫人がレミの本当の母親だということは、暮らしていく中で分かってくることであろうし、分からなかったとしても問題はない。

気づけばそこに助けてくれる人が

レミのたびは過酷である。しかし、要所要所で手助けをしてくれる人が必ず現れるのである。ミリガン夫人をはじめとして、アキャンさん、ポールさん、パジェスさん、アンクレール医師、ボブ、そしてマチヤ。そもそも、ビタリス師匠からしてそうであろう。もしこれがガロフォリさんであったら、レミは終わっていたはずである。要所でいい人がいる、というのは、作り物の話と割り切ってしまえばそれまでだが、これがレミの人徳のなせるわざであろうし、いい人を見抜く“目”をしっかり持っていたともいえるのではないだろうか。白鳥号に初めて出会ったとき、ミリガン夫人のもとにいていいのだ、という判断を下したのが最たるものであろう。

原作の真のテーマ

私はここに、エクトール・マローの原作「家なき子」の真のテーマがあるように感じる。つまりこういった“人の優しさ、温かさ”というものがテーマなのではないだろうか。どこの世界に、野たれ死にした旅芸人の連れを自分の息子にしようなどという人がいるのだろうか。自らの生活も余裕があるわけでもないのに、だ。こういうことが、真の温かさであり愛情であろう。現代人が忘れかけているものではないだろうか。今一度、この作品を見てじっくり考えてほしいことである。話がそれたが、こういう“優しさや愛情”は、厳しい場面をしっかり厳しく描くからこそはっきりと浮かび上がってくるものだ。彼ら彼女らの優しさというのは特別なことをしているわけではない。言ってみれば“ほのかな明かり”だ。厳しい旅路は“暗い道”に例えられよう。暗い道をしっかり暗く描いているからこそ、ほのかな明かりでも際立つし温かいのだ。本作はこれをしっかりやっている。真のテーマをきちんと描ききっていると言えるのだ。

他作品との比較

この「家なき子」のアニメとしては、他に「ちびっ子レミと名犬カピ(劇場作品)」、「ちびっ子レミと名犬カピより 家なき子(劇場作品)」、「家なき子(劇場版)」、「家なき子レミ」という作品があるが、いずれもこの物語の肝ともいえるアキャン家のエピソードがカットされており、レミの成長物語としては非常に物足りないものになっている。さらに「家なき子レミ」ではレミが女の子になってしまっていて後半は完全に恋愛ものに化しており、もはや別作品と言っていい。原作のテーマ、持ち味をしっかり描いている作品は本作をおいてほかにない。

語り手・宇野重吉さん

本作では語り手と呼ばれるナレーションの比重がとても大きい。『計算され、かつ趣のある語り口』と表現しているところ(ウィキペディアである)もあるが、全くその通りである。まるで小説を読んでいるかのような、独特な雰囲気、世界観を作り上げている。淡々と語るところ、感情をこめるところ、見事に使い分けをして、我々を物語の世界に引きずり込んでくれている。この人の語りなくして本作は語れない、それほど重要な人物だと考える。

立体アニメーション

本作が画期的なこととして、“立体アニメーション”ということがある。本作を見ていると、背景がやたらと動く。これが立体アニメーションに必要な要素であり、特別な眼鏡をかけなくても臨場感を生むとのことである。「ステレオクローム」と呼ばれる方式だそうである。左右の明るさが異なる眼鏡をかければより立体感のある映像が楽しめるということだ(ここまでの内容は「トムスエンターテインメント」のホームページの情報を元にしている)。本作は本当によく景色が動く。人によってはせわしないと感じる人もいるかもしれない。しかしよく見てみると、背景が2枚あって、動くスピードが違っている。このことで奥行き感が生まれるのだと思う。この“背景”も、じっくり味わしたい作品である。

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