食品偽装問題をテーマに、自分たちの日常を改めて意識させてもらえる作品 - 震える牛の感想

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震える牛

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食品偽装問題をテーマに、自分たちの日常を改めて意識させてもらえる作品

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4.5

目次

「食」に見る私たちの現代社会

昨今、食品偽装問題は私たちの生活の中で

最早日常と言ってよいほど、身近な問題となっている気がする。

ただ私は、食品偽装問題を取り上げたドラマを見たのは

この作品が初めてだった。

WOWWOWの連続ドラマWは社会問題を鋭く描く作品が多く、

個人的にも大好きでよく見るのだけど

この作品も、ここまでリアルに描くとは・・・と、少々驚いた。

「食」という分野は、かなりデリケートだな、と常々思う。

私たちの生命に直結しているがゆえ、

個々人の思想や習慣、環境、体質、生き方などで見解は様々で、

何が良いとか悪いとか、一概にはまったく言えないことだと思うからだ。

ただ、現代の私たちの生活の「食」の在り方として

自分が口にするものの大半が、

どうやって加工されて、どういう経緯で届けられているのか、

そのプロセスがほとんど見えない、ということは言える。

自分自身の命を作っているものの中身を、

ほとんど知らずに口にしている、ということだ。

これが当たり前になっている世の中が、

ある意味スゴイよね、って思う。

私は10年程前に、「食」というものを根本から見直す転機があって

当時はその現実に愕然とした。

畜産業界の現状や、食品添加物の事実、

健康と謳われているものの裏側の姿、などなど・・・

「それを知ってしまったら食べるもの何もないじゃない!!」

、スーパーに行っても途方にくれるほど。 

だからといって、

すべて安全を確認できるものをそろえることが自分に出来るか、

というとそんなはずもなく、

結局、いろんな体験の末、

現状は否定せず、 でも必要な情報として参考にしつつ、 

自分の中で優先順位をつけながら、

今ある環境の中で出来る限り

自分の身体を大切にできると感じるものを選ぶ、 

という選択をしているのだけれど。

食品偽装問題にも色々なパターンがあるのだろうと思う。

でもやっぱり共通して根底にあるのは

営利至上主義の歪み、なのかな、と思う。

食品偽装をしている加工肉業者「ミートボックス」の社長が

最終回で警察に連行されるとき、こんな言葉を言い放つ。

「みんな、うちの肉、ウマイウマイって食ってただろ!!」

需要があるから供給が生まれる。

これはある意味、今の私たちの日常、とも言えるかもしれない。

大切なものを守りたい気持ち

本作品の「食品偽装」を巡る数々の事件や問題は どれもみな 

「大切なものを守りたい」

という想いが引き起こしたものだった。

ことの発端は、大手スーパー「オックスマート」の

取引先の酪農家の牛にBSEが発覚。

「オックスマート」の「柏木信友」は

風評被害を恐れて隠ぺいを図るのだけど、

口封じのために、あろうことか2名の殺人まで犯してしまう。

なぜならその酪農家は、彼の彼女の祖父が経営する酪農家であり、 

彼は愛する彼女と、 恩義のある彼女の祖父を守りたかったからなのだ。 

そしてその事件をネタに、

目をそむけたくなるような食品偽装をして加工肉を製造販売している

「ミートボックス」の社長は

主要取引先である「オックスマート」の専務「滝沢」を脅し、

契約を強引に続行させる。

しかし「ミートボックス」の社長が食品偽装をする理由は、 

ひとえに、自分が実際に食べて日々試作開発して作った肉を

心から愛しているからなのだ。

彼は言う。

「私は自分が食べてウマイと思ったものだけを売っている。

 でも、正直に表示しても売れないでしょ。

 だから、仕方なく変えているだけなんですよ。」と。 

「安くてウマイ肉を消費者に届けたい」

という気持ちそのものは本物なのだ。原材料の品質は別として。 

この描き方が秀逸だな、と思った。

そして、「オックスマート」を心から愛している専務「滝沢」もまた、

会社を守るために、食品偽装問題も、BSE問題も、本部長の殺人も、

すべてを隠ぺいしようと画策する。

これもまた、ただひとえに、大切な会社を守りたかったからだ。

みんな、大切なものの守り方を 間違えてしまったのかもしれないが 

ほとんどの犯罪や事件の根っこにはやっぱり、

「大切なものを守りたい」

という想いがあるんだろうなあ・・と 、改めて思うのだった。

多様な情報について思う。「自分は何を信じたいか」

この、「ミートボックス」の加工製造内容が実にエグイ。

牛肉100%と謳っている加工肉の中身は

豚、鳥はもちろん、ねずみやうさぎ、内蔵、

腐った肉を汚染処理したもの、などなど、 

およそ食用としては使えない原材料を

大量の添加物を投入して作られる。

中国の加工食品とか、

海外資本のファーストフード製品とか、

過去にも似たような食品偽装問題が取り上げられたこともあり、

ある意味、食品業界の闇として

広く浸透しているとも言えると思う。

ただ、現代は、インターネットなどを通じて

いくらでも情報は氾濫しているから 正直、

「どれが真実なのか分からない状況」

とも言えるのでは。 

実際、この作品でも描かれていたけど、

そもそも警察組織や国家組織、国のあらゆるインフラ、などなど、

「食」と同様、 

「それを知ってしまったら、何も信じられないじゃない!」

と、途方に暮れてしまいそうだ。 

けど、だからこそ、思う。

「何が真実か」 なんて、分かるわけがないし、 

人の数だけ真実はあるのだろうから、 真実を求めても仕方ない。 

情報に左右されるばかりだ。

様々な情報に触れた時、自分に出来ることは、

「自分は何を信じたいか」

「自分はどんな世界を望むのか」

「自分はどう生きたいのか」

それを心に描くだけ、

そしてそこから選択していくだけ、

なんじゃないかと。

このドラマを見て私は、

身体が生き生きと喜ぶような食材を

心から安心して口にすることが出来るような世界に

生きていたいな・・・・と、つくづく、思った。

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