数奇な人生を辿ったパスファインダー - ヴィドックの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

数奇な人生を辿ったパスファインダー

3.53.5
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
3.5
演出
4.0

目次

レミゼともつながる!?

この時代のフランス映画が好きな人なら、主演のジェラール・ドパルデュー目当てでこの映画を知ったという方もいるかもしれません。ところで、言わずと知れたミュージカル映画レミゼラブル(2012版)の主要な登場人物であるジャンバルジャンとジャベール警部の元ネタともいう人物こそが、このヴィドックの主人公であるヴィドックその人なのです。そして本家本元フランスでフランス俳優とフランス語で作られたTVドラマ版のレミゼラブル(2000)の主人公ジャンバルジャンを演じているのがジェラール・ドパルデューなのでした。ほら綺麗につながった?

犯罪者と警察官という相反するキャラクター双方の元ネタとはこれ如何に?なのですが、このヴィドックさんの経歴がまさにサスペンスを地でいっています。そんな面白過ぎる経歴はエドガー・アラン・ポー(江戸川乱歩氏のペンネームの元ネタ)やコナン・ドイル(シャーロック・ホームズの作者)達の作品に影響を与えたともいわれ、まさにその系譜である探偵少年コナンや明智小五郎の誕生に関わっているといっても差し支えないでしょう。すなわちヴィドックさんがいなければ少年探偵団も怪人二十面相も誕生せず、昭和のミステリー「グリコ森永事件」のかい人21面相もいなかった訳で、300年近くの時を経て日本の歴史にさえ影響を与えているのです。

そしてレミゼにおけるジャンバルジャンのような、キリスト教圏生まれのキャラクターでありながら悪でも善でもないような、どちらかというと多神教的なより複雑で清濁が裏表になった人物。その対立項である単純に全ての悪は断罪すべしという単純な思考回路しかにないような冷徹なジャベール。ヴィドックの経歴を見れば濡れ衣やら、脱走などの前半と警察機構に協力し密偵として活躍し、やがて捜査局の長への後半生を合わせるとその人物像が浮かび上がります。

その経歴とは?

まあ詳しいことは、興味をもった方に文献なりにあたってもらう事としてここでは映画のキャラクターとしてのヴィドックさんに焦点をあてて紹介してみます。

冒頭から、いきなり死に?ます。革命の混乱もひと息ついて、清濁併せながら近代化に突き進む新旧ごちゃごちゃしたパリでは、正体不明の連続殺人事件が世間をにぎわせている最中。その捜査の途上、あと一息で犯人を突き止める瞬間に溶鉱炉に落ちていき生死不明に。「I'll be back」と言ったかは定かではありませんが、とにかくオチが落ちということで再び映画の最後につながる構成となっています。「溶鉱炉落ち」は、もはや映画界の伝統芸にして様式美です。

そして現実の世界では訳あって投獄と脱走を繰り返した人物。そう、元祖プリズンブレイクにして巌窟王(ドパルデュー主演のフランス版TVドラマあり)そのものな人物なのです。

最終的には、刑務所界隈で知り合った人物、その犯罪知識を活かして警察側の密偵等として活躍し、やがてパリの捜査局の初代局長に。これはパリ警視庁の前進ということで馬鹿と天才は紙一重のごとく犯罪者と警察はなんとやら。TVで見る暴力団対応の警察官を見るとよく分かります。

引退後は私立探偵としても活躍。作家たちのイマジネーションを刺激して止まないような経歴ではないでしょうか。

先駆者、パスファインダーとして

主演のジェラール・ドパルデューもフランスTVドラマ版でジャンバルジャンやモンテクリスト伯など清濁を合わせもったような犯罪者達を演じ、そのようなイメージの濃い役者。フランスの犯罪シーンを代表する?人物を演じるにこれほど適役はいません。またダークヒーロー、アンチヒーローの系譜といえばバットマン界隈も思いつきます。

これらのように彼の経歴が後世の様々な創作品群に影響を与えたことは、もう想像に難くありません。

さらに映画の構成で触れておくと、エドワード・ノートンとブラピの「ファイトクラブ(1999米)」のような実は身近なところに犯人がという仕掛けが仕込まれています。そういえば、ヴィドックの助手がなんとなくエドワード・ノートンに似ているのは偶然ではないような気がします。一見何も考えてなさそうで人畜無害を装いながら、実は腹に一物をみたいな存在。もしアメリカ版でリメイクされるならノートンを差し置いては考えられません(今は少し年を取り過ぎた感はありますが)。イギリス人ですがゲイリーオールドマンなんかもいいかもしれませんね。若手ならヒース・レジャーが思いつきますが文字通り鬼籍に入ってしまったために残念。

観る者の錯誤を狙うやり方では制作年はそれぞれ、ヴィドックと前後しますが「ユージュアル・サスペクツ(1995米)」や「鑑定士と顔のない依頼人(2013伊)」も思いつきます。

映画のシナリオ、トリックとしては新奇なものではないのかも知れませんが、その登場人物のモデルであるヴィドックさんに関しては紛れもなく先駆者であり、新たな道を見つけ出したパスファインダーといえると思います。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ヴィドックが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