ツッコミどころがあるから面白いキャプテン翼
短い尺ながら見どころがある作品
1986年の東映まんが祭りで公開されたキャプテン翼の劇場版である。この作品は最初に公開されたヨーロッパ大決戦から数えると4作目になる。2作目と3作目がやや1作目の勢いに比べるとやや内容が希薄な作品だったのに対し、テレビ放送版では描き切れなかった翼とロベルト本郷との再会を描くことで、この4作目は内容が濃いものになっている。
原作では中学の全国大会終了後、全日本チームが編成されて全日本ジュニアユース編が始まるのだが、アニメは全国大会の決着を持って終了したため、原作のユース編を補完する意味ではこの劇場版はファンには嬉しいものになった。
短い尺で世界のエースを登場させているため、ややエースの強さや凄さが描き切れていない面もあり、1作目のヨーロッパ大決戦の方が試合としては見どころがあるものの、ロベルトと翼の再会、松山と恋人美子の再会、南米選抜のサンターナの改心などキャラクターの内面に影響があるエピソードは、この4作目が一番よく描かれている。
ツッコミどころが多く、それを探すのが楽しい
世界のサッカー選手に影響を与えた「キャプテン翼」だが、この作品はリアリティに富んだサッカー漫画というよりは、実際にはあり得ないプレーなども多く、漫画だから楽しめる描写も多い。
ジュニアワールドカップでは、プレイそのものより設定にもツッコミどころが多く、子供の頃劇場でこの作品を観ていた時は気づかなかったが、大人になって見返すと「日本を勝たせたくて仕方ない」日本びいき設定が見え隠れして非常に面白い。
そもそも、国ごとのトーナメントではなく、日本とアメリカは単独国でチーム編成をしているのに、公開当時プロリーグがすでに存在しているドイツやブラジルなどの強豪国が、なぜヨーロッパ選抜、南米選抜など、単独国ではなく周辺国との連合チームになってるのだろう。
子供の頃はちっとも疑問に思わなかったが、これは手っ取り早く強豪のヨーロッパと南米を制圧するのに都合のいいチーム編成であることと、尺の問題があったのだろう。何やら大人の事情を感じる。あと、韓国や中国、ロシアなどのアジアをまるっきり無視しているのも、ジュニアワールドカップと言い切ってしまうのにはアジア勢に失礼かもしれぬ。
その上、翼はポルトガル語については留学に備えて勉強していたようなので、南米選抜のディアスがしゃべっている内容が理解できるのはともかく、ドイツ人のシュナイダーといつの間に通訳を介さず会話が可能になったのか。これも子供は突っ込むまいが、大人は突っ込みたくなる。
しかし、翼の中学3年の夏休みはどれだけ充実した夏休みなんだと呆れてしまう。留学が決まっている翼やエスカレーター式で進学が決まっている日向はともかく、受験を控えている3年生には、大変な夏休みになったろう。石崎が原作で公立に補欠合格だったという予備知識があると、サッカーが強くても公立高校の入試はそう甘いものではないと痛感する。
シルベスター・ルークは一体・・・
シルベスター・ルークは、ジュニアワールドカップのオリジナルキャラクターで原作には出てこない。
アメリカは今でも、大国にしてはサッカーよりも野球やバスケットというイメージのある国だが、序盤になにやらシルベスター・ルークという凄い奴がアメリカにもいるようだと匂わせておきながら、彼は全く活躍することなく日本に惨敗するモブキャラと化していた。
変に視聴者に過剰な期待を持たせる描写をすると、その後の描写が希薄になった際にどうしても手抜き感が出てきてしまう。苦戦したヨーロッパ選抜に南米選抜が勝つことを描くことで、ロベルト本郷の監督としての実力やチームの強さを描きたかったのは理解できる。しかし、かえってヨーロッパに南米が勝ったことは片桐さんからの伝聞とし、アメリカ選抜との試合は割愛、南米との一騎打ちにしてもよかったのではと思ってしまう。開催地をアメリカにしたのは、当時人気があった松山と恋人美子の再会をファンサービスとして描きたかったからとしか思えないのだが、どうしてもシルベスター・ルークの存在が蛇足的になってしまったのは惜しかった。しかし、描かれている期間は長丁場であるものの、実際の時系列としては松山と美子は空港で大袈裟な別れをしてから、1.2週間しか経ってないうちに再会していることになり、そう考えると早々に会えてよかったね・・・という肩透かし感も感じる。
早苗ちゃんが歌うロンゲスト・ドリームが感動
この作品では、恋愛エピソードは松山と美子の再会がメインで、全日本のマネージャーをしている早苗と久美は出ているものの、どちらかというと久美がキャーキャー言っている方が目立っており、早苗と翼の接触は全く描かれていない。(そもそも女子マネージャーの存在が必要なのかも疑問なのだが)
ロベルトと翼の再会こそが真に描きたいことなので、早苗は翼がロベルトのことをどう思っているのか、心情を心配する描写のみにとどまっている。
ヨーロッパ大決戦でも竹本孝之氏が歌うロンゲスト・ドリームには感動したが、ジュニアワールドカップではその曲を、早苗役の坂本千夏さんが担当している。ワールドカップを制するという翼の夢が、この作品では疑似的に叶う様な結末なのだが、その後翼の妻になって彼の夢を支えていく早苗がこの歌を歌うことで翼と早苗の未来を見事に暗示している。非常にラストの後味が良い作品である。
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