ガンダムやイデオンとは違う 気楽に楽しむ娯楽作品!
富野作品だけど難しく考えてはいけない
富野由悠季監督作品というと、情報量が多く難解なイメージが強い。特に本作の直前まで放送されていた伝説巨人イデオンは難解なストーリーと登場人物が全員死亡するという凄惨な話だった。
しかし本作はそれらとは一線を画す、気楽に見る作品だ。
主人公は単純な正義感、二人のヒロインも色々考えるけど明るく可愛い。敵もそれぞれの事情はあるが基本的には自分の利益のために戦っているだけで、殆ど死人も出ない。
気楽にぎゃははと笑いながら見ればそれで良い、そんな作品だったはずなのだが、当時のアニメファンはガンダム、イデオンに続く作品として、いろいろ深読みしてしまい、ちょっと戸惑うこともあった。
イノセントとシビリアンの成り立ちに凄い秘密が隠されているとか(実際にちょっとだけ隠されていた)、光の昇天ってなんだとか、ジロンたちの目の中の直線(ハイライトと言うべきか?)は特殊な人類のしるしだ、とか、それはもうありもしない謎について考えまくったものだ。
今再見して思うのは、ノリノリの主題歌を一緒に歌い、ザブングルが変形した! アイアンギアーでけぇ! エルチとラグはどっちが好み? そんなことだけ楽しむ作品だ、ということだ。掘れば堀るほど何も出ず、虚しさすら漂う。
そんなわけで、富野作品でいつも行う深読みや分析は一切しないで再見した。
すると当時見えなかったものが、うっすらとだが見えて来た。
ガンダムやイデオンでも年長者は当然出てくるのだが、本作は特に年長者が身近に感じられる、のだ。
そこに何の意味があるか、他愛もないことかもしれないが、本作はこの1点に於いて、評価がアップするかもしれない。その結論は最後に書こう。
放送中の合言葉はパターン破りのザブングル!だった
気楽に見るための要素の一つとして、富野氏はそれまでのアニメになかった取り組みを積極的に取り入れた。奇抜なトリックとか、誰も考えたことがないSF性とかではない。昔ながらのロボットアニメってこうだよな、だけどこんなのも面白いんじゃない? そういう脳天気なパターン破りだ。
代表的なところをあげよう。
なんといっても主人公ジロン・アモスが明らかにかっこよくない。
主役メカが最初から2台登場(2台という数え方も主役メカっぽくないかもしれない。かっこいいメカは1機、2機と数えそうな気がする)。
メカの操縦を現在の自動車のような丸いハンドルとシフトノブ、アクセルとブレーキで行う。
そして主役メカが途中で壊れて別の機体に交代する。
など、あげればキリがない。
中でも私がいいな、と思ったのはジロンの愛機がザブングルからウォーカーギャリアにチェンジした点だ。
主役メカの交代そのものがエポックなのだが、普通に考えるならば、よりかっこいい方向にデザインチェンジするだろう。本作以降の話になるが、ダンバイン、エルガイム、Zガンダム、どの作品も主人公が搭乗機を変えるが、全ての作品で後継機は鋭角的、あるいは複雑な方向に走っている。だが本作はより無骨な方に走った。
ウォーカーギャリアは変形合体を伴うものの、ザブングルのような鋭角な印象ではなく、ずんぐりした力強いイメージだ。ガンダムからガンキャノンに交代したと言えば最もわかりやすいだろう。主人公も主役メカもかっこよくなくてもいい、これこそがザブングルが目指したパターン破りの象徴だと言える。かっこよさより動きやデザインの面白さ、本作はこれを貫いただけでも評価に値する。
もう一点あげておこう。
前述したザブングルの破壊シーン、主人公たちが乗るアイアンギアーと同型艦が敵として登場し、人型に変形しようとするところを、ジロンはザブングルが大破することを厭わず防ごうとする。こう書くとかっこいいが、単につっかえ棒となって変形を防いでいるだけで絵面的には全くかっこよくない。
普通なら主役メカが大破するときはそれなりの見せ場やドラマ性を持たせるだろうが、それに走らないという思い切りも凄い。
後半はイノセント対ソルトの図式にはまってしまって、盛り上がりどころが少なくなるのがちょっと残念に思う。
ウォーカーマシンが面白い
2台のザブングル、ランドシップが変形して人型になるアイアンギアー、それらも面白いが何と言っても本作の魅力はトラッドイレブン、ギャロップ、ダッガーあたりの雑魚ウォーカーマシンのデザインの秀逸さだろう。
これらは現在の常用の車やトラックと同じ扱いで気軽に使用され、発信、出動と言ったロボットアニメ用語は似合わない。
機能性とかデザイン性とかも語りたくなるが、一番語りたいのは雰囲気と佇まいだ。
モデラ―たちはこれらのプラモデルで当然ジオラマを作るが、それに似合うのはかっこいい戦闘シーンではなくメンテナンスシーンとか、旅の途中の野営シーンではないだろうか。
タミヤ模型が出しているジープや輸送車、そういう位置づけが似合うメカが、これほど脚光を浴びたのは本作の功績であろう。
ダブルヒロインの面白さ
ラグ・ウラロとエルチ・カーゴのダブルヒロインの絡みも前半の面白みだ。
