池井戸潤、異色の小説。 - ようこそ、わが家への感想

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池井戸潤、異色の小説。

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ストーリー
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目次

社会派作家、池井戸潤さんの異色の小説。

池井戸潤さんというと、社会派、企業小説が有名だと思います。TVドラマで大ヒットした「半沢直樹」の原作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」や、杏さん主演でヒットした「花咲舞が黙ってない」、他にも「下町ロケット」など、企業の中で正義を貫こうと戦う人達の物語だったり、零細企業の社長が社員と力を合わせて生き残りをかけて勝負に出るといったお話が多く、今も老舗足袋屋さんが会社の存続をかけてスポーツシューズを開発する「陸王」のTVドラマが放映されている真っ最中で、このドラマもこれまでの池井戸潤さん原作の上記ドラマ同様、高い視聴率を獲得しています。(私も楽しみに見ています。)

そんな池井戸潤さんが、家族・家庭内に起こった事件・問題を題材にした、いつもの作風と違う感じの小説を書かれたのが、この「ようこそ、我が家へ」です。本を買う前に後ろのあらすじを読んで、「あら?池井戸さんってこういう小説も書くんだな・・・。でも、面白そう。」と思いながらレジに持っていったのを覚えています。

意外だった内容。

しかし、意外だった内容ですが、一言で言うと、陳腐な言い方ですが、とても面白かった!まさに寝食惜しんで、寝不足になりながら、一気読みしました。

この物語の主人公はごくごく普通の、真面目なだけが取り柄のサラリーマン。奥さんがいて、息子と娘がいて・・・という一般的な家庭人です。なのですが、そのごくごく一般的な普通のサラリーマンが、ごくごく普通の幸せな生活を送っていたのに、”つい”という感じで、電車の中で割り込みした男を注意した事から、その男の逆恨みを買ってしまい、ずるずるお恐怖の蟻地獄へと飲み込まれていってしまうというお話です。

日常で、ふとした事から誰にでも起こりうる話で、それだからこそ物凄くリアリティがあって、怖さが身に沁みました。読みながら、「ああ、要らぬ事をして、見て見ぬぶりしてれば良かったのに・・・。」と多くの人が心の中”だけ”でつぶやくであろうセリフを、小市民の私は何度もつぶやきながら読んでしまいました。汗。主人公が特に正義感溢れた人ではなく、普段ならば黙って見て見ぬふりをしそうな男性だけに、そんな同じような人間の自分にも起こりうる事なのだと深く感じ、主人公に自分を重ねて読んでしまうからこそ、余計に怖いのだと思います。執拗に迫ってくる逆恨み男のストーカー行為が、本の裏にも書いてある本当に’身近に潜む恐怖’だけに、恐ろしさが半端無いのです。

しかも逆恨みですからね・・・。

ドラマ化。

そして、この小説は御多分にもれず、TVドラマ化されています。ドラマ化にあたって、主人公をお父さんから、その息子へと変えて、息子主体の話になっていて、嵐の相葉雅紀さんが主演しておられました。そしてお父さんは寺尾聡さんが演じられておられました。私は原作のこの小説のようにお父さんが主役の方が面白かったかな・・・と思いましたが、正直、小説を超えた映像作品というのは個人的にはあまり無いのですが・・・。なので、小説を読んだ後でも、小説は小説、ドラマはドラマで楽しめる内容ではありました。

池井戸潤さんの才能。

この作品は正に、池井戸潤さんの才能を”再”確認した作品だと言えると思います。何故なら、これだけ社会派、企業がらみの小説で大ヒットを連発している最中に、趣の違ったこういう小説を書き、しかも、それが一気読みさせてしまうほど、面白いのですから。

とはいえ・・・。主人公が会社の営業部長の不正疑惑を抱いた事で、窮地へと追い込まれてしまうという、池井戸さんお得意の企業小説の要素もちゃんと盛り込まれています。これまた、真面目で大人しい主人公が、花形営業部長に、不本意ながら意見せざるを得ない・・・と言う立場に追い込まれていきます。ある意味、そのお得意の企業小説の要素と、ごくごく普通の家庭人が追い込まれていく問題とを交差させている分、職場でも、プライベートでも、とことん追い込まれていくので、ダブル・ピンチで、さらに息つく暇ないエンターテイメントな小説になっているのです。

プラス、やはり唸らずを得られないのが、その会社での問題がこれまた深くぐいぐい物語に引きずり込まれる面白さで、なおかつ、ストーカー問題だけではなく、息子の仕事がらみでトラブルのあった男と絡まり合っていく点で、謎を随所に残していく点がまた「さすが!」という感じなのです。しかも、この息子の仕事がらみのトラブルも、実は逆恨みから来たものという救いようの無い、人の悪意の深さが嫌というほど盛り込まれており、人間の持つ闇の暗さは計り知れないな・・・と感じ入らざるを得ませんでした。

やはり池井戸潤さんの作品はハズレ無しに面白い。これがこの小説を読んだ結論です。今後も面白い小説を書き続けていかれるとますます確信し、楽しみになりました。

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