名作のなかの駄作なのか? - エイリアン3の感想

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名作のなかの駄作なのか?

2.52.5
映像
2.5
脚本
2.0
キャスト
3.0
音楽
2.5
演出
2.0

目次

なぜ酷評が起こったのか

SFホラー映画の金字塔とまで言われたリドリー・スコット監督の『エイリアン』、“今度は戦争だ”をキャッチコピーに、エイリアンと宇宙海兵の激戦を描いたジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』に比べ、『エイリアン3』は何かと酷評を受ける。

しかも不思議なことに、酷評しているのは往々にして熟練の『エイリアン』シリーズファンである。つまり、映画単品としてはつまらない訳ではないものの、“エイリアンシリーズ”としては評価出来ない、ということになる。

筆者もそこそこの『エイリアン』ファンを自称しているが、他のシリーズに比べ、『エイリアン3』はそれほど記憶に残らず、さほど面白いとも思わなかった。駄作ではないが、良作ではない。ただ消化するほどの作品、という感想を抱いている。

では、『エイリアン3』が何故ファンから酷評を受けるか、検証していこうと思う。『エイリアン』ファンの先輩諸氏の意見を借りながら、筆者独自の考察に挑戦したいと思う次第である。

問題その1・ヒックスとニュートの死

これはおそらく、『エイリアン』シリーズのファンにとっては満場一致、当然の批判であろう。ぶっちゃけ、筆者もその冒頭を観て、あまりの絶望感に続きを観る気をなくしたほどである。

前作『エイリアン2』で、リプリーが決死の思いで守り切った少女ニュート。そしてリプリーと共にエイリアンと立ち向かい、重症を負いながら生き残った海兵隊のヒックス伍長。アンドロイドのビショップさえもゴミのように捨てられてしまい、前作のファンにとっては悲しみの3乗である。

そもそも何故、彼らは死ななければならなかったのか?

『エイリアン3』の脚本がコロコロ変わったことは、ファンであれば誰もが知っていることであろう。その構想の中にはリプリーが登場しない話があったりと、企画段階においては必ずしも“『エイリアン2』の後日談”である必要がなかったことが浮かび上がる。

しかし、複数の脚本家を経て完成した『エイリアン3』では、二人とアンドロイドは死に、みたびリプリーが主人公となっている。

そして結果としてファンや制作陣からは非難を浴びてしまった訳であるが、この謎を解くには、シリーズ全体を通して『エイリアン3』を見通す必要があるだろう。

繰り返すが、『エイリアン』シリーズは、作品によって監督が違う。1作目、2作目と世界的巨匠によって作り上げられ、その続きとなるシリーズを作るにあたってのハードルが、とんでもなく高くなってしまったことだろう。

しかも、前二作を担当したスコット監督とキャメロン監督の方向性は大きく異なり、シリーズのカラー(個性、あるいはテーマ)は必ずしも決まっていなかったのである。スコット監督はエイリアンというクリーチャーの芸術的側面、さらに近未来SF的要素を押し出して『エイリアン』という海路を提示したが、キャメロン監督はそこに自身のミリオタという個性を加え、なおかつ監督としての天才的技量でもって新たな航海図を示した。

そこで続く3作目とは……となり、制作陣も途方に暮れたに違いない。なにしろ、2つの航海図の方向性は似ているようでまるで違う。『エイリアン』シリーズとは何か、とさぞや模索したに違いあるまい。

そこで制作陣は、人気シリーズを続けるにあたり、シリーズの向かう先――羅針盤(骨格、基軸)を作る必要に迫られた。

そして見出された基軸が、「リプリー」と「エイリアン」の永遠なる因縁の戦いだと筆者は思っている。

三作目を作るにあたり、一度は別の主人公を生み出すことも考えられたが、やはりリプリーがいなくては始まらない。そして、リプリーにはもうエイリアンと戦う理由がない(一作目では脱出のため、二作目では自分の悪夢と決着をつけるために戦っていた)。そのため、リプリーは再びエイリアンとの戦いの舞台に引き戻されてしまったのであろう。小型船の不時着と愛する者たちの死、エイリアンクイーンの母胎という3重の悲劇を余儀なくされて。

ファンの中には、『エイリアン』シリーズとは“リプリーの孤独”がテーマになっているという人もいる。その孤独を演出するため、シリーズを続けるために、ニュートたちは邪魔者となってしまったのかもしれない。

問題その2・SF的要素の減少

『エイリアン3』不人気の理由として、SF要素が少なくなったことも挙げられるだろう。

『エイリアン』シリーズはSF的要素へのこだわりについても有名である。特に『1』が段トツだろう(ちょっと話が飛ぶが、PS4で発売された『エイリアンアイソレーション』というゲームで、ノストロモ号の内部を主観視点で探索することが出来る。ゲームのなかで宇宙船の中を歩くと、とんでもなく精巧な作りに改めて驚かされる。今から30年前によくこんな設定思いついたなー、と小学生のような感想を言ってしまいたくなるほどだ)。

そんなエイリアンシリーズの「設計士」たるリドリー・スコットには及ぶまいが、キャメロン監督の未来の武器設定も相当にハンパない。パルスライフルやバスケスが持つスマートガンのはちゃめちゃなカッコ良さについて、同意してくれるファンは多いだろう。

更にさらに、『4』は固形型ウィスキーや車いす搭載のマシンガンなど、オタクの遊び心満載で、見ていてワクワクテカテカ、通称ワクテカになってしまう。オタクの筆者は『4』について盛大なえこひいきをしてしまうので、これ以上取り上げるのはやめておこう。

それら“兄弟”に比べて、『3』はSF的要素があまりに少ない。

溶鉱炉や流刑地たる惑星など、SFと言われればそうなのだけれど、ぶっちゃけ、別の惑星だとか、未来である必要すら感じないほどだ。基本的にはずっと籠った刑務所の中で暮らしたり逃げたりしているだけで、画面映えもしない。ついでにキャラクターに華がない。SF映画の見どころの一つに、女性の社会的変化というものも少なからず関わっていて、1ではリプリー含めた女性航海士の存在、2では男より強いバスケス、4では運送屋とかなりアクティブになっているのだが、3では地球上の設定をそのまま移して男性だけの刑務所とかアナログ仕様だからまたつまらないのだ。どうせ未来が舞台なんだからもっとはっちゃけて設定作っちゃっていいのに。キャメロン監督を見習ってほしい。

総括

だが、これらの他とのシリーズ比較は、優秀すぎる上二人の兄弟に負けた弟、のようなものにも感じる。SFファンにとっては物足りずとも、一般的なファンにとっては「あ、そうなんだ」とポカン顔をしてしまうほどの差異にも思う。

『エイリアン』シリーズに限らず、世界的な人気シリーズは2作目を作るのが難しく、非難が殺到するものだ。『エイリアン3』も、根っからの駄作という訳ではなく、天才に挟まれ目立たなかった凡作、のように思えばいいだろう。北斗三兄弟に挟まれたジャギだと思えばなんのその。

現在、また新たな『エイリアン』シリーズが始動していると情報も入り、次はいったいどんな個性を持った『エイリアン』シリーズの兄弟が生まれいでるのか、注目したい。

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