役割分担としては有り勝ちだが、男勝りで姉御肌のラグと、イノセントの文化にあこがれるお嬢様エルチ。エルガイムのファンネリア・アムとガウ・ハ・レッシイ、ダブルゼータのエル・ビアンノとルー・ルカとほぼ同じ関係性と言えるだろう。
ダブルヒロインが主人公を奪い合うという図式はシンプルに面白いのだが、残念ながら本作ではエルガイムほどその構図は明確ではない。前半ではラグはそこそこに積極的ではあるが、エルチはジロンの粗暴で短絡的な行動を批判し、取り締まる役割が多く、愛情(というより憧れ)の対象はイノセントの二枚目司政官ビエルに向けられる。中盤からイノセントに拉致されて洗脳、という経緯をたどり、ジロンへの愛情が明確に育まれるシーンは少ない。しかしそれでも、最終回で「お前のジロンが」と彼氏気取りで現れるジロン。
それでも、失明した彼女を変わりなく受け入れる器量を見せてハッピーエンディング、ちょっと物足りない気もするがこれはこれでいいのだろう。本作はガンダムやイデオンではなく、ドタバタ活劇を目指したザブングルなのだから。
捕捉だが、富野作品としては男勝りでフレンドリータイプの女性が最終的に主人公の彼女となるパターンは皆無で、ザブングルではエルチ、ダブルゼータではルー・ルカがヒーローを射止めている。
男勝りではないが主人公にずっと近しい立場を貫いたZガンダムのファ・ユイリィが例外と言えるくらいだろうか。
富野自身はラグやエル・ビアンノ的なタイプはカウンターとしては多く扱うが、最終的にヒロインとするのは苦手なのかもしれない。
まあ、考えないで行こう。みんな走っちゃえ!
正直言うと本作はいろんなブレがある。何も考えないで見ればよい、と言いながらも中盤まで登場するイノセントの一級司政官ビエルは、シビリアンの未来がどうとか、人類再生計画がどうの、とやたら思わせぶりな発言をする。こんなフリがあると、ガンダムやイデオンで小難しい設定に慣らされていた我々は謎を考えざるを得ない。
ソルトを紹介するために出てきたのであろう、トロン・ミランがやたらと強くてかっこいいのでソルトって凄いメンバーが揃っているのかなと思うが、その後出てくる他の人物は正直ぱっとしない。
後半はだるい組織戦が続くので、こんな展開ならトロン・ミランを生かしておいて最終回近くになってから死ぬ展開にすれば良かったのに、とも思う。
そう、ザブングルの面白さを語るときにほとんどの人が紹介するのが、ザブングルとアイアンギアーが大破する25話「捨て身と捨て身の大戦闘」と、ウォーカーギャリアを入手する26話「イノセント大乱戦」までの、前半のどこかだ。
ここから以降が結構暗くてだるいのだ。
これを見ていた当時、エンディングの乾いた大地が似合わない湿った内容と酷評していたことを今更に思い出す。
楽しげに始まっても暗く始まっても、後半になるほど暗さが増していくのが富野作品の特徴でもある。キャラが増えすぎて収集がつかなかったり、振った伏線を回収しなかったり、本作以降それは彼の病として作品を蝕んでいく。
何にしても主要キャラは死なずに迎える最終回、エルチは失明してしまうが、まあ、それもいいのかもしれない。どんな結果もあまり考えるな、それが人生だ。
そうだ、冒頭で書いた年長者が主人公たちに近い、という記述をもう少し書いておこう。
ガンダムにせよイデオンにせよ多くの作品で年長者は一つの完成体として描かれている。
信念を持つ大人としてはパオロ艦長、ワッケイン少佐、レビル将軍、ウッディ大尉、カミューラ・ランバン、ドバ・アジバなどがあげられるし、悪しき大人としてはエルラン、コンスコン、ギレン・ザビ、ギャムス・ラグあたりか。
善悪、器の大小に関わらず、大人は、この人はこういうポジションと決まっているのだ。
だが、ザブングルでは身内であるコトセットやファットマンをはじめ、グレタ・カラスやビッグマンなどいい歳の大人が、迷いやブレを見せ、泣きわめき、悔やみ、昨日の言を撤回することをためらわない。
旧時代的な1ミリもぶれない人間、例えばマジンガーZの兜甲児のような人間が実在しないことを我々は知っている。だがアニメの大人となると明確な役割を与えてしまいがちだ。
この人は善、この人は悪、彼は協力者、こっちは愚者、といった具合だ。
だが本作は子供であれ大人であれ、状況に翻弄され、もうちょっといい暮らしがしたいなと何かを企み、異性に気に入られようと頑張り、時に信念を持つもやっぱりブレまくる。
それが人間だ。雑多な展開、意味のない戦闘、不明瞭な恋愛感情、それは主人公であれモブキャラであれ、誰でも巻き込まれるものだ。
ザブングルという作品はそれを語ったわけではないが、肩肘張らずに作る、という姿勢が結果的に人生の色々な場面を描いた。
我々はカラス一家やビッグマン、アコン・アカグらサブキャラにこそ、人生ってなかなか思うようにいかないもんだよな、でも頑張って生きていこうぜ、という意思を見出す。
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