舞台の自治体と良い関係を作った作品 - たまゆらの感想

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たまゆら

5.005.00
映像
5.00
ストーリー
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キャラクター
4.00
声優
5.00
音楽
4.00
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舞台の自治体と良い関係を作った作品

5.05.0
映像
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
声優
5.0
音楽
4.0

目次

実在の地名がそのまま登場

「たまゆら」の舞台は広島県竹原市だ。主人公・楓(ふう)は中学時代まで神奈川県横須賀市汐入に住んでいた。主人公の祖父が暮らしていたり友達の実家の旅館があったりするのが大崎下島。作中では呉市や三原市、尾道市にも出かけていく。「たまゆら」ではすべての地名が実在する。

現在でこそ実在する地名を使う作品が多くなったが、OVA「たまゆら」が発売された2010年当時はそれほど例はなかった。実在の場所を舞台にすることはあっても、地名が変えられていたり発音は同じでも漢字が変えられていたりするものが大多数であった。地元の協力を得るなどの難しい問題もあるのだろう。

そんな中で実在の地名を登場させるメリットは、登場実物により親近感が涌くことである。このことでこの作品は“3度楽しめる作品”になっている。まずは純粋にストーリーを楽しむ。次に、聖地巡礼をして、作品中のそこであったエピソードを思い出しつつ感傷に浸ることができる。作品では実際の場所が細部にわたって細かく再現されているので、その場所にたどり着いた時の感慨はひとしおだ。そして、その後にもう一度作品を見直と、過日実際に行った場所で登場人物が話したり動いたりしているということで、より現実に近い存在として認識でき、また違った見方ができる。もちろん、3度だけでなく何度も繰り返すことで、より深くこの作品を味わうことができる。

「たまゆら」という作品は、実在の地名をそのまま出して成功を収めた草分け的な作品と言えるだろう。

舞台の自治体との協力

「たまゆら」の成功は、舞台の地治体の協力を抜きにして語ることはできない。特に竹原市では、たまゆら関連のいろいろなイベントを1日、あるいは2日間を通して行う「たまゆらの日」をこれまでに4回行った。また、もともと秋に竹原市で開催されている竹筒に火を灯して町並み保存地区を幻想的に彩る「憧憬の路」とも2回タイアップし、たまゆら関連の竹筒を展示した。

まだある。作品中に登場するねこの石像を商店街の真ん中に設置、さらに商店街の壁面をねこの色のピンクにし、店名を表示する看板もねこの輪郭をかたどったものにした。そして極め付きは、夏にこのねこをファンと共に敬い崇めるイベント「ももねこ様祭り」を開催。これも4回を数える。2016年、「たまゆら」は作品としては終わるものの、「2016年の第5回もできればやりたい」と商店会会長に言わせるほどになっている。これほど協力的な自治体は過去においてもほとんど例はなく、非常にありがたいことである。

主人公が中学時代までを過ごした横須賀においてもイベントは3回を数え、タイアップメニューの展開もあり、こちらもとても好意的であった。

どちらの自治体も、監督をはじめとするアニメ制作者がロケハンに行った時から良い関係を築き上げていったのだろう。”素晴らしいものを作りたい”という制作者の熱意が伝わった結果なのではないだろうか。

主人公たちの成長物語

自治体の快い協力には、ストーリーの良さという要素もあるだろう。激しい戦いが繰り広げられて町が破壊されるというストーリーでは快い協力はなかなか得られなかったであろう(それで成功した作品も後に存在するが)。

「たまゆら」は基本的には主人公・楓の成長物語だ。大好きだった父の死からなかなか立ち直れずにいた楓が友達や家族の何気ないふるまいからきっかけをつかんで、再び父の形見のカメラを手にするに至る。そのカメラで撮った写真を通して新たな友達や尊敬する人と知り合い、いろいろな出来事を経験する中で精神的に成長していく姿を描く。また、写真を通して起きる出来事によって今まで知らなかった父の様子を知ることができ、それを通して亡き父への想いも新たにしていく。この“写真を通して”というのがこの作品の重要な要素だ。タイトルの“たまゆら”は、楽しい気分で撮った写真にときどき写る光の玉のことだからだ。一見写真に関係ないように見える出来事も、元をたどれば必ず写真が関係している、という設定が見事だ。この作品中、父親はすでに他界していて登場はしてこないものの、その存在の大きさが窺え、むしろ作品の出来事を通してますます大きくなっていくようにも感じられる。

大事件が起こるわけでもなく、ゆったりと展開していく。その雰囲気が竹原という地の一昔前を感じさせる風景と相まって、落ち着きや懐かしさを感じさせる作品になっている。悪い人、意地悪な人は誰一人として出てこず、主人公を取り巻く人たちの優しさ、温かさがじんわりと感じられる作品だ。

さらに、主人公・楓の成長をメインにしながらも、同級生たちの成長もしっかり描いている作品でもある。友達関係や進路など、いろいろな問題に直面しながら、その経験を通して確実に成長していく。この悩める高校生の物語というのは、今後高校生になる子供は「高校生はこんな悩みを持つのか」と興味深く思いながら、また、過去に高校生だった大人は「自分にもこんな悩みを持った時代があったな」と懐かしみながら見る。このように、すべての人が何かを感じながら、安心してゆったりした気分で見ることができる、誰にでも自信を持って薦められる作品である。

このように、「たまゆら」という作品は、ストーリーの良さを基盤として、実在の地名を登場させることでより現実味を持たせることで登場人物への親近感をより強くさせ、舞台の自治体をも巻き込んだイベント活動によってもファンを拡大していった。多くの人に愛されている作品である。

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