ぽっての行く末、写真部の行く末 - 『たまゆら～卒業写真～』第4部 朝-あした-の感想

高校を卒業

本作をもって、企画開始から６年間続いた本シリーズは完結した。ここでは、東京の大学に進学、志保美さんのもとで写真について勉強をし始めたぽってが、将来父の会社に就職することを前提にさらにそのあとどうなるのかについて考えてみたい。

父と同じように、その１

ある年の元日、黒滝山山頂・・・。一同が会する。かおる、のりえ、麻音、かなえ、ちひろ、ともちゃん、すずね、たくみ。しかし肝心のぽっての姿はない。それもそのはず、皆が集まったのは在りし日のぽってを偲んでのことだったから。と、不謹慎ながら父と同じく早くに亡くなってしまうパターン。これは可能性としては低いものの、父と同じような性格のぽってだけに、考えられなくはないのである。写真を撮るときにはかなり大胆になってしまうぼってのことだから危ない橋を渡るようなことをする機会も多いだろう。逆に、このような展開にならないことを願うばかりである。

父と同じように、その２

ある日の沢渡家。小さな女の子がいる。その手には少し大きめのカメラが握られていて、ファインダーを覗きこんでいる。その先には被写体のお母さんがいた。これが理想の将来であろう。女の子はもちろんぽっての娘、カメラももちろんお父さんの形見のローライだ。歴史は繰り返されるという、ある意味王道のラストだが、この作品にはそういうごく普通のラストこそふさわしいと考える。

ローライ復活

ぽってがどういう将来の形を取ろうが、父の形見のローライは復活させると考える。マエストロが修理できないとさじを投げたのは、部品が調達できないからであろう。写真のことが学べる大学に入ったぼってはローライのことを研究、仕組みから構造までしっかり勉強するのである。そしてある時、父の形見のローライを分解。それを元通り組み立てることから始め、足りない部品を自分で作り上げて、見事ローライを復活させるのである。その後は、夏目からもらったデジカメをメインにしながらも、ローライを使っても写真を撮っていく。本当に気持ちが乗ったときにはローライを使って。それはお父さんを思い出して、というよりは、ローライで撮っていたころの気持ちを忘れないように、という思いで。現像も自分で行うようになり、そのための暗室も自宅に作ってしまう。マエストロの「僕の仕事はもうないのね」という声が聞こえてきそうである。しかし、言葉とは裏腹に嬉しそうなマエストロの顔が浮かぶ。立派な写真家になったことをうれしく、そして誇らしく思っているのではないだろうか。

写真家・沢渡楓

ぽってはどんな写真家になったのだろうか。あだ名は「たまゆら写真家」。雑誌か何かで新進気鋭の写真家の紹介のとき、例のお父さんの写真が掲載され、あの光の玉は何か、という話題になり、そこからあだ名がつけられた。しかし、写真家としての写真にはたまゆらが写りこむことはほとんどなくなっていた。が、それが逆にレア感を生み出し、彼女に写してもらった写真にたまゆらが写っていたら幸せになれる、という噂が広まり、人気が出る。もちろん、写真自体も、技術面はまだまだだが、この人に撮ってもらった写真からは温かな雰囲気がしてくる、という面から人気が出てくる。仕事としては旅行のツア商品の企画であり、その紹介の写真を撮る、というもので、基本的に人物写真は撮らない。しかし、先ほどの噂により行く先々で知られる存在となっていて、写真を撮ってほしいと頼まれる存在になっていた。ただ、本人の気が乗らなければ人物写真は撮らない。初めは頼んでも写真を撮ってくれないぼってを「驕りだ」と言っていた人も、ぽっての温かさに触れる中で納得していく。やがて、ぽっての旅行の企画も、行く先々で懐かしさを感じるものに出会える旅行として人気となっていく。それにつれて、旅行関係以外の写真についても依頼が舞い込むようになり、忙しい毎日を過ごすようになっていく。

竹原南高校写真部の行く末

最後に、ぽってが作った写真部のその後を考えてみたい。創部１年目はぽって、かなえ先輩の２人写真部、２年目はぼって、すずね、たくみの３人写真部であった。では３年目、すずね部長の写真部はどうだろうか。どうも新入部員は“なし”のような気がする。部活紹介はうまくいったものの、二人の仲が良すぎて近寄りがたい印象があり、結果的に新入部員はいないことになりそうである。ただ、面倒見のいいかなえ先輩が頻繁にアドバイスに来てくれ、すずね部長にとってはうれしい１年になるだろうと考えられる。すずね部長卒業後は無論たくみ部長の写真部ということになる。一人で元気よく部活紹介をしたのが功を奏し、４人の新入部員に恵まれ、写真部としては過去最高の部員数になる。創部したぽって部長は伝説となっていて、そのぽって部長が写真に写りこませる“たまゆら”の秘密解明も、たくみ部長の写真部の活動目標の一つになっている。“たまゆら”が写りこむときには必ず楽しい気持ちがそこにある。その楽しい気持ちを忘れずに写真を撮り続けること、それがぽって部長が作った写真部の伝統となっていくのである。