『七夜の願い星 ジラーチ』の面白さの理由を考える
ポケモンの映画は毎夏公開される子供向け作品ながら、中には大人も楽しめるものもあり、名作と呼ばれる存在がいくつも生まれているシリーズです。ここでは、そんなポケモンの映画の中でも特に面白いと私が感じている『七夜の願い星 ジラーチ』について、その面白さの理由を探っていきたいと思います。
映画用に短く綺麗にまとまった構成
映画というのは、二時間の枠の中にひとつの完結したストーリーを納めなければならないという制約を持っています。感動できる、重厚な作品にしたいと考えた場合にはどうしても話の期間が長くなってしまうことから尺も伸びがちになり、内容を削ってまとめるか、内容を削らず配給面や映像を見る人の負担の面で不利な長い作品に仕上げるかを選ぶこととなります。
この映画では、そんな映画内での期間を、最初に七日間という極めて短い時間に区切りました。そしてそこから、たった七日間でいかに感動のストーリーを作り上げるかという発想で構成されているのです。イベントを詰め込むことで視聴者を飽きさせず、しかし時には小休止や落ち着けるような場面も入れ、疲れさせもしない。さらに出会いと別れというテーマを踏まえた上で、いかに最後の別れを悲しく演出するかを考え道中の描写にも力を入れています。
この映画は、同時上映に別のポケモン映画がセットであったため、単体の時間としては二時間よりも遥かに短い時間しかありません。しかしながら、視聴者に短い、物足りないと感じさせない、しっかりと完結した物語に仕上がっているのは、初めに七日という長さを決め、そこから話を作って行ったからこそなのです。
アニメではできないことをするスタイル
この映画の主人公は、アニメではハルカの弟として脇役のマサトです。マサトはその年齢から自分のポケモンを持つことができず、そのため普段は賑やか師の面が強く、活躍したりストーリーに関わることはほどんとありません。ポケモンを持っていないようなキャラクターがあまりにも目立っては、ポケモンアニメとしておかしくなってしまうのですから当然と言えるでしょう。
しかし映画では、そのマサトにもし自分だけのポケモンがいたらというifを描写しています。初めて親しいポケモンができたマサトの驚きや喜びが細かく描写され、ポケモンとめぐる旅の楽しさ、そして最後の別れの悲しさまで、全てはマサトとジラーチのペアを通して描写され、この映画では普段絶対的な主人公として君臨しているサトシさえ脇役に過ぎないのです。そのため見る人は新鮮な気分で映画を楽しむことができ、面白さを高めるのに一役買っています。
分かりやすく奥の深いストーリー
映像面の素晴らしさ、キャストや声優の質の高さなどもその映画が名作となるかどうかには大きな影響を与える要素ですが、やはり最も大切なのはストーリーと言っていいでしょう。そしてこの映画もその例にもれず、子供向けということで分かりやすさを意識しながらも大変奥が深く見ごたえのあるものに仕上げられています。
物語の大筋としては、ポケモンを持っていなかったマサトがジラーチと出逢い、友達のような関係ながらもお互いに絆を深め、最後に分かれるという分かりやすくまたよくあるような内容のもの。さらに特にギミックや急展開といった要素は中にあまり含まれておらず、大人であれば最初の十分程度を見た段階でその後の展開が分かってしまうでしょう。なにしろ別れ自体も、突然というわけではなく、あらかじめ七日しか目覚めないことが分かっておりその説明が事前にしっかりとなされるのです。登場人物たちは、幼いマサトも含めてそのことを承知の上で、ジラーチを故郷に返してあげようと七日しかない旅を始めます。
そんな簡単なストーリーながら、その旅の楽しさや、終盤のメタグラードンのおどろおどろしさなどはともかく、最後の別れのシーンでしっかりと感動できてしまうのがこの映画の力の見せどころなのかもしれません。別れを理解し子守歌を歌いながらも、離れることに涙する声優さんの演技の上手さ、夜の森の場面の美しさ、そして出会いや旅の中で短いながらも積み重ねてきた絆、それらがすべて合わさって分かり切った子供向けの作品であっても大人をも惹きつけるような美しい結末が仕上げられています。
物語の中では直接語られないものの、最終日にたたむのを忘れてしまったウィッシュメーカーなど、最後まで様々なものにメッセージ性が込目られています。幼い子供には分からない可能性も高い部分ではありますが、そういったことにも手を抜いていない点も、この作品を奥の深いものにしてくれているのです。
まとめ
子供向けアニメの劇場版と言うのは、様々な制約に縛られた存在です。映画自体にも長さやストーリーに制約があることに加え、アニメの展開との整合性や、子供にも分かる理解のしやすさ、飽きさせないための刺激の多さ。それらをすべて満たしながら面白い映画として成立させることは難しいため、ポケモンの映画も全てが名作というわけでは決してありません。そういった制約をどのように乗り越え面白い映画を作ったのかということについて、思いを巡らせてみるのもまた映画のひとつの楽しみ方ではないでしょうか。
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