喩えの上手さと衣装の落差
喩えの上手さ
キャラクター達が、目の前の状況を見て、思わず言ってしまうセリフの中に、つだみきよ氏の喩えの上手さが伺える。注目するのは、コミックス第二巻。その話において、亨と四方谷が一時「姫」の仕事を離脱することになった。そこで、一人で仕事をする羽目になった実琴は、半狂乱。
そこで、亨は坂本様に実琴に付き添うことを願う。実琴は、坂本様だけでは頼りないと不安がるが、そこで、亨は実琴に『手出しはおろか道だって開けてくれる印籠だぞ。』と、坂本様のことを喩えた。
四方谷の機転でピンチを切り抜けた亨達は、合流するべく体育館に向かった。
そこでは、実琴と坂本様が椅子に座っていたが、その周りには、人が近寄って来ない。
四方谷は、その様子を見て、『半径1メートル以内に見えないバリア―が張られているよ・・・・・・』と、喩えている。まさに、その通りで、二人の周りには人々が近付かなかった。
亨もその状態見て、『イワシの群れにツッ込んでエサ取りするイルカみたいだ・・・・・・』と、喩えている。
「バリアー」という喩えは分かりやすく、読者でも容易に想像がつくだろう。
しかし、「イワシの群れにツッ込むイルカ」という喩えを持ってくるのは、容易ではないと思える。
また、二人が並ぶ姿を「雛人形みたい」と喩えている四方谷の台詞があるが、この場合、普通は「カップル」という喩えをするのが妥当だろう。だが、あえて、「雛人形」と喩えたことで、二人の可愛さが、より強く伝わる。
さらに、「印籠」として渡された坂本様の効果を亨が実琴に尋ねると、『十戒のワンシーン』と喩えている。これは、「印籠」で人がひれ伏すように、人の海が割れることに類似した喩えで、テンポの良さを物語っている。
この時点で、姫達三人は、一点に集合した。今まで、姫一人と坂本様だけで、保たれていた状態が、姫が増えたことで、人を引き付ける引力と坂本様の印籠効果で、四方八方を一定の距離を空けて取り囲まれた。坂本様は、この状態を『クレーター状態』と喩えている。
上記に上げた、状況、状態から、様々な喩えを引き出せるつだみきよ氏の喩えの上手さが伺える。
キャラクターの酷似
基本的に美形キャラクターが多い中、それぞれの良さが出ている描き方をしている。
ただ、ここで言いたいのは、四方谷裕次郎と坂本様の姉である夏流の酷似である。
コミックス二巻の番外編において収録されている坂本様の家に遊びに行ったお話で、三番目に登場した夏流。瞳を開けている時は、「夏流」としてのキャラクターが、ゴージャスに描かれているが、目を瞑った笑顔の状態は、「姫」の状態の笑った四方谷と見紛う程、酷似している。
これは、学園祭で登場した実琴の姉の真琴と実琴自身の不機嫌時の顔が似ていると亨達は言っているが、それは、姉弟であるが所以。この二人は、姉弟という関係と髪型、そして眼の描き方を見て、
似ていると言えるのだろう。
その二人よりも、明らかに裕次郎と夏流は似ている。もちろん、二人に血縁関係は無い。
同作者が、ベースとなる同タイプの輪郭等に髪型や髭、衣装を加えることで、別のキャラクターとしている例は、珍しくも無い話だ。
裕次郎と夏流が同時に笑うシーンは皆無なので、このままで良いが、同シリーズキャラクターの中で、
二人は、最も似ているの二人と言えよう。
衣装描写
ストーリー全体を通して目を引くのが、亨達が着用する「姫」の衣装である。
衣装担当の名田庄がこだわっているだけあって、「ゴスロリ」がベースとされている。これは、コミックス第一巻での名田庄登場時の紹介から分かる。
しかし、お披露目時やナース、合唱コンクール、文化祭の劇のフリフリの衣装を見る限り、ロリータ属性が強いと思われる。コミックス第二巻の裏表紙で、合唱コンクールの衣装のみその色が分かるが、ロリータ属性の強さは証明されるだろう。
ちなみに、この裏表紙に描かれていた四方谷が持っている衣装は、後に坂本様の晴れ姿となる衣装だ。
「姫」の衣装に力を入れる一方、普段着という物には、力を入れていない。だいたいが、制服描写だが、夏休み中の私服を見ると、亨のチェックの服、四方谷のベスト、坂本様の家に遊びに行った時に亨が来ていたTシャツ、さやかが登場時に着ていたパーカーの下の服あたりが、柄物として認識できるだろう。
このことから、「姫」の衣装と普段着の力の入れようには、あきらかな落差がある。
影の主人公
影の主人公と聞いて、有定会長を思い浮かべる人も多いだろう。実際、殆どの事は彼の手の上で踊らされているわけだ。しかし、実際彼は、いや彼の性格上、主人公を選んだりはしないだろう。
その中で、影の主人公と言えるのは、『坂本様』こと、坂本秋良である。番外編『ファミリーコンプレックス』の主人公であるが、その心情表現や立ち位置は、本編でも主人公と言っても良い。
コミックス第二巻の番外編において、坂本様の家に遊び行った際、坂本様の苦しかった過去を知り、その成長に関心納得された。その中では、「結局、何事も自分次第ってことなんだよね・・・・・・。」という達観した台詞は、成長した過程と主人公の風格が伺える。
さらに決め手として、コミックス第四巻において、御鷹と対峙した際、『でも友人がオレのプライドを守ってくれようとしたから、その気持ちに報いるためにも選挙には全力で挑みますから』と、亨や四方谷の為に、選挙への決意を言った台詞と態度は、御鷹をはじめ、読者も威圧される。
この台詞を聞けば、主人公と言っても、おかしくないだろう。先の成長過程と、四巻の誰かの為に頑張ることが出来るのは、主人公の属性の一つである。
また、生徒会選挙時に、坂本様が亨の「姫」お披露目衣装と同タイプを着ている姿を見て、「姫」になれるのではと思う。謙虚な態度とあしらい方は、別の意味で「姫」としてやっていけると、推測できる。
よって、本編においての坂本様は『影の主人公』と呼んでも問題ないと思われる。
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