作者のこだわりが所々で光る、多属性ギャグマンガ。
機械とオタク文化とその他もろもろが入り混じったカオス漫画。
この作品の第一巻の表紙には、高校生らしき美少女が何かを手に取って嬉しがっている様が映っている。
それが特殊なほど、差別化が図れるというものだ。
しかし、それがまさかオタクの街・『秋葉原』の裏路地のよく分からない機械の一部分だとは、読み始める前はまったくわからなかった。
内容はお祖父さんから電気街の一角の店を、女子高生ながら引き継いだ『半田すず』と、その幼馴染であり、突然舞い戻ってきたときには、メイド文化を取り違えて覚えてしまった『木場みどり』の再会から始まる。
よくある展開ではあるが、まぁ、とにかく他の追随を許さないほどこの漫画のカオス度は高い。
秋葉原が舞台で、美少女が機会オタク。それだけでは済まされないほど、濃度の高いオタク知識が必要となる作品である。
作者の異常なまでのこだわりと融和する漫画としての面白さ。
この作者は、基本となる設定がかなりマニアックなところから始まることが多い。
同時期連載の四コマ漫画、「うぃずりず」も、学生ほのぼののテンプレだけれども、小学生が主人公という、設定からしてロリ属性を確約していたし、
現在連載中の「踏切時間」や「哲学さんと詭弁さん」でも、出てくる知識や格言が、普通の人ならばまず聞かないような言葉や人が多い。
逆に言うと、この作者は『好きなもの』を描いているのか、『誰も選ばないような設定ありき』で描いているかのどちらかにあると思う。
単純に差別化を図っている。と言うのならば、もっと食いつきやすいものでもよかったはず。明らかに描いているものが突出して尖がっている。
それはどちらでもいい。面白ければ。
もちろんそうであるが、それ以上の価値が、この作者の突出したネタ選びにはある。
マニアックすぎるのだ。同時に生半可な知識でもない。
どちらも知らない人からすれば何を言っているのか全く分からない。この作品で言えば、主人公『すず』の機会オタクぶりの表現に出てくる単語は、読んだ自分でも全くわからないままだ。
はんだこての匂いとか、真空管の音色とか……。置いてきぼりにされつつある知識を語る主人公にはまるで共感する手がかりすら見当たらない。
しかし、だからこそ、『知っている人』には、たまらない内容になっている。
周りに知っている人が誰もいないような趣味を、この手の漫画は拾い上げてくれる。それは漫画として楽しいよりも身近に『分かる! 誰も分かってくれないけど分かる!』という共感を呼ぶ。
それは漫画うんぬんよりも、ある意味美少女が自分のような感覚で喜んでいる様を見る事自体が楽しい。
さらにこの作品では、一般人にもきちんと救いの手を伸べている。
主人公『半田すず』以外が、機械に関してはほぼ一般人であることだ。
もう一人の主人公・みどりがその手の話に一切の理解が及ばない。むしろ引いている。
その当たり前の対応が、今度は一般人の読み手を助けてくれる。さらにそのみどりはメイドへの異常な愛情を語り、ロボットに青春を掛けるキャラクターが、娘の成長をミリ単位グラム単位で日々図る女の子の犯罪行為にしか見えない父親、一話完結ながら溢れ出るマニア、フェチ、オタク……。
全てを理解できる人間がいたら天才であっても博識であってもただただ異常だと思う。それくらいこの作品に溢れている『オタク文化』の闇は深い。
ならばこの作品は失敗なのか? それは違う。
普通に面白いのだ。お互いに好きなものを言い合ったり合わせてみたりして日々が進む様が、とても可愛らしい女の子中心というだけで十分楽しめる。
マニア要素を、キャラ一人に一つずつ持たせたことによって、一人が暴走して物語を作っていくときに、ツッコミ、展開を作るなどの漫画の基礎を分担して執り行っていく。
漫画としてもかなりレベルが高い。
オタク文化大国秋葉原の話とひとくくりにしながらも、その懐の大きさを過大にすることなく描いている。秋葉原を歩き回ってみると、本当にこういう感覚になるのだ。
『なにがなんだかわからないけれど面白い!』
この作者が描いているのは美少女でも、オタクでもなく、秋葉原なのだ。電気街なのだ。
そこに美少女などの要素で色合いを整えた漫画。一度は美少女目当てで読み、二度目三度目にネットで調べてみた知識などで理解を深める楽しみもある。
描いでいる物が深いがゆえに、この漫画の楽しみもまた深いのだ。
キャラクターたちの性癖も多種多様。
先に述べたように、漫画の題材が非常にマニアックなことは間違いない。
しかしこの作品、さらにマニアックさを主張する箇所がある。
ズバリ、『キャラクターの性癖』だ。
近年この作品を含む美少女漫画には『百合』『GL』と言った女性同士の恋愛事が多くある。
この作品もそれに伴い、基本的には女性が大半を占めるキャラクターたちの間には、呼び方はどうあれ恋愛的な絆がある。
主人公『すず』と『みどり』には幼い頃の記憶と再会からなるもの。
すずの妹分の『さいり』は明らかに『憧れ』や『親しさ』以外の何かをすずに向けている。
ここら辺まではまだ、よくある設定だ。
しかしこの作者はかなりのこだわりがあるのだろう。そこにすらなにか『マニアック』を追及している。
みどりはメイドとしてすずに仕えることに喜びを感じ、さいりは少し行き過ぎた願望を持っているのが見え隠れする。
酒でキャラクターたちが酔い回ったときには幼女同士の攻め受け逆転や、男の子メイド。
当初敵対して出てきたキャラクターは、後半に着せ替え人形状態にされるのが快感に変わり、みどりを連れ戻しに来るなど、一つでもかなり表情が引きつるような性的フェチズムをガンガン入れてくる。
これらは全て、多方向に食指を伸ばしすぎたためなのだろうが。こちらもすべて理解するには難しすぎる。
けれども、こういった漫画にとって重要なのは、『その後の妄想はお任せします』と、読者に追及の余地を残しておくことだ。
全て完結してしまっては物語としては寂しい。結果としてこの漫画の最後も『ドタバタあったけれどみんな丸く収まりました』。である。
投げっぱなしかい! とも言えるが、そもそも出版社からして、漫画好きならそれを求めてはいないだろう。
だからこそ、キャラクター同士の掛け合いの要素をある一定の方向に定めておくのは、大正解である。
難しいけれど、味わい深い漫画力の高い漫画。
最後に、この作品のとても良い所をあげる。
この作品には、時々まったくオタク要素のない話が出てくることがある。
ある時は戦争時代の淡い恋であったり、主人公すずのほろ苦い青春であったり。
それらはとても魅力的であり、この作者の物語作りの技量の高さを垣間見れる。
同時にこの作者の女の子は非常に可愛い。表情や頭身なども自分としてもとても満足している。
途中でかなり色物的に書いたが、それら異常なオタク文化を普通にまで引き下げられるこの作者は、漫画家としても十分能力が高く、同時にこの作品も悪くても『普通だな』で終わる。
描いてある物が異常なものであるにもかかわらず。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)